夏祭りに行こう!〜004を誘わない〜

       「いいや、なんでもないんだ。」
       009は、そう答えた。004は、ふ〜んと言って首を傾げた。
       「本当に?」
       「え!?う、うん。・・・・なんで?」
       「なんでって・・・・。」
       そこまで言って、004は今度はう〜んと唸った。
       「なんか、額に縦皺が発生してたしなあ?人間ってやつは、結構真剣な悩み事を考えている時に縦皺が
        できるってのが、俺の持論なんだ。」
       「・・・・・そうかな?そんなに縦皺寄ってたのかなあ?」
       009が今度は首を傾げた。尋ねられて咄嗟になんでもない、とは言ったものの004を夏祭りに誘い
       たいのは事実なのだが、なんだか言い出しにくくなってきてしまった。
       ------------それにしても、悩んでいたことが君を夏祭りに誘おうかどうか迷っていたんだと言った
       ら笑われるかもしれない・・・・。
       なんとなく、絶望的に考えてしまう009であった。


       一方の004は、009の七変化に困惑をしていた。009は結構表情は豊かである。但し仲間内限定
       のきらいはあるのだが。仲間以外には、ポーカーフェイスである。微笑みのポーカーフェイス。この時
       迄004はポーカーフェイスというのは、唯むっつりとした顔が崩れないというものだと思っていた。
       しかし、表情が動かないという点では009の微笑みは見事だ。絶対に崩れないのだから、大したもの
       だとは思うが、反対にこの若さでポーカーフェイスが板についていると思うとやはり可哀想に、とも思
       う。009と同じ年の002のくるくる変わる表情が、この年の少年には相応しいと思う。自分もその
       002にやれ表情が無いだの、顔が固まっているだの、挙句の果てには顔全体の筋肉が木で出来ている
       とまで言われたものだ。今でも他の人間に対してポーカーフェイスっぽいのも自覚はしているが、それ
       は自分が年というものを重ねてきたのもあるだろうし。009の年には自分だってもっと表情が豊かだ
       ったはずだ。
       とはいえ、今自分の前に立っている009は珍しいくらいに表情がコロコロと変わっている。額に縦皺
       を刻んでなにを悩んでいるのかと思えば、自分を見た途端ぱあと顔が明るくなった。どうしたと訊けば
       いきなり焦った表情で話題を変えてくる。それが、あまりにも見事に話題を変えてくるので蒸し返して
       みれば、今度はほえ!?という感じで目をパチパチさせた。そして何かあるのは確実なのに、なんでも
       ないと言う。こういうやり取りは意外と007が得意なのだが、あいにくと彼は遠いイギリスの空の下
       である。何故か考え込む009は、突然赤くなったり青くなったりしている。何だか、もう良いかと思
       ってしまった。
       「悪いな、ジョー。なんだか混乱させてしまったようだな。」
       「え?・・・え・・えっ?あ・・・ううん、そんなことないよ?」
       009が慌てて言ってくるが、004は苦笑してもう良いんだと伝えた。
       「じゃ、俺ちょっと自分の部屋に行って休んでくるわ。じゃあな。」
       「え・・・・・あ・・・うん、ゆっくり休んで。」
       「どーも。」
       004はなんだか胸にモヤモヤしたものを抱えたまま、009に背を向けた。


       ------はああああああ・・・・僕って馬鹿。
       009は見事なほどに落ち込んでいた。やっぱりさっき誘っておけば良かったと、後悔する。004は
       きっと縦皺を刻ませていた自分を見て、とても心配したのだろう。とても大変な悩みでも抱えているの
       かと。それが蓋を開けてみれば、当の004を夏祭りに誘うかどうかを迷っていたなんて、とても言え
       なかった。思わず廊下にしゃがみこむ。そしてのの字を書く009の落ち込みは、003が見つける迄
       続いたのであった。


       がちゃ
       003に驚かれてから自分の部屋に逃げこんだ009であったが、流石に夕方になってきたのでリビン
       グに降りてきてドアを開けた。そこには、004が新聞の夕刊を広げて熱心に読んでいた。銀色の髪が
       少し赤みを帯びた太陽の光に、キラキラと光っている。思わず見惚れてボーッと立っていると、004
       が顔を上げた。
       「よう、どうした?そんなとこに突っ立って?」
       009は、ゆっくりと微笑みながらリビングに入る。
       「ん〜?アルがとても綺麗だからさ、ちょっと見惚れてた。」
       ズル、と004がソファからずり落ちた。
       「お前ねえ、前から言ってるがそーいう言葉はもっと綺麗なお嬢さんにでも言ってやれ!」
       「えー?そんなことないよ、アルは美人じゃんか。」
       「まったく、お前だけだよ。そんな酔狂なこと言うのは。」
       「僕だけじゃないよ、フランソワーズもだよ。」
       「・・・・・・・・・・・・・・・。」
       「ジェットだって言ってたじゃないか。」
       「あれは、お前とフランソワーズが脅迫したからだろ、そう言えって。俺の目の前でさ。」
       「あれ、そうだっけ?」
       「とぼけやがって、ジェット泣いてたぞ?」
       「嬉し泣きじゃないのかなあ?でも誰が見たって、アルは美人だよ。それは僕が保障するからv」
       「はあ、もう大人をからかうなって。」
       そう言って、004は笑った。・・・・・・・今なら言えるかもしれない。



       何も言わない

       004を夏祭りに誘う