【イントルーダー/怒りの翼】
製作年 1990年、米
監督  ジョン・ミリアス
出演  ブラッド・ジョンソン ダニー・グローバー ウィレム・デフォー
【あらすじ】
 1972年、ベトナム上空で作戦を終え空母に帰還しようとしていたA−6イントルーダーに一発の銃弾が偶然に当たり航法/爆撃士が亡くなってしまった。悲しみに暮れるパイロットのグラフトン中尉(ブラッド・ジョンソン)に上官のカンパレリ中佐(ダニー・グローバー)は上陸許可を与える。上陸後、同僚の未亡人に会いに行くがすでに姿はなくキャリーという女性が引っ越しの手伝いをしていた。しかたなく、仲間たちとバーで飲んでいると乱闘騒ぎが起こり、他の店に避難すると再びキャリーに出会い恋に落ちる。彼女には娘がいたがパイロットの夫は撃墜され行方不明になっていた。空母に戻ったグラフトンは経験豊富なコール少佐(ウィレム・デフォー)と組み対防空網制圧の任務に就くことになった。敵への攻撃は続くが、味方の犠牲も増える一方で親しかったボックスマンの機も敵のミサイルで撃墜された。効果のない爆撃を繰り返しても埒があかないとみた2人は、爆撃禁止令が出ていたハノイの本部を爆撃し大規模なミサイル基地を粉砕した。当然のように2人を待っていたのは軍法会議だったが、判決が出る前にニクソン大統領が無制限爆撃を決意したため2人の行動は不問に伏されることとなった。しかし、謹慎処分となった2人はカンパレリ中佐自らが出撃する大規模攻撃を見守るしかなかった。カンパレリ中佐の乗機が被弾し不時着したことを知った2人は、救出に向かうが撃墜され緊急脱出した。深手を負ったコールは自らを犠牲にして敵をおびき寄せ空爆を友軍に要請し戦死した。グラフトンとカンパレリは駆けつけたヘリでかろうじて救助された。
【解説】
 監督のジョン・ミリアスも多くの映画人を育てた「レッド・バロン」の監督ロジャー・コーマンのもとで修行を積んだ人で、そのつながりでフランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」の脚本も手掛けている。ショーン・コネリー主演の「風とライオン」(75年)や日本で高い評価を得た青春映画「ビッグ・ウェンズデー」(78年)といった力作もあるが、本作品や「地獄の7人」(83年、製作)「若き勇者たち」(84年)などでタカ派のイメージが強い監督でもある。ダニー・グローバーはリーサル・ウェポンシリーズでのメル・ギブソンとのコンビが有名だが、「バット21」(88年)「ダンボドロップ大作戦」(95年、ビデオのみ)といったベトナム戦争を舞台にした作品にも出演している。キャリー役のロザンナ・アークエットは、芸能一家の出身で兄弟も俳優となっておりパトリシア・アークエットは妹である。多数の女優のインタビューで構成されたドキュメンタリー映画「デブラ・ウィンガーを探して」(2002年)を監督し注目されている。
 グラマンA−6イントルーダーは、1963年から部隊配備が始まった全天候型攻撃機で、最大で8tの爆弾を積むことが出来て「メンフィス・ベル」に登場するイントルーダーよりはるかに巨大なB−17の5.4tを大きく上回っている。太めの機首にはレーダーアンテナが装備され、闇夜や霧の中でも超低空を亜音速での侵攻を可能にしている。パイロットと航法/爆撃士の座席は珍しく並列になっている。着陸時には翼端の補助翼が上下に開きエア・ブレーキの代用をはたしており本作品の空母への着艦時に見ることが出来る。
 映画にも出てくるように自らを守る兵器は装備していなかったため、敵の戦闘機に襲われたらチャフやフレアといった囮弾を放出して上手く逃げるしかなかった。コール少佐と組んで最初に行う対空防衛網制圧任務とは、自らを囮にして敵の対空火器や対空レーダーを逆探知して対レーダーミサイルで攻撃するアイアンハンド(空軍ではワイルドウィーゼル)と呼ばれる危険な任務で、湾岸戦争でも開戦劈頭にイラク軍の対空火器の制圧を行っている。
 イントルーダーは1996年には全機引退したが、A−6の胴体を延長し各種ジャマー(電波妨害)装置のオペレーター席を2席追加し4人乗りとした電子偵察機EA−6Bプラウラーは2010年までは運用される予定である。
 ラスト近くで登場するダグラスA−1スカイレーダーは、ジェット機が優勢だったベトナム戦争では珍しいレシプロ機だが、低速の利点を生かし救難任務などによく使われた。エンジンはB−29爆撃機にも使われていたライト・サイクロンR−3350と強力なため、単発機にもかかわらず3.6tもの爆弾を搭載することができ、多彩な搭載武装で対地攻撃に威力を発揮した。
 登場する空母はインディペンデンス号で、通常動力型フォレスタル級4番艦として1959年に竣工した。ベトナム戦争にも参加し、長らく横須賀を母港にしていたミッドウェイ号に代わり1991年に配備されたが、1998年にはキティーホーク号と交代し、現在は退役している。