【砲艦サンパブロ】
製作年 1966年、米
監督  ロバート・ワイズ 
出演  スティーブ・マックィーン → ブリット 栄光のル・マン
     リチャード・アッテンボロー マコ キャンディス・バーゲン
【あらすじ】
 1926年、ジェーク・ホルマン(スティーブ・マックィーン)一等機関兵は、砲艦サンパブロ号に赴任するため上海にやってきた。赴任先まで行くフェリーで宣教師ジェームソンとその娘シャーリー(キャンディス・バーゲン)と出会う。サンパブロ号に到着すると、艦の運営は中国人に任されておりジェークは驚く。機関室を仕切っていたチェンが事故で亡くなると、コリンズ艦長は後釜を育てろとジェークに命令する始末である。ボー・ハン(マコ)を後任に決めて育成を始めるが、共産軍に捕まり船の前で拷問にあってしまう。見るに見かねたジェークは狙撃して絶命させた。
 中国の混乱が激しくなるなかで、サンパブロ号は、水位が下がって身動きできないまま越冬することになった。ジェークの唯一の友フレンチー(リチャード・アッテンボロー)は中国娘メイリーを身請けしたため、艦から泳いで抜け出すが、ジェークが隠れ家に行くと肺炎で亡くなっていた。そこに暴徒が襲い、メイリーは殺され、ジェークは犯人にされてしまう。翌日、艦にジェークの身柄の引き渡しを要求する一団がやってくるが、艦長は拒否し、水位が上がったこともあり出航命令を出す。
 サンパブロ号は宣教師ジェームソン救出のため川を遡り始めるが、途中、中国側の封鎖部隊との間で激しい戦闘になり、双方に死者がでる。伝道所に到着するが、中立の立場を堅持するジェームソンは引き揚げを拒否する。しかし、中国側の追っ手によりジェームソンや艦長は射殺され、シャーリーを逃がすためジェークも犠牲になってしまう。
【解説】
 監督のロバート・ワイズといえば「ウエストサイド物語」(61年)、「サウンド・オブ・ミュージック」(65年)などのミュージカル映画の大家と思われがちだが、「地球が静止する日」(51年)、「アンドロメダ…」(71年)などのSF、「砂漠の鼠」(53年)、「深く静かに潜航せよ」(58年)などの戦争映画、「ヒンデンブルグ」などのスペクタクルも手掛けており広範囲なジャンルを取り扱う職人的な監督だった。もともと編集者の出身で、オーソン・ウェルズのもとで「市民ケーン」(41年)、「偉大なるアンバーソン家の人々」(42年)などの編集を手掛けている。実は「サウンド・オブ・ミュージック」の監督は当初ウィリアム・ワイラーだったが降板し、本作品の映画化を条件に監督を引き受けており、「サウンド・オブ・ミュージック」がアカデミー作品賞や監督賞など5部門を受賞したという知らせは、この映画のロケ中に届いた。当時、アメリカはベトナム戦争が激化しており、間接的に批判しているこの社会派作品は是が非でも撮りたかったようだ。20世紀フォックスのダリル・F・ザナック社長も前向きで、彼が総指揮をとった戦争大作「史上最大の作戦」(62年)を上回る予算が本作品には投じられている。
 中国人女性と恋に落ちる水兵を演じたリチャード・アッテンボローは、今では監督としての方が有名だが、「ガンジー」(82年)ではアカデミー作品賞など8部門に輝いている。マックィーンとは「大脱走」(63年)に続いての共演である。中国人の機関助手を演じたマコこと岩松信は、神戸の出身でこの映画がデビュー作だが、貴重な日本人のハリウッドスターとして「タッカー」「ロボコップ3」(93年)「セブン・イヤーズ・イン・チベット」(97年)、「パールハーバー」(2001年)など多くの映画で顔を見せている。
 本作品に登場する砲艦は河用砲艦と呼ばれるもので、喫水も浅く平底になっていた。この当時の揚子江(長江)には上海租界の居留民保護を名目に日本、イギリス、フランス、イタリアなども砲艦を送り込んでおり、遠く三峡を越えて四川省の重慶まで遡る砲艦もあった。外洋は航海できないため欧米の砲艦は、原地で製造するか、分解して貨物船で持ってくるかのどちらかだった。アメリカも本作品の背景となった時代には、上海の造船所で建造した6隻の河用砲艦を派遣していた。日中戦争が始まった昭和12年(1937年)の12月、日本海軍機の誤爆でその内の1隻パネー号が撃沈される事件が起き、日本側は賠償金を払っている。太平洋戦争が始まると米英の砲艦は駆逐されて日本の砲艦の天下になったが、終戦になると全て中国側に接収されている。
 撮影に使われた砲艦は香港で製作され、ロケがおこなわれた台湾の基隆(キールン)まで回航された。ジャンクやサンパンといった中国特有の船もわざわざこの映画のために製作されている。メカ好きのマックィーンは、実際に航行できるサンパブロ号の機関に習熟し、周囲を驚かせている。人付き合いよりエンジンの方が好きという役柄ははまり役と言えよう。