【ブリット】
製作年 1968年、米
監督  ピーター・イェーツ
出演  スティーブ・マックィーン → 砲艦サンパブロ 栄光のル・マン
     ロバート・ボーン ジャクリーン・ビゼット
【あらすじ】
 サンフランシスコ市警のブリット警部補(スティーブ・マックィーン)は、実力政治家のチャルマース(ロバート・ボーン)から直々にロスという証人の保護を依頼される。ブリットは仲間と交代で見張ることにしたが、若手刑事が当番の時、殺し屋に襲われロスは瀕死の重傷、若手刑事も足を撃たれた。駆けつけたブリットは若手刑事からドアのロックはロスが開けたことを聞き不審に思う。病院に運ばれたロスを狙って再び殺し屋が押し掛けるが、ブリットらの機転で事なきを得る。しかし、ロスは治療のかいもなく死亡する。ブリットは主治医に頼みロスが生きていることにして死体を密かに運び出す。捜査を続けるブリットの車を殺し屋が付け狙うが、逆に追われる立場になり激しいカーチェイスとなる。殺し屋は散弾銃で応戦してきたが、ハンドルを切り損ねガソリンスタンドに突っ込み爆発炎上した。
 手がかりを失ってしまったが、聞き込みの結果モーテルにロスの女がいることがわかり駆けつけるがすでに殺されていた。ブリットは女の持ち物から殺されたロスは別人で、本物のロスが女を殺し外国へ高飛びしようとしていることを突き止める。空港に赴くと、連絡を受けたチャルマースも駆けつけロスを逮捕したら引き渡すようにブリットに詰め寄るが、にべもなく断わる。ロスを乗せたジェット機は飛び立つ寸前だったが呼び戻され、ブリットが機内に駆け込むと、ロスは後部のドアから飛び降り滑走路を横切って逃げていった。後を追うブリットはごった返すロビーに紛れ込んだロスを見つけだし、銃で応戦してきたため止む終えず射殺した。
【解説】
 今では当たり前となった刑事アクションとカーチェイスの組み合わせの原点となった作品で、実際の刑事たちの間でもマックィーン演じるブリットのファッションが流行したほどの影響を与えている。監督のピーター・イェーツは英国出身で映画界に入る前にはカーレース関係の仕事に従事していたこともあった。
 スティーブ・マックィーンの父親は「華麗なるヒコーキ野郎」にも出てくるバーンストーマーで、彼が生まれて間もなく蒸発してしまった。母親は再婚するが継父と折り合いが悪くマックィーンは不良となり、少年院送りになる。出所後、様々な肉体労働を経て海兵隊に入るが素行はおさまらず「大脱走」(63年)の役柄のような営倉入りも経験している。除隊後、演劇に目覚め修行を積んだ後名門のニューヨーク・アクターズ・スタジオに入校し反逆児から一転して将来有望なエリートに変身する。58年のTVシリーズ「拳銃無宿」で人気者になると映画に進出し、「荒野の七人」(60年)「大脱走」でスターの座を確立した。レーサーとしてもプロ並みの腕を持っていたマックィーンは、本作品のカーチェイスシーンでもほとんど自らハンドルを握っているが、ロスの坂をジャンプしながら下るシーンは「大脱走」でマックィーンの代わりにバイクでフェンス越えのジャンプを行ったスタントマンのイーキンズが代役している。
 本作品の音楽を担当したラロ・シフリンはジャズをベースにした作風で知られ、他に「スパイ大作戦」のテーマや「ダーティーハリー」(71年)「燃えよドラゴン」(73年)などのアクション映画の音楽を多く手掛けている。
 マックィーンの愛車マスタングは、フォードの副社長だったリー・アイアコッカが押し進めるコンパクトカー戦略の一環として開発され、1964年にデビューした。廉価での販売を予定していたため開発費は切りつめられ60年に発売されたフォード・ファルコンのパーツ設計が流用された。マスタングとは米中西部に生息する野生馬のことだが、第二次世界大戦の傑作戦闘機P−51マスタングにあやかる気持ちもあったという。販売のスペシャリストだったアイアコッカの宣伝戦略が功を奏し、爆発的な売り上げを記録し幅広いユーザー層に受けるスポーツカーとして新しいジャンルを開拓した。撮影に使われたのは68年型マスタング・ファストバック・390GTで、トレードマークのフロントグリルのエンブレムやフォグランプは取り外されている。
 「007/ゴールドフィンガー」にも64年型コンバーチブルが登場するが、圧巻は「007/ダイヤモンドは永遠に」(71年)で、71年型マッハ1がポリスカー相手に激しいカーチェイスを繰り広げている。ポニーの愛称を持つマスタングはアメリカを代表する車種に成長し、生誕30周年の94年に5代目が登場し現在に至っている。
 殺し屋が運転している車はダッジ・チャージャーで、アメリカで盛んなストックカーレースでよく使われる車である。ジャクリーン・ビゼットの愛車は65年型ポルシェ356カブリオレで、356はフォルクスワーゲン・ビートルがベースになっているのでよく似ている。