【ジャガーノート】
製作年 1974年、英
監督  リチャード・レスター 
出演  リチャード・ハリス → カサンドラ・クロス
     オマー・シャリフ アンソニー・ホプキンス
【あらすじ】
 英サザンプトン港を出航したブリタニック号に7つの時限爆弾を仕掛けたという電話が海運会社に入った。”ジャガーノート”と名乗る犯人は、50万ポンドを要求し、脅しでない証拠として小規模な時限爆弾を爆発させた。ただちに、ファロン中佐(リチャード・ハリス)率いる海軍の爆弾処理班が召集され、パラシュートで降下するが、あいにくの荒天で隊員1名を失ってしまう。一方、この船に妻子が乗っている警視庁のマクラウド警視(アンソニー・ホプキンス)は犯人の絞り込みを必死におこなっていた。時限爆弾の入ったドラム缶のふたが開けられワイヤーを切断していくが、ブービートラップに引っかかりファロン中佐の片腕だったチャーリーが爆死してしまう。無念の臍を噛んだファロン中佐は、「犯人に金を払え」と叫ぶとブルーネル船長(オマー・シャリフ)の部屋でやけ酒を煽っていたが、船長の説得で気を取り直し再び作業に取りかかる決意を固める。
 焦っているマクラウド警視は、身代金を受け取りに来た男を逮捕するが、ある男に頼まれただけで顔も知らないという。男が捕まったことで爆弾犯は交渉をうち切ってしまった。作業を再開したファロン中佐は、爆弾の仕組みに見覚えがあることに気付き、自分の上官だったバックランドを呼ぶようにと無線でロンドンの対策本部に連絡した。はたして、バックランドの自宅からは船のパンフレットなどが出てきて真犯人であることは疑う余地もなかった。本部に連れてこられたバックランドは、時限装置の解除方法を白状するが、ファロン中佐はその言葉を信じてよいものか迷ってしまう。
【解説】
 監督のリチャード・レスターといえば、ビートルズ主演の「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」(64年)、「HELP!四人はアイドル」(65年)が有名なのでイギリス出身と思われがちだが、生粋のアメリカ人で成人してから渡英し、テレビなどの仕事をしてから業界に入っている。本作品はチャールトン・ヘストンらが出演した「三銃士」(73年)と「四銃士」(75年)の間に発表されているのだが、実はその2作は一本として製作されたもので、一本分のギャラしかもらっていなかった俳優たちとかなりもめたらしい。
 主演のリチャード・ハリスは、アイルランドの出身でデビュー作が「メリー・ディア号の難破」(59年)の航海士役ということもあり、「戦艦バウンティ」、「ハワイ」(65年)、「オルカ」(77年)などでも海の男を演じている。1981年にはナイトの称号を与えられ、最近では「ハリーポッター」シリーズの魔術学校校長を茶目っ気たっぷりに演じていたがシリーズ終了を待たず亡くなっている。
 撮影に使われたのはソ連のマキシム・ゴーリキー号で、1989年マルタ島でのブッシュ大統領とゴルバチョフ書記長とが冷戦終結を宣言した米ソ首脳会談の会場としても使われている。ミニチュアやセットはほとんど使わずロケも船内でおこなわれており、音楽もないドキュメンタリータッチの映像が緊迫感を盛り上げている。
 実在したブリタニック号といえば、あのタイタニック号の姉妹艦として知られている。この船はタイタニック号の遭難事故を受けておこなわれていた改装工事中に第一次世界大戦が始まり、病院船として英政府に徴用され、1916年触雷のため沈没しているが、改装工事がものをいい大多数の人が助かっている。結局、ブリタニック号は客船として一度も就役することはなく生涯を閉じている。
【北大西洋航路・その1】
 海の幹線であるヨーロッパと北米を結ぶ定期航路は、帆船によって始められた。これらの定期船は、現在では情報通信の用語として使われているパケット船と呼ばれていたが、1840年、カナダ出身のキュナードが外輪蒸気船での運航を始めた。この当時の蒸気船は帆装備も持っていたので純粋な汽船による定期運行とは言えなかったが、だいたい11日ほどで2つの大陸を往復していた。キュナードの成功を見てアメリカのコリンズ・ラインも運行を始めた。英船籍のキュナードの船がクリミヤ戦争で徴用されるとコリンズの独占状態になるが、立て続けに事故を起こし信用を失ってしまい復帰したキュナード社に客を奪われ倒産した。汽船による定期船はライナーと呼ばれるようになり、船体も木造から鉄に、外輪もスクリューへと進歩した。北大西洋を最短で横断した定期船にはブルー・リボンの称号が与えられるのだが、19世紀後半になると進展著しいドイツの定期船がキュナード船からこの称号を奪い取り、イギリスは国を挙げて対抗する新造船の開発に着手する。(続く)