【沈黙の戦艦】
製作年 1992年、米
監督  アンドリュー・ディヴィス 
出演  スティーブン・セガール → 暴走特急
     トミー・リー・ジョーンズ ゲーリー・ビジー
【あらすじ】
 退役するため最後の航海に出た戦艦ミズーリ号が、パーティー係としてヘリで乗り込んできたストラウス(トミー・リー・ジョーンズ)たちに占拠された。実は、彼らは元CIAのテロリストで、副長のクリル中佐(ゲーリー・ビジー)が手引きしており、艦長は彼の手で射殺された。コックとして乗り込んでいたケーシー・ライバック(スティーブン・セガール)はクリル中佐により監禁されていたが、抜け出して緊急無線で海軍の対策本部に状況を報告した。
 ストラウスらは、ミズーリ号に搭載している核搭載トマホークミサイルを持ち出すべく用意を始めた。ライバックは、ストラウスらといっしょに乗り込んできたプレイメイトのテイトを助けると、一味が乗り込んできたヘリを爆破した。いらだったクリル中佐は、乗組員たちを閉じこめている艦首部に注水するが、わずかの加勢を得たライバックは、反撃し注水バルブを止める。特殊部隊がヘリでやって来るが、一味が強奪した潜水艦から発射された誘導ミサイルで撃墜されてしまう。
 テロリストらが潜水艦に戦艦のトマホークを移し替えていると、ライバックは即席爆弾で潜水艦の横舵を作動不能に陥らせる。しかし、自身も傷ついてしまい殺されそうになるが、テイトに救われる。潜水艦は応急処置をして潜航しようしたので、ライバックらは戦艦の主砲に慌ただしく砲弾を装填すると発射した。潜水艦はクリル中佐共々撃沈され、怒ったストラウスは、核トマホークをハワイに向けて発射した。ライバックは格闘の末ストラウスを倒し、核トマホークに自爆の信号を送った。
【解説】
 「沈黙」シリーズ第1弾にして最大のヒットとなった本作品で、スティーブン・セガールはアクションスターとしての地位を確固たるものにした。キレた悪役演技では双璧のトミー・リー・ジョーンズとゲーリー・ビジーが相手でも、セガールの強さは相変わらずである。
 監督のアンドリュー・ディヴィスは、撮影監督の出身でセガールのデビュー作である「刑事ニコ/法の死角」(88年)も監督している。本作品の次に撮ったハリソン・フォード主演の「逃亡者」(93年)も大ヒットさせアクション映画監督としての力量を認められた。
 ストラウス役のトミー・リー・ジョーンズは、ハーバード大学出身でフットボールの全米代表選手というこの業界に入ったのが不思議なくらいの経歴の持ち主である。「ある愛の詩」(70年)がデビュー作だが、その後は脇役が多く長らく芽がでなかったものの「JFK」(91年)あたりから注目されるようになり、「逃亡者」で演じたジェラード警部役でアカデミー助演男優賞を受賞した。以後は「タイ・カップ」(95年)、「メン・イン・ブラック」(97年)などの主演作が続いている。
 戦艦ミズーリ号といえば、太平洋戦争の降伏調印がおこなわれたため学校の教科書にも載っているくらい日本ではおなじみの戦艦である。当初、調印式は戦艦ニュージャージ号でおこなわれる予定だったが、トルーマン大統領が自分の出身州名を冠したミズーリ号に変更させたという裏話もある。
 ミズーリ号は、アメリカ最大にして最後の戦艦となったアイオワ級4隻の内の3番目の艦として1944年に竣工した。アイオワ級はよく戦艦大和と比較されるが、基準排水量は大和が6万4000トンでアイオワ級より2万トンも重い。主砲も大和が46pなのに対して40.6pである。ただ、全長はアイオワ級の方が270mと大和より7m長く、細長い船形のため水の抵抗も少なく巡洋艦並の33ノットの速力を誇っていた。アメリカの国力を考えれば大和をはるかに凌駕する戦艦が建造できたのだが、アメリカの艦船には、大西洋と太平洋の両方での運用を図るためパナマ運河が通航可能な船幅32.2m以内という制限があり無条件で巨大な艦船を建造するわけにはいかなかった。ちなみに現在、パナマ運河が通航可能な幅32.2mの貨物船やタンカーの船型のことをパナマックス型と呼んでいる。
 ミズーリ号が完成した頃には、大艦巨砲の時代が終わっていたため、主な任務は艦隊の護衛と艦砲射撃だったが、朝鮮戦争が終了した1955年には予備役に編入された。レーガン大統領の掲げる「強いアメリカ」のスローガンの元に1986年に現役に復帰し、1991年の湾岸戦争では艦砲射撃のほか、新たに装備したトマホークミサイルも発射している。本作品にもあるように1992年には退役し、現在は、記念艦としてハワイの真珠湾でアリゾナ記念館の隣に係留されている。
 本作品の中で空撮で登場するのは正真正銘の戦艦ミズーリ号だが、ロケがおこなわれたのはアラバマ州モービル湾で記念艦となっているサウス・ダコタ級アラバマ号である。