【暴走特急】
製作年 1995年、米
監督  ジェフ・マーフィー
出演  スティーブン・セガール
【あらすじ】
 ロッキー山脈を走る豪華列車がハイジャクされた。傭兵集団を率いるデインは元CIAの衛星技術者で、自分が設計した粒子ビーム砲搭載の”グレイザー1号”の制御を列車からおこない、手始めに中国の化学兵器工場を攻撃した。たまたま乗り合わせていた元SEALSのケイシー・ライバック(スティーブン・セガール)は、潜伏しことの成り行きをうかがっていたが、携帯情報端末を使ってベイツ提督に連絡した。衛星の司令センターでは”グレイザー1号”を破壊しようとするが、デインの巧妙な攪乱術で”グレイザー1号”の位置を探知することが出来ない。デインは国防総省の地下にある原子炉を攻撃目標に定めると、司令センターはパニックに陥った。ライバックは列車の屋根づたいに機関車まで行くが、銃撃戦になり負傷する。なんとか生還したライバックは、客室乗務員のボビーを使って衛星を制御するCD−ROMを盗ませるが、再び銃撃戦になりライバックは断崖絶壁に投げ出され、CD−ROMは取り返されてしまう。ライバックは車で追跡して列車に飛び乗るが、列車は本線を離れガソリンを満載した貨物列車と正面衝突するコースを取り始めた。
 ライバックから連絡を受けたベイツ提督は、首都を守るためやむおえずステルス戦闘機で列車を破壊するように指示するが、デインはステルス機まで衛星で攻撃し撃墜した。ライバックは、敵の隙を見て人質を解放するが、同乗していた姪のセーラは、存在を知ったデインにより拘束されていた。ライバックは一味をことごとく倒しセーラを救い出すと、衝突寸前の列車からかろじて脱出した。
【解説】
 主演のスティーブン・セガールには「沈黙」というタイトルがついた作品が多いが、第一作の「沈黙の戦艦」に登場していたケイシー・ライバックが再登場するのは本作品だけである。セガールはアメリカのデトロイト出身だが、17才の時来日し大阪で英語のアルバイトをしながら合気道などの武術を修め、帰国した後、ロスアンゼルスでマーシャル・アーツの道場を開くと共にアクション映画のコーディネータも手掛けるようになった。自ら持ち込んだ企画が映画化され「刑事ニコ/法の死角」(88年)でデビューした。15年も日本にいたため当然日本語(しかも関西弁)も達者で、日本の女性と結婚して出来た息子と娘は、俳優として日本のTVドラマやCMに出演している。
 登場する豪華列車は、車体の色や走るコースなどからゴールデン・イーグル・レール・ジャーニー社が運営する「サンタフェ・エクスプレス号」がモデルと思われる。アメリカにもカナダと同じように旅行会社が運用する列車が走っているのだが、この列車はその内でも最も豪華といわれている。コンパートメントの内張にはふんだんに木材が使われており、シート座席は革張り、ラウンジカーにはグランドピアノも置いてあり、食堂車でハープの演奏を聞きながらフルコースの食事をする、といった具合に実に贅沢な旅が出来るようになっている。この列車は「大陸横断超特急」にも登場していたアムトラックの「サウスウエスト・チーフ号」と同じ旧アチィソン・トペカ・サンタフェ線を使って、ロスアンゼルス〜ニューヨーク間をたっぷり時間をかけて運行されている。
 アチィソン・トペカ・サンタフェ鉄道といえば、19世紀にイギリス出身のフレッド・ハーヴェイにより、沿線の各駅に清潔なテーブルと銀の食器、豪華なメニューをそろえたアメリカ初のレストラン・チェーンを始めたことで知られている。このレストランでは「ハーヴェイ・ガール」と呼ばれる美人ウェートレスが給仕をしてくれるというので、西部の男たちの人気をさらったそうだ。実際、西部は女性の人口が圧倒的に少なく彼女たちは求婚されることも多かったため、採用される際の契約条項には一年以内での退職には給料の半額を違約金として支払うという項目まであった。また、彼女たちを題材にして映画化されたのがジュディ・ガーランド主演のミュージカル「ハーベェイ・ガール」(46年)で、主題歌のその名も「♪サンタフェ鉄道」はアカデミー主題歌賞を受賞したため日本でもよく耳にすることがあるが、映画は日本未公開のままである。当時は横断鉄道会社が複数存在し、旅客の奪い合いにしのぎを削っていたので他の会社も食堂車を連結するなどして対抗した。また、主要な乗り継ぎ駅では移民をなんとか自分の鉄道の沿線に誘致するため、斡旋人が誇大な宣伝をおこなったが、いった先が不毛の土地であることはよくある話だった。このチェーンも鉄道旅客の減少には勝てず1960年代には姿を消したが、現在でも沿線には「ハーベェイ・ハウス」と呼ばれた駅舎と一体のレストラン兼ホテルがいくつも残っており、往時をしのばせている。