<はじめに>

 音楽を聴くという行為の前の一手間。部屋を片づけ、コンポの調整をし聴く環境を整える。音楽と向き合うまでに些細な努力を積み重ね、結果的に心にガツンとくるロックミュージックが出現したとき、それまでの苦労もなんのその。ただただその音楽に感動するばかり。

 これってすごく幸せな瞬間だと思う。今よりも気持ちよく聴きたいという向上心はとても重要で、音の変化を追求する強力な原動力になる。ライブで体験したものと同一の音を出す、同一の感動を再現するのは無理だとしても、形を変えて感動できればそれでいい。この時「儀式的な行為」を行うのと、そうでないのとでは、自ずと音質や臨場感・作品の感触が変わってくる。音楽を聴く行為としての儀式は、もっと大切にされていいのではないか?

<音楽は文化なのだから>

 音楽は文化の一つであるわけだから、今まで以上に「気持ちいい音」で聴く努力があっていいだろうと思う。どこでも手軽に音楽を聴くことができるようになったけれども、やはり腰を落ち着かせて自分の安らぎの空間で音楽は聴いて欲しい。それがマイカーという人もいるだろうし、ヘッドフォンステレオという人もいるだろう。

 しかし文化というからには、やはり音楽を聴くまでの一連の行為(ワビ・サビ)があって初めて音楽は文化になる(聴く側の文化という意味)のではないか。テクノロジーの恩恵を受けて手軽に聴けるという利便性は否定しないが、住まう場所=安らぎの空間=日常の生活舞台で音楽に浸れたら、その時間と空間は最高に贅沢な過ごし方であると言える。真に文化を享受していると実感できるのではないか。

 音楽を聴くという行為にもう少しデリケートになれたなら、これは人間性の回復・発展にもつながるのではないか。

<醍醐味を堪能したい>

 あらゆるジャンルの音楽の中でも、ロックはひときわメッセージ性が強い。メッセージ性は何も言葉だけで語られるのではなくて、リズムやメロディなどの力を借りることでさらにパワーアップしていく。ロックの醍醐味はそういうところにあるし、それが時代と強力に結びつくことでより意味を持った作品へと成長していく。そんな時代性を孕んだロックミュージックを、生かすも殺すも聴く人次第だということを肝に命じておく必要がある。

 故に、再現性に優れたもしくは聴き劣りのしないコンポ(オーディオシステム)の登場が必要不可欠だといえる。

<醍醐味を味わうなら・・・・・>

 醍醐味を味わうとしたら、アンプ&CDプレーヤー&スピーカーの3点セットで15〜20万円程度が目安ではないか。一時期のブームは過ぎ去った状況にあるだろうが、ハイコンポはセパレートに比べてもリーズナブルで、デザインに統一感を持たせる事ができる利点がある。また、音質に関してもメーカーによって色合いは違うものの十分に音楽として楽しめる範疇にあるといえる。

<かっこ良く見せようと思うなら>

 スピーカーだけ別のメーカーにするのもいい。「BOSE」なら量販店でも手に入れることができるだろうし「JBL」や「INFINITY」また、UK物なら「B&W」や「TANNOY」などは十分に日本国内で手に入れる事が可能だ。ペアで3万〜6万円前後で購入出来るシリーズもあるからインターネットなどで情報を収集したらいい。さらに、スピーカーケーブルを付属品(紅白のケーブル)から変更するだけでも十分かっこいい。つまり、こだわりが見た目で出せればかっこいいという事になる。

<ロックミュージックに最適なコンポ>

 洋楽ロックを聴くのに最適なコンポってあるのか。聴く環境も、聴いている音も千差万別、ひとり一人違うので決定打はない。しかしアプローチの仕方によっては<それらしく聴く>ことが可能だ。

 モニター的に聴きたいのか、低音重視でいくのか、空間表現に優れた音をめざすのか、官能的に聴きたいのか、などスピーカーにも表現の得手不得手があるから、そこを上手に利用してやれば「それらしく聴く」ことができる。

 だからまず、自分の耳で試聴し確認することをお薦めしたい。気持ちいい音にするための第一歩も、自分の耳で試聴し確認しなければ意味がない。これだけ有名な米国BOSE製品も、あなたにとっては「好まない音」かもしれないからだ。

<使いこなしが肝心>

 かっこ良く(センス良く)みせることもロックの醍醐味の一つだといえる。それでは、コンポの類を購入したらすぐに気持ちいい音が出せるかというとそんな事はありえない。CDラジカセやミニコンポに比べたら格段に音はいいし味わいも出てくる。

 しかしながら、どのようなオーディオシステムであっても、使いこなし(暖気運転やエージングなど)とセッティングが最重要なのはいうまでもない。金持ちの道楽で終わるのか、音楽を趣味とする人間である続けるのかは、この行為にかかっているといえる。

<もう少しハードに投資したなら・・・>

 ソフトあってのハードなわけだが、ソフトを生かすためにハードや環境面で多少なりとも投資をすることは決して無駄なことではない。投資をする場合もいろいろなコンポを試聴することをおすすめしたい。このとき必ず長らく愛聴しているお気に入りのCDを持参すること。同じ作品でもコンポによって評価は絶対にかわるからだ。

 購入当初は「高い買い物をした」と思うかもしれないが、ながい目でみれば必要十分な買い物だったと思うに違いない。ほぼ毎日聴くことを考えれば、毎日気持ちいい音で聴けるなんて幸せの極み。時間が無くたまに聴く場合であっても十分に心を潤してくれる音楽が鳴り響くわけだから、どちらの場合にも必要な投資であったといえる。

 問題にすべき点を上げるとすれば、それほど音楽を聴かないのに、所有しているとかっこいいと思って購入した場合。それは不必要な投資であったと言わざるを得ない。使い慣れてきてもう少し違う音で聴きたいと思うようになったら、スピーカーケーブルやスピーカーそのものの交換を視野に入れてもいい。値段が高ければ「気持ちいい音がする」という考えは捨てておくこと。責任を持って自分の耳で確認するべし。

<洋楽雑誌編集者が聴く音って・・・>

 編集者はどのようなオーディオシステムで聴いているのだろう。「CDラジカセ」や「ヘッドフォンステレオ」「ミニコンポ」「ハイコンポ」「セパレートコンポ」それとも「パソコン」か?。

 ロッキングオンの連載「激刊 山崎」では、以前に山崎編集長のオーディオ講座と共に最後の行で編集部員のオーディオが紹介されていた。このとき読んで思ったのは、「劣悪な再生システムで聴いているんだなあ」という事だった。「聴く時間が無い」からとか「ロックにいい音は必要無い」とか「精神性がもっとも重要」なんだというような考えが、仮にあるとするならばそれはロックとアーティストと作品を愚弄した発言と受け取らざるを得ない。クラシックやジャズを聴くことは高尚な趣味で、ブランデーやワイン片手に優雅な一時を過ごす。ロックミュージックにいい音は必要ないし、アーティストの精神性こそが最も重要なんだと認識しているのではないか。

 しかしロックはメッセージ性(アーティストの精神性含む)の強い音楽で、それは何も言葉だけで語られるのではないし、リズムやメロディなどの力を借りることでさらにパワーアップしていくという事を考えれば、やはり劣悪な再生システムではアーティストの精神性や音楽性を味わうという段階、そして理解するという段階までは行きつかないだろうと思う。本当に音楽として楽しめているのだろうか?

 同じアルバムを購入しても、オーディオシステムの違いから明らかに情報量に差がでる。貧弱なオーディオシステムでアルバムレビューをしていたらア−ティストの精神性しか記事にできないだろうと思う。

<関係者に望む>

 どの洋楽ロック雑誌の編集者であっても、音楽を聴くことも仕事なのだからそれを再生する装置であるコンポくらいはしっかりしたものを所有して欲しいと思う。編集部員の場合には社内に試聴室があって当然だという認識を持った方がいい。なければ要求する。要求してだめなら1人1台パソコンの時代なのだから、編集部員には1人20万円程度のコンポを貸し出す必要があるのではないか。※そういう意味では音楽評論家の方々も設備投資は怠りなくしてほしい。

<洋楽とオーディオ>

 ボクが洋楽を聴くようになったそもそものきっかけは、作品への憧れからではなかった。それは「このコンポで聴いたらどんな音で音楽を聴かせてくれるんだろう」という、どちらかというとハード(再生システム)よりの憧れからだった。再生システムを意識しだしたのは18才くらいから。社会人になって一定の収入が得られるようになってから夏冬のボーナスをつぎ込んでひと揃え。その当時はまだ、好みの音などというのは無かったに等しいので、お店で試聴して店員の薦めなどもあって購入したという具合だった。

 いっぺんに大金をはたいた訳ではなかったが、それ相当の金額だったので気楽な買い物ではなかった。もちろんこんな大金をつぎ込んだ買い物などこれまで一度も無かったし、その時は一生の買い物をしたという思いでいっぱいだった。

 定価で購入したとするなら、アンプ41万円、CDプレーヤー15万円、スピーカー1本13万円×2、スピーカースタンド2本で6万円くらいだったと記憶する。総額78万円(消費税3%別)の品物を、実際には67万円くらいで購入したことになる。

 これだけ大金をつぎ込んだのだから音が変化しない訳がない。それまでPIONEER「セルフィ」を使用していた僕は、デザイン的には「月とスッポン」状態、音質は「雲泥の差」、個人的には「ブタに真珠」という具合だった。※もちろん音の満足度は日増しに高まっていった。

<洋楽を聴くきっかけ>

 洋楽は邦楽に比べて音がいい。洋楽を聴かないなんてもったいないというような情報をどこかでつかんだのがきっかけで、洋楽を聴くようになった。初めて聴いたのは、アイルランドの歌姫ENYAの「WATER MARK」。いきなり洋楽CDを購入するほど情報も持っていなかったので、以前新聞記事で読んだ「U2」を思い出し、レンタルCDでU2の「ACHTUNG BABY」を借りた。

 最初の洋楽ロック体験はこんな感じだった。R.E.Mのアルバム「MONSTER」を聴いて感動し、間違ってPEARL JAMのアルバム「VITALOGY」を購入してしまったなんていう経験もあった。今は、良いアルバムだと思っているが、その時はほんとがっかりしたのを覚えている。NIRVANAのカート・コバーンが猟銃で自殺して、ツアーをしていた彼らは急遽スタジオに籠もって制作したという逸話のあるアルバムなだけに、「あぁなんて暗いアルバムなんだ」と思いながら何回か聴いてラック行きになってしまったように思う。

 しばらくして洋楽ロック専門誌を立ち読みするようになり、一時期は定期的に購入して情報を得たりしていた。オーディオ専門誌(小学館サウンドパル休刊)も購入して音楽とオーディオの情報を両方まんべんなく吸収しようと思っていた。

<終わりに>

 音楽をどの様な環境で、音で聴こうがそれはその人の勝手なのだが、どうせ聴くなら自分にとって気持ちいい音で聴ければ、それがベストだと思う。気持ちいい音を知らないという人も洋楽ロックを聴く人の中には数多くいると思う。音がいい方向に変われば大好きなアーティストの作品のとらえ方も変わってくる。作品の解釈もアーティストが意図していることも、もっと理解できるようになるかもしれない。

 オーディオへの興味を抱きいくらかでも投資をすれば、少なくとも現状の音よりはいい方向へ向う。ようは投資をする気になるかどうか。ハードよりもソフトにお金を使いたいと思う人間の方がはるかに多いだろうが、これを読んでいる人には是非、オーディオへの投資も考えてもらいたい。

 コンポによって表現能力が異なるのはわかっていただけたと思う。ミニコンポとハイコンポで当然音質は違うし、ハイコンポ同士でも味わい深さや個性で作品の雰囲気が違って来る。上を目指そうと思えばきりは無いが、音楽を聴く道具としての最低ライン。この最低ラインを底上げしてもっといい音・気持ちいい音で聴くことができたら、もっと音楽性が豊かになると思う。

 現状の音に満足しない生き方を洋楽ロックを聴く人たちにはして欲しいなあと思う。こんな思いがこのHPを作らせる原動力になったし、音楽はもっと気持ちよく聴けることを知って欲しかったのでした。