16.「エコ電線」は環境によいか・・・ 2002.6.19
 
いくつかのメーカが、「塩ビを使わない製品」を作ろうとしています。塩ビが環境に良いか否かは、一般的には議論の分かれるところだと思います(参考:14.塩ビは環境に悪くない?!)。しかし、対象を絞ると比較的判断がしやすくなります。たとえば「塩ビ電線」を他のプラスチック電線に変更することは、場合によってはむしろ環境に悪い可能性があります。
塩ビと関係が深いメーカに勤めていらっしゃるT.Mさんからのメールをご紹介します。皆さんはどのようにお考えになるでしょうか。とくに、エコ電線を作られているメーカの方、またエコ電線を採用しようとされている環境先進企業の方の意見が聞いてみたいです。
応答がなければ、それも意見だと考えますが・・・・ご意見をいただけないでしょうか?!
「エコ電線」は環境によいか・・・ご意見編

最近、S社、M社、R社を筆頭に、彼らの環境理念なるものに腹を立てています。
(中略)
私は、塩ビ産業に携わってきました。高分子材料は金属、セラミックと共に、私たちの社会に絶対に必要なものです。誰が何と言おうが、その事を誇りに思って仕事をしてきました。S社、M社、R社は、塩ビがあるお陰で、仕事ができることを自覚せずに、わが社の製品には塩ビは使いません、なんて言うのは止めてもらいたい。
(中略)
LCA研究室の、LCAを用いた環境影響尺度について、の中で原単位が不適切な例として説明されているエコ電線についての意見を述べます。
LCAは考えれば考える程難しいなと思います。私は、限界計算*)をすることで割り切ってはと思います。
  *)現状を改善する目的であることをした場合に、変化した部分のみ抜き出して計算し、比較する。
    正確な比較ではないが、改善効果の判断には使える。
それは横に置いといて、エコ電線と従来の塩ビ電線との比較で、元データの取り方が不適切であると説明されています。いや、良くぞ指摘していただけたと喜んでいます。参考文献23)は、レジンの製造プロセスの知識の無い人達によって為されていることは、わかる人がみれば直ぐ気が付く。エコ電線はエコでないことは、深い知識が無くても気が付かねばならない代物。それを後で書く理由で、無理に作って、国が作る建物の屋内配線に使用を義務付けてしまった。多分その建物は漏電事故のリスクが相当高くなっているはずです。
まず、エコ電線の原料PEは特殊グレードです。Mg(OH)2を重量比で等量混合しなければならないのですからこれは大変なことです。大体、Mg(OH)2とPEなんて最高に混ざりにくいもの、それを半々混ぜるのですから。しかも、絶縁材料として必要な物性を維持しなければならない。微細粒子の均一混合をやり遂げなければならない。
微細になればなるほど、表面エネルギーが増し、凝集しやすくなるから大変、で、PEの方を相当工夫する必要がある。こんな時は、PEに極性基を持ち込むしかない。方法は、酢酸ビニルかアクリル酸エステルの共重合体にすること。ところが、この共重合が大変なのです。大雑把に言って、生産性は、通常の70〜60%程度に落ちてしまう。これだけで、エコ電線の原料PEの製造工程における環境負荷は跳ね上がるのです。
更に、酢酸ビニルまたはアクリル酸エステルの製造工程の環境負荷(エチレンより必ず大きい)を加味しなければなりません。PEの製造工程のLCIデータは汎用グレードのもので、最も環境負荷の小さいケースです。エコ電線用の原料PEの環境負荷を汎用グレードの数値を使い生産性の悪化分のみ修正しても40%増になる。エコ電線の欺瞞を打ち破るにはこれで十分と考え、私はこれ以上やってません。厳密にやれば酷いことになっているはず。
更に、エコ電線は塩素を含んでいないからリサイクル(サーマルリサイクル)できます、と言っている。何を言うか、
廃プラの燃焼はどれほどのハンディを背負うかまるで解っていない、それはともかく横へ置いて、半分が灰(MgO)になるような物、誰が燃すかね。しかも、エコ電線はMg(OH)2を混合しているため比重が塩ビ電線と同じになり、年間約4万トンもリサイクルしている使用済み塩ビ電線被服材に混ざってくると、それができなくなってしまう。折角リサイクル(電線→電線です)しているものを邪魔するのです。
いいことは一つも無い。しかも、製造コストは約2倍である。だから国の工事でしか使えない。民間では絶対にやらない。税金の無駄使いをチェックする国民の監視機構がないからできること。
もう一つ心配なことは、Mg(OH)2は強アルカリ、空気中のCO2と反応して、本来の機能を喪失するはずでこれがチェックされていない。材料物性論的にも、大きな問題がある。PE特に酢酸ビニルやアクリル酸エステルの共重合体になると、その性質が強調されるのだが、クリープ変形しやすくなる。力を加えつづけると変形するということである。電線が曲げられたり、何か別のものに押し付けられたりしていると、やがて変形して銅線が剥き出しになるということです。
塩ビはクリープが最も少ない汎用プラです。水道パイプは設計圧の3倍の圧力を掛けてクリープ破壊に至る期間を50年に設計し保証してある。2倍だと1000年である。私は本当に1000年(ローマの水道と同じ)持つと思ってます。
近々古い水道管を掘り出して50年経過したパイプの物性評価をする計画があります。ともあれ、エコ電線が家電、情報電子機器や自動車のハーネス電線にも使われようとしている。かれらはそれなりに物性と価格バランスのチェックをするとは思うが、馬鹿はしないでくれよと祈るばかりである。
最後に、エコ電線が何故生まれたか、その背景。ダイオキシン騒動が理由です。それも、いかにも官僚的なのです。産廃で最大の問題は建築廃材、不法に焼却されている。で、これが対策に取り組んでいることを示したかった。何かないか、と思って、塩ビ系建材(含む電線)の非塩ビ化を呼びかけ、電線メーカーがこれに答えた、ということです。これは、所沢ダイオキシン騒動が起こる前の話です。その後この事件がおきて、益々おかしくなった。
(中略)
ダイオキシン、フタル酸エステルの毒性についても解説書を書きたい思いはあるのですが、毒性に関しては自分の専門外ですから、書きにくいですね。水俣病の水銀問題、いたいいたい病のカドミウム問題は両方とも医師によって最初に告発されました。日本人の悪い癖で、マスコミも行政側も、学界ですら、この医師達をこれらの問題の権威者にしてしまい、全ての判断をこの人達に委ねてしまいました。ために、水銀もカトミウムも、それぞれの専門分野から改めて仔細にみるとおかしい所があります。だから、知っていても、専門外のものについて言及しないのが学者(ではありませんが)の見識と思っています。
環境問題で、日本は再び同じ間違いをしています。環境問題の権威者に祭り上げられているのは、圧倒的に分析専門家です。分析専門家=環境専門家=毒性専門家=環境対策専門家になっています。
だから、今の環境対策は間違いだらけです。大体、中央省庁の専門委員会に環境保護団体の代表が委員になり、直接かかわりのある分野の専門家がいない、なんて、よその国ではあり得ないですね。
専門、非専門で一寸余計なことを書きました。環境省の専門委員会が余りにも出鱈目なので腹を立てているのです。
しかし、個人のHPは全く別で、言論の自由を大いに主張して良いでしょう。だから、いずれ、ダイオキシンとフタル酸エステルの毒性に関する資料を送ります。
(後略)
下線は伊藤が追加

環境問題を解決するには、広い視野を持って総合的に考えることが重要です。
私達が生きている現在だけではなく、子や孫たちが住む未来を。
私達の地域だけでなく、ほかの人たちが住むの地域を。
私達、人類だけでなく、あらゆる生物たちのことを。
そして、部分的な改善ではなく、総合的な解決を。

最近、多くの分野で、「周りがそう言っているから」、「世の中が望んでいるから」という理由で、何が正しいのかといったことに耳を貸そうとしない傾向が目立ちます。議論を尽くさなければ、広い視野と総合的に考える力は生まれません。塩ビ廃絶を推進する方、あるいは推進しようと考えられる方は、是非反論をお寄せください ・・・・
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