向こう側
ときどき、どうしようもないくらいに「向こう側」へあこがれる。その、「向こう側」に明確な対象があるわけではないにも関わらず、こことは違う時間と空間が、頭の中に広がっている。否、それは時間や空間すらも持っていない。単なる概念といって良いのかもしれない。
どこでもない場所に、誰でもない自分がいる。人込みの中、時間に押し流されながら、ふと立ち止まってそんなことを考えている。平行線のように決して交わることはないが、いつまでもいつまでも、すぐそこにある「向こう側」に、どうしようもない憧憬を憶える。