5月になって風炉の季節になると、灰型が茶事の準備の中でも大きな部分を占め るようになります。昔から灰型など、自分で作るものが好きだったので、あまり苦にならなかったのですが、本当の灰型とは何か知りたくて、2年ほど前から青 山グリーンアカデミーで灰型の勉強を始めました。当然基本的な灰型の形について勉強し、格好良く作れるようになりたいと思ったわけですが、ま ず最初に日に灰型の基本的な考え方を改めねばなりませんでした。「灰型は火が良くおきるように」。当然の事が一番難しいのは、利休居士が言われています が、これは一番最初に考えることです。
そして次に、「灰を固めてはいけない。灰の中に空気を残して灰の熱伝導を悪くし、保温性を増 して炭の火が良くおきるように、また熱を直接風炉に伝えにくくして風炉を保護する必要がある」ということでした。灰型が出来上がり、先生に見ていただく と、最後に灰匙をぐさりとあちこちに差し込まれます。先生の作られた灰型では灰匙が柄の近くまですうっと下がって行きますが、私の場合は、1cmぐらい下 がると止まってしまうことがしばしばあります。形を整えようとして何度も灰匙で灰を押し付けた結果です。
灰が固まってしまうと、炭に火が付いていても熱が逃げてしまい、消えやすくなり、また熱が直 接土風炉に伝わり、漆が割れてしまうということです。思えば多くの土風炉の底の漆にひびが入っていました。またその上に敷いた奉書は当然の事ながら焦げて います。まず灰を良くかき回して空気を入れ込み、その空気を抜かないように灰型を作るのが最も重要だといわれました。
一番良くわかるのが、煙草盆の火入れの灰です。火を入れる前に火入れをあたためておくと立ち 消えしませんが、その前に灰をよく篩い、保温性をよくすることが一番重要です。
浅草の町で、火鉢の灰をさがしていた時、店の人に瀬戸物の火鉢かそれとも木製の長火鉢かと聞 かれました。木製の場合には、藁灰などでは焦げてしまうので、珪藻土等でなければならないということでした。これも熱伝導度の違いです。
原子炉の燃料の場合にも熱伝導度は非常に重要な役割を果たします。ウランやプルトニウムなど の金属は酸化物にして固めます。それを茶碗と同じように高温で焼結し、金属の管(被覆管)に入れます。この焼き固めたものをペレットと言いますが、このペ レットの密度が、燃料の熱伝導と密接な関係があります。燃料の場合は、熱伝導度が悪いと燃料の中の温度が上がり過ぎて、中からガスがでて来て都合が悪いの で、密度を高くして熱伝導度をあげるようにします。いま日本で主に使われている軽水炉では、96.5%ぐらいにしています。
一方もんじゅ等の高速増殖炉では長く燃料を燃やすので、スウェリングというペレットが膨らん でくる現象が起きる為、ペレットが膨らんでも良いように密度を下げておきます。もんじゅでは85%ぐらいです。このようなペレットでは、熱伝導度が悪い 為、燃料の温度も高くなってしまいますが、それでも燃料が溶けたりしないように設計するのが重要な課題となります。
私はこの燃料の設計を20年以上続けていましたが、お茶で使う灰の密度が温度を伝えないよう にする為に重要であるとは、指摘されるまで気がつきませんでした。言われてみればもっともなことです。どちらも同じ自然現象を使っているのですから。