蹲踞(つくばい)の選択

蹲踞については、昔からぜひやりたいと言う思いがあり、それを実現する機会を じっと待っていて、やっとその機会が訪れたと言うのが実感です。

ふつう蹲踞はそれに相応しい石を丸くくりぬいて作ってあります。しかし私にはいかにすばらし い石であっても、くりぬいた丸い穴を見ると、「人間の手を加えた」というあとが歴然としていて、好きになれませんでした。

竹の筒からちょろちょろと水が流れ落ちるところを見て、いつも脳裏に浮かぶのは、小学校にあ がる前、4年間過ごした疎開先の岐阜の山の中の風景です。川幅十数メートルの川に向かって、両側から山が迫る中、段々畑の田圃や畑の間に木の皮葺きの屋根 の家があり、その裏手には裏山から何十メートルも竹の樋で引いてきた水が、石垣の間から木の桶に注いでいました。その水で顔を洗い、炊事をし、長い時間か けて五衛門風呂に水を溜めていました。その水源は岩の間から沸き出した清水です。竹の樋と岩と水、この中には人手をかけて丸くくりぬいた石は入り込めませ ん。やはり自然に水のたまる石が必要です。

5年ほど前、長野の武石村の石屋さんを覗いた時、惚れ惚れする様なくぼみを持った大きな自然石があるのを見つけました。その時は別荘の石灯 篭をさがしていただけであり、また茶席を持つ事が出来るなどとは夢にも思わなかったので、もし万一茶席を持つ事が出来たら、必ずこの石を蹲踞に使うと心に 決めて、5年が過ぎました。

今回露地を設計するにあたって、まずその石を置く事を考え、おそるおそる値段を聞いたとこ ろ、東京まで運んでも箱付きの茶碗の値段と替わらないと知り、飛び上がって喜んだ次第です。それがこのトップページを飾っている蹲踞です。そしてこの石を 中心に手燭石、湯桶石、乗石、飛び石などの図面を書いて武石の石屋さんに見繕ってもらった結果、今の露地が完成しました。

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