(10/16修正):都市ガスの算出で重大な誤りがあったため、結果(表4と図2、図3)を修正しました。


 皆様の「食器洗いに関する調査」の回答データを使って手洗いと食器洗い乾燥機の比較(LCA)を算出いたしましたのでご報告いたします。調査へのご協力ありがとうございました。

食器洗いに関する調査票  調査結果とコスト評価  LCAの結果(その1) LCA結果(その2)

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手洗いと食器洗い乾燥機のLCA結果比較(その1)

 まず計算で考慮している範囲を図1に示します。両者の主な違いは、食器洗い乾燥機の製造〜廃棄プロセスの有無です。両者を比較するにあたっての注意点を以下に列記します。

  1. 両者で食器の乾燥の有無、殺菌の効果の違い、仕上がりのきれいさなどの違いがあるが、これらを評価しない。
  2. 手洗いの場合は人間の労力を必要とし、また食器洗いにかかる時間も異なるが、これらを評価しない
  3. 手洗いの場合は照明や空調が必要な場合があり、また食器洗い乾燥機の場合は台所スペースをいくらか消費しているが、これらを考慮しない
  4. 食器洗い乾燥機は、新機種ごとに性能が向上しているが、ここで示すのは2001年6月におけるスペックを用いている。
  5. 両者共にすぺてのプロセスは日本国内を想定している。
  6. 手洗いは、人によってあるいは状況によってかなり大きく変動することが考えられるが、ここでは下記に示すモデルを想定し、4人分の食器を一回洗う場合で比較した。
  7. 本事例は、いかなる商業目的も有さず、学術的な目的においてのみ使用する。



図1 手洗いと食器洗い乾燥機の考えている範囲(ライフサイクルフロー)

 ここで、食器洗い乾燥機の価格、スペック等は、今年6月に市場に出ていた表1の5製品の平均的仮想機械を想定して算出しました(最大食器処理数は4人分と考えて、価格、スペックを調整)。仮想機械のスペックを表2に示します。また、LCAを算出するために用いた主な仮定を表3に示します。本事例は、食器洗い乾燥機の使用状況や手洗いのやり方によってかなり結果が異なってくる可能性があるため、あくまでモデルに従って計算した場合であることを念頭におく必要があります。

表1 考慮した食器洗い乾燥機の一覧
メーカ:機種 最大食器処理数 備考
S社:DW-S2000 5人分
T社:DWS-32BX 5人分
N社:NP-40SX1 6人分
T社:EUD300 6人分 ガス併用
H社:JW-10C3 3人分 ガス併用

表2 平均的な仮想機械のスペック
売値 食器点数 処理数 水使用量 洗剤 電力 ガス 重量 ランニング費用
スペック 55,712円 27点 4人分 11.6L 4.4g 5.4円 0.413kWh 248kcal 2.9円 13.9kg 21.0円

表3 算出に用いた主なモデル・仮定
手洗いの主な仮定
4人分の食器(はし等も含めて40点)を一般家庭で手洗いする場合を想定する。食器洗いに下記の水道、ガス、洗剤を使用する。
31.00 L :水道使用量
52.13 L :手洗いガス使用量(都市ガス13A)
7 ml :手洗い洗剤使用量
食器洗い乾燥機の主な仮定
4人分の食器(はし等も含めて40点)を一般家庭で手洗いする場合を想定する。食器洗い乾燥機を使う前に、洗剤を使わずに水だけで予備的に洗浄する。食器洗いは年間365日x3回使用すると仮定する。寿命とメンテナンス費用は、かなり不確定要素が高いが環境負荷にはほとんど影響しない。
5 L :食器洗い乾燥機を使う前洗浄に使用する水量
15,000 :食器洗い乾燥機取り付け費用
10 :食器洗い乾燥機の寿命
1095 回/年 :食器洗い乾燥機の年間使用回数
30,000 :食器洗い乾燥機のメンテナンス費用(3年に一回修理して一万円かかるとした場合)
5,000 :食器洗い乾燥機の廃棄費用

 今回のLCAを実施するにあたって、どのデータが重要かを調べた結果を表4に示します。手洗いのモデルで示した水道使用量とガス使用量が大きく影響していることがわかります。

表4 LCA結果に対して影響が大きなデータ一覧(抜粋)
(LCA結果とは食器洗い乾燥機のインパクト統合値から手洗いのインパクト統合値を引いた値とする)
順位 要素値 単位 要素名称 感度 ばらつき
影響度
影響度割合
割合 累計
1 31 L :手洗い水道使用量(推定モデル) -1.54 153.96 16.00 16.00
2 52 L :手洗いガス使用量(推定モデル) -1.47 147.34 15.31 31.31
3 0.412 kWh :食器洗い乾燥機:消費電力量(仮想機) 1.42 142.09 14.77 46.08
4 124 円/m3 :ガス代:日本電気工業会標準 -0.48 48.04 4.99 51.08
5 2.864 :食器洗い乾燥機:ガス消費量(仮想機) 0.37 37.06 3.85 54.93
6 129 g-C/kWh :電力産業連関方式平均:CO2(化石)排出量 0.32 31.79 3.30 58.23
7 0.75 g−NO2/kWh :電力産業連関方式平均:NOx排出量 0.28 28.04 2.91 61.15
8 5 L :食器洗い乾燥機を使う前洗浄に使用する水量 0.25 24.83 2.58 63.73
9 1.70E-13 /kg :インパクト係数:二酸化炭素排出量 0.25 24.58 2.56 66.28
10 9.10E-11 /kg :インパクト係数:硫黄酸化物排出量 0.24 24.45 2.54 68.82
12 0.65 g−SO2/kWh :電力産業連関方式平均:SOx排出量 0.23 23.20 2.41 73.69
14 9.41E-11 /kg :インパクト係数:窒素酸化物排出量 0.22 22.48 2.34 78.37
15 1095 回/年 :食器洗い乾燥機の年間使用回数 -0.17 16.65 1.73 80.10
19 7 ml :手洗い洗剤使用量(推定モデル) -0.12 11.70 1.22 85.61
20 10 :食器洗い乾燥機の寿命 -0.17 9.99 1.04 86.65
21 11.6 L :食器洗い乾燥機:水消費量(仮想機) 0.26 9.98 1.04 87.68
28 55712 :食器洗い乾燥機の費用(仮想機) 0.10 4.91 0.51 92.28
30 11000 kcal/m3 :都市ガス13A -0.20 4.02 0.42 93.17
33 30000 :食器洗い乾燥機のメンテナンス費用(3年に一回一万円) 0.03 3.49 0.36 94.29






100

 以上から算出したLCAの結果を図2に示します。水の消費を除くすべての環境負荷項目について、手洗いが食器洗い乾燥機よりも良いとの結果になりました(従ってインパクトの重み付け係数の違いは今回もほとんど影響しません)。また環境負荷の総合計は、手洗いが食器洗い乾燥機の約6割であることが分かりました。食器洗い乾燥機は、手洗いに比べて水の消費量がすくないことが特徴ですが、食器洗い乾燥機を使う段階で消費する電力の発電工程で水を使うため、相対的に優位性がなくなっています。図2の結果の有意性を調べた結果(モンテカルロ法を利用してデータが倍半分の曖昧さをもつと仮定)、現状のデータ品質レベルでは結果が逆転する可能性(すなわち、食器洗い乾燥機の方が手洗いよりも環境負荷が小さくなる可能性)は、一割程度です。ちなみに、仮に手洗いで使用する水の量が1.6倍になったと仮定した結果を図3に示します(手洗いの水消費量が設定値よりも1.7倍以上だと、結果が逆転することを意味します)。
 また、食器洗い乾燥機については、

手洗いについては、

などの検討結果も得られました。




図2 手洗いと食器洗い乾燥機のLCA比較結果 (4人分の食器を一回洗う場合)
(数字が多いほうが環境に悪い:単位=日本全体の一年間の環境負荷)




図3 手洗い水量を設定の1.6倍と仮定した時のLCA結果(図2参照)

結論:
 「食器洗い乾燥機」と「食器の手洗い」を環境の観点から比較してみました。両者は仕上がりのきれいさなどの点が異なるため、そもそも比較するのはおかしいとの考え方もありますが、あえて環境負荷の観点だけで比較すると以下のようにまとめることができます。

以上

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