【アビス】
製作年 1989年、米
監督  ジェームズ・キャメロン → タイタニック トゥルー・ライズ
出演  エド・ハリス メアリー・エリザベス・マストラントニオ マイケル・ビーン
【あらすじ】
 キューバ沖を潜航中の米原潜モンタナが、謎の物体の接近で制御不能に陥り沈没してしまった。嵐が接近中のため救助艇が出せず、近くで海底油田採掘中の<ディープ・コア>が救助にあたることになった。海軍特殊部隊SEALのコフィ大尉(マイケル・ビーン)らといっしょにこの施設の設計者リンジー(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)が乗り込んできた。リンジーはこの施設の設計者で、施設の主任バッド(エド・ハリス)の妻だが離婚寸前だった。そんな中、救助が開始され原潜を発見するが、生存者はいなかった。
 海上では嵐が吹き荒れ、とうとう支援船とディープ・コアを結ぶケーブルが切れてしまい、クレーンもろとも落ちてきてディープ・コアは浸水や火災で壊滅的な状態になる。リンジーが船外を調べていると謎の生命体が現れるが、その話を誰も信じない。しかし、船内に液状の異生体が侵入してきて皆の目に触れると誰も疑わなくなった。それでも、狂気に駆られているコフィは、ソ連の陰謀だとして原潜から持ち出した核弾頭をセットし海溝で爆破させようとする。バッドたちは激闘の末コフィを始末したが、時限装置がセットされた核弾頭は海底深く落ちていった。 
バッドは核弾頭の起爆装置を解除すべく、深海まで潜れる飽和潜水服で海溝に向かい解除に成功するが、帰りの酸素はもうなかった。しかし、深海に潜んでいた未知の生物が彼を救い、<ディープ・コア>も巨大な海底都市に乗せられ無事海上まで持ち上げられた。
【解説】
 ハリウッドでもっとも”水”にこだわりを持つジェームズ・キャメロン監督が満を持して製作した本作品は、高校の授業中に書いた短編小説がもとになっているという。キャメロン監督は、子供時代にジャック・クストーの海洋ドキュメンタリーに魅せられて、高校時代には早くもダイビングのライセンスを取得し、大学では海洋生物学を専攻するなどそのこだわりは半端ではない。デビュー作「殺人魚フライング・キラー」(81年)も海洋ものである。
 水中シーンの撮影に使われたのは、サウスカロライナ州にある未使用のまま廃棄された原子力発電所の原子炉である。完全主義者のキャメロン監督は、水中シーンの撮影にスタントを使わず俳優自身に演じさせるために、スキューバダイビングの高度なトレーニングを受けさせたので、出演者は上級者用のライセンスを取得するまで上達した。また、セットは水深10mぐらいのところに作られたのだが、それでも潜水病のおそれがあるためキャスト、スタッフ全員に対して細心の注意がはらわれた。登場する潜水艇や潜水服などは本作品のために開発されたものだが、実際の潜水作業でも使用できるだけの性能を持っていた。また、キャメロン監督は水中カメラマンをしている実弟と共に、水中撮影用の機材をいくつか発明し特許まで取得している。
 映画の中では主人公の2人は愛を取り戻すが、本作品の製作者のゲイル・アン・ハードとキャメロン監督は4年の結婚生活に終止符を打っている。バッド役のエド・ハリスは「ライト・スタッフ」以降、低迷気味であったが本作品での主演で再度注目され、「アポロ13号」(95年)、「ザ・ロック」(96年)、「スターリングラード」(2000年)などの大作映画で存在感のあるところを見せている。
 1993年には、公開時にカットされていたクライマックスでの大津波のシーンなどを追加した完全版が発表されている。キャメロン監督は公開後もこだわり続けるためか、同じように本編でカットされたシーンを追加した「エイリアン2/完全版」(91年)、「ターミネーター2/特別編」(93年)といった別バージョンが存在する。
 ほぼ同じ時期に「ザ・デプス」(88年)「リバイアサン」(89年)といった同工異曲の深海ミステリーが公開されて本作品を含め深海3部作などと呼ばれたが、何の関連もなく、完全主義で作りの遅いキャメロン監督作に対抗する他社の即席映画である。同様なテーマを扱った映画が同じ時期に公開されることは「アルマゲドン」(98年)と「ディープ・インパクト」(98年)など例を挙げると枚挙にいとまがない。
 潜水艇による世界最深の記録は、1960年マリアナ海溝でアメリカのトリエステ号がうち立てた1万1000mだが、トリエステ号は自由自在に動き回る能力はもっていなかった。深海を自在に動き回れる潜水艇で最も深くまで潜れるのは、1990年に完成した日本の<深海6500> で、その名の通り水深6500mまでの潜水が可能である。