【レッドオクトーバーを追え!】
製作年 1990年、米
監督  ジョン・マクティアナン 
出演  ショーン・コネリー → オリエント急行殺人事件 大列車強盗 007/ゴールド・フィンガー
     アレック・ボールドウィン サム・ニール
【あらすじ】
 ソ連の潜水艦基地から最新鋭原子力潜水艦レッドオクトーバーが出港した。ある決意を抱いていた艦長のラミウス(ショーン・コネリー)は、うるさい政治将校を片づけると、偽の命令書をもとに乗組員にはアメリカ東海岸に向かうことを告げた。一方、CIAの分析官ジャック・ライアン(アレック・ボールドウィン)は謎の推進装置を持つレッドオクトーバーを解析するためアメリカに帰国するが、CIA副長官グリーア提督から、ソ連の北方艦隊がその船を追跡していることを知らされる。国家安全保障会議に呼ばれたライアンは、ラミウスの亡命の可能性を示唆し、確証を得るため原地に飛ぶよう命令される。
 レッドオクトーバーを追跡していた米原潜ダラスは、いったん見失うがソナー員の努力が実り探知に成功した。ヘリでダラスに乗り込んだライアンは、艦長を説得しラミウスの亡命を確認させると行動を起こす。ラミウスは放射能漏れ事故を装って浮上すると乗組員を脱出させ、自沈すると偽りふたたび潜航した。ダラスから小型潜航艇でライアンらがレッドオクトーバーに乗り込み、ラミウスと対面するが、直後に何者かが発砲しボロディン副長(サム・ニール)が撃たれる。ラミウスも負傷するが、ライアンは犯人を追いつめ射殺する。
 ほっとしたのもつかの間、ソ連のアルファ級潜水艦が魚雷で攻撃してきた。レッドオクトーバーはダラスと連携して、敵の誘導魚雷を攪乱するとアルファ級潜水艦を自滅に追い込んだ。レッドオクトーバーは、ライアンの水先案内で無事アメリカ本土へ到達し、ラミウスの決死の航海は終了した。
【解説】
 意欲的に軍事小説を発表しているトム・クランシーの処女作の映画化である。CIA分析官ジャック・ライアンはこの後、ハリソン・フォード(「パトリオットゲーム」(92年)、「今そこにある危機」(94年))ベン・アフレック(「トータル・フィアーズ」(2002年))が演じているが、小説の方ではだいぶ現実路線を踏み外しているものの晴れてアメリカ合衆国大統領にまで出世している。
 本作品では、どちらかというとショーン・コネリー演ずるラミウス艦長の方に焦点が当てられていて、脇役あつかいである。共演にはサム・ニール、スコット・グレン、ティム・カリー、ジェームズ・R・ジョーンズなど個性派の俳優が顔をそろえている。
 監督のジョン・マクティアナンは、TVCM界の出身で製作のジョエル・シルバーと組んで、シュワルツネッガーが超人的ヒーローを演じた「プレデター」(87年)、ブルース・ウィリスが等身大のヒーローを演じた「ダイ・ハード」(88年)を相次ぎヒットさせた。本作品もヒットさせアクション映画の第一人者としての地位を確立した。特撮はおなじみILMが担当し、海中シーンには水は一滴も使われず、ワイヤーで吊された模型とスモークとコンピュータ・グラフィックスを組み合わせて撮影されている。
 第二次世界大戦時、ソ連海軍は総数215隻もの潜水艦を保有していたが、主にバルト海に展開させていたため、ドイツ軍の機雷と防潜網により身動きできず、空襲で壊滅状態になった。それでもドイツの敗色が濃くなると反撃に転じ、東プロシアからの避難民を満載した商船を攻撃した。なかでも、1945年1月のグストロフ号への雷撃による遭難者は、世界の海難史上最悪と言われ9300名あまりが犠牲になっている。終戦後、多くのUボート造船技術者を連行して潜水艦の開発に従事させたため、冷戦期にはアメリカに対抗できるだけの能力を持つ潜水艦群をそろえることができた。ソ連初の原子力潜水艦は1961年に就役しているが、初航海で早くも炉心溶融の危機に見舞われている。この真実は長らく明かされなかったが、ソ連崩壊後公開された資料や生存者の証言をもとに製作されたハリソン・フォード主演の「K−19」(2002年)は、この事故における乗組員たちの英雄的行動が描かれている。
 レッドオクトーバーは、本作品の中ではタイフーン級の7番艦という扱いがされているが、タイフーン級は世界最大の潜水艦で水中排水量2万5千トン、全長は170mもある。米原潜オハイオ級に対抗するために建造されたもので、射程約8千qのSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を20基搭載している。また、防御力を高めるため耐圧潜穀が2重になっている。冷戦が崩壊した今、運用にかかる莫大な経費のためか全て予備役になっているらしい。
 本作品の中に出てくるキャタピラー・システムとは、一頃前に話題になった超伝導の原理を応用したもので、海水に対し強い磁界と電流を加えて直接海水を駆動させて推進力を得る仕組みであるが、今のところどこの国も実用化に成功していない。