【北国の帝王】
製作年 1973年、米
監督  ロバート・アルドリッチ
出演  リー・マービン → アバランチ・エクスプレス
     アーネスト・ボーグナイン → ポセイドン・アドベンチャー コンボイ
【あらすじ】
 大恐慌下のアメリカ・オレゴン州。ホーボーと呼ばれる失業者たちは、貨車や家畜車に無賃乗車してはあちこちの野営地を回りながら生活していた。その彼らが恐れる列車があった。車掌のシャック(アーネスト・ボーグナイン)がいる19号列車である。彼はただ乗りするホーボーを見つけると、容赦なく列車から叩き落としていた。その列車にあえて乗り込もうとするものがいた。「北国の帝王」という異名をもつA[エース]ナンバー・ワン(リー・マービン)である。給水塔に挑発的な文句を書かせると翌日、霧が立ちこめて視界がきかないのを利用して19号列車の貨車に潜り込んだ。すると、先に若いホーボーのシガレットが乗っていた。彼は虎視眈々と「北国の帝王」の座をねらう野心家だった。シャックは見上げるような高い木橋に列車を止めて1両ずつ探索を始めたが、2人ともいち早く脱出して難を逃れた。列車が動き出したのを見計らって貨車の下に潜り込むが、それに気が付いたシャックに撃退され2人とも列車から振り落とされてしまう。
 あきらめない彼らは線路にグリースを塗って続行してきた旅客列車を減速させると屋根に飛び乗った。その翌日、追いついた19号列車に乗り込むと、シャックが撃退に現れた。Aナンバー・ワンは空気ブレーキのコックを足で蹴飛ばし列車を非常停止させた。激昂したシャックとAナンバー・ワンは無蓋車の上で対決することになったが、Aナンバー・ワンは死闘の末シャックを貨車から突き落とした。下心が見え透いていたシガレットもAナンバー・ワンに川めがけて投げ落とされてしまった。
【解説】
 女性が一人も出演しない悪く言えばむさ苦しい映画だが、監督のロバート・アルドリッチの作品には、砂漠に不時着した飛行機から脱出する「飛べ!フェニックス」(66年)、犯罪者だけで構成された特殊部隊がドイツ軍と戦う「特攻大作戦」(67年)などアクション系の男性好みの映画がある一方、往年の名女優ベティー・デービスとジェーン・クロフォードが憎みあう姉妹役で共演した「何がジェーンに起きたのか?」(62年)などのサスペンス映画もあり、幅広いジャンルを手掛けている。鬼車掌を演じたアーネスト・ボーグナインは、「マーティ」(55年)ではそのいかつい顔つきを生かし(?)容姿に自信がもてない結婚願望男を演じて、アカデミー主演男優賞を受賞している。以後は主演よりも名脇役として多数の映画に出演しているが、中でもロバート・アルドリッチ作品には最多の6本もの映画に出演している。「アバランチエキスプレス」にも出演しているリー・マービンは軍人役が多かった俳優で、遺作も「デルタ・フォース」(86年)の大佐役だった。
 撮影はオレゴン・パシフィック・イースタン鉄道でおこなわれたが、ここは「キートン将軍」でも使われていた。19号機関車として使用されたのは、1915年ボールドウィン社製で車軸配置が2−8−2(先輪1軸、動輪4軸、従輪1軸)となっている。この車軸配置はアメリカではミカド型SLと呼ばれているのだが、なぜ日本にちなんだ名前が付けられているのかというと、1897年の常磐線開業にあたり日本鉄道はボールドウィン社に貨物用蒸気機関車を発注することにした。常磐炭田の低質炭を燃料に使うため火室を広くとる必要があり、これまでにない車軸配置となりボールドウィンはこれを日本にちなみミカドと名付けたのだが、そのころアメリカで上演されていたサリバン作曲のオペラ「♪ミカド」の影響もあるものと思われる。この車軸配置はその後の日本製機関車にも受け継がれ、デゴイチの愛称で親しまれているD51もこの車軸配置になっている。
 1930年代が舞台なので、そのころの貨車もわざわざ全米から集められた。中でも貨物列車の最後尾に連結されるカブースと呼ばれる車掌車は、突き出た屋根(キューポラ)から前方後方が容易に視認できることなどから、長大貨物列車の運用が多いアメリカではよく使われた車両である。それぞれの貨車の屋根にはランニングボードと呼ばれる渡り板が取り付けてあるが、空気ブレーキが発明される前までは、機関車の停止合図の汽笛にあわせ、各貨車のハンドブレーキのハンドルをブレーキマンと呼ばれる人々が一つずつ締めて廻っていた頃のなごりである。当然、走行中に各貨車を移動しなければならず、ブレーキマンの転落事故は頻繁に起こった。
 当時の時代背景を考えなければ、リー・マービン演じるホーボーが行う列車妨害は犯罪ものであり、無賃乗車をめぐっての2人の争いも無意味なものだが、この時代には生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていた失業者が1500万人もいたのである。