【アバランチエクスプレス】
製作年 1979年、米
監督  マーク・ロブスン → 脱走特急
出演  リー・マービン  → 北国の帝王
     ロバート・ショー  マクシミリアン・シェル
【あらすじ】
 米ソ冷戦がたけなわの頃、「アンジェロ」と呼ばれる東側スパイが身の危険を感じたため亡命を申し出てきた。CIAのハリー(リー・マービン)らは、イタリアのミラノ座の見学者コースで落ち合う手はずを整えた。そこに現れたのはソ連共産党のbRマレンコフ(ロバート・ショー)で、「アンジェロ」が予想以上の大物だったのでハリーは驚いた。マレンコフは、野心家で細菌戦略の首謀者ブーニン(マクシミリアン・シェル)をおびき寄せるため列車で移動することを提案した。その直後ハリーは何者かに狙撃され倒れる。アトランティック急行でアムステルダムに向かうが、途中の信号所で信号停止するとブーニンの手下が襲ってきて銃撃戦になった。警備をしていた一人がマレンコフの寝室に発砲したが幸い避難した後だった。死んだはずのハリーは内部の二重スパイを探るため乗務員に化けており、彼の手で裏切り者は始末され、襲ったブーニン一味も撃退された。
 アトランティク急行がアルプスの山中を走っていると、ブーニン一味が起こした雪崩が襲ってきた。ハリーは後部車両を切り離して列車のスピードを上げさせると、間一髪でトンネルに滑り込むことができた。あきらめないブーニンは過激派のガイガーグループと取引すると、彼らに列車を襲わせた。警備が強化されていたので今度も撃退できたが、ブーニンを取り逃がしてしまった。ハリーらは過激派になりすますと沿岸警備隊の魚雷艇を奪取し、ブーニンが逃げ込んでいた貨物船に魚雷を撃ち込んだ。かくしてブーニンの野望は海の藻屑となった。  
【解説】
 アバランチとは雪崩のことであり、雪崩のシーンはこの映画のハイライトシーンになっている。この特撮を手掛けたのは「スター・ウォーズ」(77年)でモーションコントロールカメラを開発したジョン・ダイクストラである。この映画は宇宙が舞台なわけではないので使われていないが、その後のSF映画では欠かせないアイテムの1つになり「ファイヤーフォックス」の空中戦でも活用されている。ダイクストラはILMの設立にも参加していたが、現在はソニーピクチャーズイメージワークスに移り「スチュアートリトル」(99年)、「スパイダーマン」(2002年)などの特撮を担当している。列車の撮影には、当時定期運行を停止していたオリエント急行の客車も使われている。
亡命するソ連の大物を演じたロバート・ショーといえば「007/ロシアより愛をこめて」(63年)の中で、シンプロントンネルに差し掛かったオリエント急行内でのジェームズ・ボンドととの死闘を演じ強烈な印象を残した。当ホームページで取り上げている「空軍大戦略」「サブウェイパニック」「JAWS/ジョーズ」などでも存在感のある役柄を演じている。監督のマーク・ロブスンは「脱走特急」の監督でもある。なお、この映画は2人の遺作となっている。
 この映画の主要なロケがおこなわれたスイスは鉄道王国として知られ、四国ほどの面積に5000qもの路線が敷設されている。険しい地形が多いため2本のレール間にラックレール(歯形軌条)を敷設して、車両側の歯車を噛み合わせて駆動する方式が登山鉄道だけではなく通常の鉄道でも採用されている。雪崩特急は実在しないが、氷河特急はスイスが誇るパノラマ列車として実在する。
 ヨーロッパの駅のホームは低く作られているが、これはかつて貴族などがホームまで馬車を乗り入れていた時代の名残である。日本でも開業当時の運賃は高額だったが、ヨーロッパでも同様で一般庶民にとっては高嶺の花で、利用者は富裕層に限られていた。また、ヨーロッパの駅には一部の列車を除いて改札がないのが普通である。映画に登場するアトランティック急行は架空のものだが、複数の国をまたいで走る列車は、かつてTEE(Trans Europe Expressの略)と呼ばれていた。これは1957年より開始された高速優等列車のことで、オランダの国鉄総裁だったデン・ホランダー博士によって提唱された。全車一等車で編成され、冷暖房完備食事付きで、最盛期には40系統がヨーロッパの各都市を結んでいた。しかし、車と飛行機の発達により廃止される系統なども出てきたため、見直しが検討された。現在は、1等車のみというコンセプトは廃止され、1等、2等車で構成されたユーロシティー(EC)に生まれ変わっている。ECや新しく登場した国際夜行列車ユーロ・ナイトには、列車の愛称にヨーロッパの偉人たちの名前がつけられており、ミケランジェロ号やモーツァルト号など芸術家の名前を付けたものや、ガリレオ号やアルーバート・アインシュタイン号など科学者の名前を付けたものが日夜走っている。