「インターネットと教育」研究会資料
〜インターネットの落とし穴〜
1999.11.28
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本校には、昨年度末、校内LAN(といってもコンピュータ室にひとまとまりになっている)でつながれ、同時にルーターを介してインターネットにつ
ながる16台のコンピュータが導入されました。導入されたソフトウエアが少なかった当初(今でも少ない)から、本学級の児童には、このコンピュータを使っ
た試験的な授業を行ってきました。具体的には、校内のコンピュータのみで使える「インターネットの入り口」というホームページを作成し、その下にhtml
教材やインターネット上のWebPageへのリンクページを作成して授業に利用しました。そのため、本学級の子どもたちは、コンピュータ導入後の早い段階
からコンピュータの使い方に慣れ、インターネットからの情報を学習に活用しようとする態度を身に付けられたと感じています。
しかし、この段階では「インターネットの負の部分」については理解されておらず、インターネットの情報を鵜呑みにしてしまったり、危険な情報や学習に必要のないページに手を出してしまう可能性が考えられました。
また、私自身、情報教育の担うものは、情報機器に関してその使い方を習熟させ活用させるだけでなく、情報そのものに対する態度(心構え)の育成を含めた
ものと解釈していましたので、情報倫理の教育が必要であろうと考えていました。この点は、コンピュータの活用という範囲だけにとどまらず、日常的な指導の
中で、人の話の聴き方、本や新聞の読み方、情報の捉え方や伝え方から基本的な学習態度の育成を含めて、計画的に学習を進める必要があると考えています。
今回のコンピュータ導入とそれに伴うインターネット接続により、情報機器としてコンピュータの学習をする環境が整いました。このような状況から、子ども
たち一人一人が情報を正確に理解したり伝えたりする態度や、必要なものと不要なものを取捨選択して正しく活用していこうとする態度を養うために、本教材を
設定しました。
本校では、平成10年の秋頃、16台(Windows98機×15台、WindwsNT機×1台)のパソコンが導入されました。全て、TCP/IPで職員室のWindws
NT機をサーバとしてLANが組まれており、図書室の隣のコンピュータ室に15台のWindows 98機が設置されています。
実際に授業で活用し始めたのは11月頃からですが、主にアプリケーションソフトを使ってお絵かきや学習ソフトのゲームなどを楽しむ程度にとどまっています。
インターネットの利用については、html教材作成・活用を含めて私の個人的な実践でしかなかったのですが、最近になって何人かの先生方の目にとまり、実際に授業で活用していただいたり、教材づくりについての相談を受けるようになりました。
現在は、「情報教育」で市の委嘱を受け、年度内にいくつかのコンピュータ&インターネットを使った授業実践が予定されています。
情報倫理というものは、本来はインターネットだけに限られるものではありません。広くは、メディアと呼ばれる物から得る情報について、それを正しく認識し、解釈し、活用したり発信したりする際に必要な態度(心構え)を指すものと考えています。
その上で、平成13年度の全校インターネット接続に伴って、必要になるであろうインターネットに対する情報倫理教育の実践をどのように行っていけばよい
のか、あるいは、子どもたちがそういう教育を受ける素地をどのくらい備えているかを知る意味で、はなはだ実験的で拙いものと感じたましたが、試しに授業を
やってみることにしました。
まず、WebPage作成ソフトで、例となるhtml文書を作成しました。この時に、平野小学校さんのページを参考にさせていただきました。中には本校
の実状にあわせ、インターネットの決まり事を徹底するというねらいも含んでいるので、純粋に情報倫理とは言えない部分もあります。
このような考えのもとに作られたWebPageを子どもたちに見せ、どのような反応があるか観察した上で、各自の感想や注意点をワークシートにまとめさせるという形で授業を展開していきました。
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インターネットの情報には、何らかの意図があり、全てを正しいものとして判断しては危険な場合があることを、子どもたち一人一人に認識させ、インターネットを活用する上での心構えを育てる
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今回は、5種類のWebPageを用意しました。以下にそれぞれのPageのねらいを示します。
「地震が起こる」ということで、パニックをあおるような内容のPageです。うそだと思っても、本当だったらどうしようという不安が、チェーンメールの発端になったり、集団をパニックに陥れたりする可能性があります。
掲示板のようなものをイメージして作ったものです。読者の投稿などで成り立つPageと考えていただければわかりやすいと思います。何気ない悪口 やうっぷん晴らしが、インターネットに公開されることで、大きくなっていく可能性や思わぬ方向へ発展してしまう可能性が予想されます。
インターネット上でよく見かける懸賞つきアンケートです。すべてのアンケートが「うそ」というわけではありませんが、中には個人情報の収集だけを 目的にするようなものがあります。子どもたちへは名簿業者への対策から、個人情報の漏洩を防ぐという指導をしていましたので、このPageを用意しまし た。
実際にさわることの方が珍しいと思いますが、万が一そうしたものに出くわしたらどうするかという考えのもとに作成しました。「18歳未満禁止」と はなっていても、それは何の規制もないことを知り、興味本位にこうした情報にふれることで、思わぬことに巻き込まれてしまう危険があるということを理解さ せるために、このPageを用意しました。
WebPageに書かれていることを信じて、誰かもわからない人へやたらとメールを出さないようにするためのものである。あわせて、本校のパソコ ンからは、外部へメールを送れない(やろうと思えばできるのですが)環境になっているため、そのことを指導するために作ったPageでもあります。本市で は、今のところ子どもたちにメールを使用させる予定はありません。
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※指導案にしてみました
時間 | 学習活動 | 指導上の留意点 | 備考・準備・資料など | |
5 | 1.インターネットについて ○今までのWebページを利用した学習でインターネットが便利なことはわかったと思います |
・今までのWebページを使った学習を思い出させる | |
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5 5 30 5 |
2.本時の学習課題の提示 ○インターネットには、たくさんの情報があってとても便利だけれど、気をつけなくてはならないこともあります。今日は、先生が作った教材を見ながら、こんなページに出会ってしまったらどうしたらよいのか考えてみましょう。
4.html教材「インターネットの落とし穴」を見て、感じたことや気をつけなければいけないと思うことを書く ○Webページを見て、感じたことや気をつけなければいけないと思うことをワークシートに書きましょう 5.感じたことを発表する ○Webを見てワークシートに書いたことを発表しましょう |
・課題を明示し、学習の方向性を見失わないようにさせる ・教師用のコンピュータで操作手順を教える ・見方だけ教えて詳しい内容には触れないようにする ・ワークシートを用意し、感じたことをまとめさせる ・Webの内容についての質問には答えないようにする ・事前にワークシートをチェックして、発表者を決めておく |
・html教材 「インターネットの落とし穴」 ・ワークシート |
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15 20 |
6.感想をもとに気をつけなくてはならないと思うことを話し合う ○みんなの感想から、こうしたWebページを見たときに気をつけなければならないことを話し合おう 7.Webページを見る上で、気をつけなくてはならないことについて説明を聞く ○Webページから得られる情報には、気をつけなくてはならないことがあります |
・ワークシートに書いたことを発表させる ・各自の反応を振り返らせながら聞くようにさせる |
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5 | 8.まとめる ○学習を終えて、わかったこと感じたことなどをワークシートにまとめましょう |
・最後に学習を終えた感想をワークシートにまとめさせる ・ワークシートに書かれたことを発表させる |
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もともと、上記の教材が私の作ったものであることを伝えていたので、はなから信用している者はいませんでした。【A男、B男、C男、D女、E女、F女】
(そのことが気軽に反応していた理由になっていたと思います)ワークシートにも「うそっぽい」とか「信じられない」とか「あやしい」という記述が多く見ら
れました。中には、自分が一人で見たことを想定して、だまされないように気をつけなければならないと書いている子もいました。
悪口のページには、20名(約59%)の児童が興味を示しました。アンケートフォームでは、16名(約47%)の子どもがアンケートを送ろうとしまし
た。また、「ダウンロード」というスイッチには、その言葉の意味を理解していないのに22名(約65%)の子どもが反応しました。中にはメールを送ろうと
してメールソフトを立ち上げてしまい、どうにもならなくなって助けを求める児童もいました。(メールの設定をしてないので、実際には送れないのですが)
こうした中で一番問題に感じたのは、アンケートフォームにしろ、メールにしろ、ダウンロードにしろ、その記述や注意を喚起するメッセージを見ないで次々
と押してしまう傾向があったことです。これは、コンピュータを含めた様々な機器使っていく上でも重大な問題であると感じました。と同時に、日頃から授業に
集中したり、人の話をよく聞いたり、学習した内容を振り返ったりという基本的な学習態度が身に付いているか否かによって、反応のしかたに差が出てしまった
ことがわかりました。
授業を終えて、数人の子どもが私の所にかけよってきて、「自分が(個人的に自宅のコンピュータから)出したメールは誰にも読まれないのか」と聞いてきま
した。私は、「絶対に読まれないということはない」と話すと、自分のメールが知らない人に読まれてしまうなんて信じられないという様子でした。
今回の授業を通して、現在の日本では、急速なインターネットの普及にともない、その利便性ばかりがやたらに取りざたされていますが、その陰には忘れてはならない問題があることを知ることができたようです。
子どもたちにとっては、初めて聞くことばかりでショックが大きかったと思いますが、皆一様に、気をつけていきたいと感想を述べてくれました。その後も、
インターネットを活用した調べ学習などを行っていますが、授業の内容から逸脱することもなく、また、コンピュータだけに群がるようなこともなく、コン
ピュータを情報機器の一つとして活用しようとする態度が見られるようになっています。時には、ある個人を中傷するWebPageを発見した児童が、「この
人は、悪いことをしている」と報告してくれることもあります。
今回取り上げたものは、比較的わかりやすいものばかりでした。今後は、少し判断の難しいものに対する対応も考えさせる必要があるのではないかと感
じています。また、今後子どもたちがWebPageを作成することになれば、情報を発信する側になるので、情報発信者としての態度(心構え)についても考
えさせる必要があると考えています。
この授業を通して、日常の学校生活に必要な「聞く話す見る」態度を養っておくことが、情報教育においてとても重要なことであるということを感じました。
これは、情報機器を活用するという以前の問題であり、本来学習者の心構えとして大切なものであると感じます。その意味では、情報教育とは言っても今までの
指導の延長線上にあり、その方向性としては何らか変わるものではないということがよくわかりました。あわせて、「子どもの思うがまま」という教育の姿勢が
本当に正しいのか、という問題を提起しているようにも思いました。
今後は、こうした授業をより多くの先生方に実践していただき、子どもたちに情報とそれを伝えるメディアに対する接し方を学習させていく必要があると感じました。
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