前回までの続きを読む


SEASON 再び春

    再び春

 式典はいつもの年のように、形式ばっていて、それが当たり前のように、そつなく行わ
れた。そして、教室に戻り、最後のホームルーム。修業のチャイムが鳴ると、他のクラス
メイトと余韻に浸っている新渡戸をよそに、先に廊下にでた。
「あ、夏目ぇ!」
窓沿いにもたれかかっていた瑞穂が顔を挙げ、元気な声を出し、手を振る。
 
「あれ? 新渡戸くんはぁ?」
「まだ教室でクラスメイトと話してるよ」
「そっかぁ。じゃあ、校門トコで待ってるか……」

 陽光に雪が解けて、側溝に流れている。校門脇に作られていた雪だるまももう崩れそう。
二人は近くに人の気配を感じて、顔を向けると、公後輩らしき男の子がいた。彼は急き切っ
たように、いった。
「いっ、岩倉先輩っ!」
「あれ? 私に用なのぉ?」
「はっ、はいっ」
 瑞穂の応えに彼はさらに緊張したように言った。夏目は不思議そうに彼を見ている。
「岩倉先輩っ、憧れてました!! もしよろしかったら卒業しても……」
「あっ!ゴメンねぇー!! 私に、いるの、知ってるよねぇ?」
「あっ……。そうですか、やっぱり、……。すみません……」
そう言って、その後輩は立ち去った。
 しばらくして、夏目は呆れたように言った。
「なんだかな〜」
「最後のチャンスだと思って、あの子なりの結論としての行動だったんでしょぉ」
「そう思ってた割には、冷たい対応してたな」
「そお? でも、はっきり言っといたほーがいいし……。それに、今ごろ告白に来るなん
て、遅いてぇーの」
「………………」
あっけらかんと言う瑞穂の横顔見ながら、夏目は複雑な表情を浮かべた。前日に、自分
の取った愚かな行動を思い出して……。
 電話口からともみの声が響く。
『なっ、夏目先輩、なに言ってるんですかー!?それに、私、もう好きではないですから…
…。それより、入試、がんばってくださいね……」
 校舎の方から新渡戸とともみが仲良さそうJに、こっちへ来るのが見える。
「卒業おめでとうございます」
「ありがとっ。ともみちゃん」
瑞穂はにっこりと微笑んだ。
 新渡戸Hそんな二人のやりとりを聞き逃すように、いった。
「それにしても、今日はあったけぇーなぁ〜」
「雪も今日限りだな」
夏目は言い放った。すると、瑞穂が笑みを浮かべて、いった。
「だって、もう春だもん!」

 そして……。本当の春は十数日後に訪れた。サクラサク……。

Fin.