オーディオとクラシック音楽の話題がほとんどのこのサイトで「電気工事士」というタイトルは異質ですが、実はオーディオマニアにとって電気工事士の資格は必須とは言わないまでも、持っていたい資格です。というのも、オーディオ雑誌には壁コンセントの違いによる音の聴き比べといった記事があるくらい、壁コンセントが音に与える影響は少なくないからです。ところが、「電気工事士法」という法律があり、たかが壁コンセントの交換でさえ、電気工事士の資格がないとできないのです。実際の工事は、室内配線材、多くはVVF-1.6を差し替えるだけで、誰でもできるような作業です。とはいえ、法律を無視するわけにいきませんので、それなら自分で資格を取ってしまおうという人が多いのではないかと推察します。そんなわけで、オーディオを趣味にしている人で、電気工事士の資格を有している人の割合はかなり多いのではないかと思っています。もっとも、オーディオとは関係なく、たとえば壁コンセントが家具で隠れてしまい、コンセントを増設したいということもありますが、その都度工事業者に依頼するのもばかばかしく、それなら自分で資格をとってしまおうということで、昨年、第二種 電気工事士に挑戦しました。
まず試験には筆記試験と技能試験があり、年2回ありますが、昨年度はコロナの影響で、上期の筆記試験は中止となり、事実上、チャンスは下期のみという状況でした。受験にあたり、予備知識がまったくなかった(というよりも相談相手がいない)ので、ネットで情報を仕入れました。二種電気工事士で検索するとおびただしい数の関連サイトがでてきて、中にはビデオの講座まであります。筆記試験は過去問題をみたら、何とかなりそうですが、技能試験については講習を受けた方が良いかもという思いも当初はありました。とりあえず、筆記試験の準備を始めたのですが、サイト情報をチェックするうちに、技能試験も教わらないとできないような難しいことはなく、独学でも十分行けそうだということがわかりました。
左図は実際の筆記試験問題で、このような配線図について、記号で示された電気部品は何か、接続ボックス内の配線に必要な部品の数、あるいは配線工事に必要な工具などを問う問題です。かなりの部分が記憶力を試すような問題ですので、それなりに試験勉強が必要ですが、逆に言えば試験勉強さえすれば誰でも受かるような試験です。全部で50問ですが、そのうち10問くらいはオームの法則などの計算問題なので、これは理系の人なら試験勉強しなくても大丈夫です。ただし、それらは全体の5分の1ですので、合格するにはどうしても暗記しないといけない部分があります。筆記試験は過去問題で自分のレベルが試せますので、独学でも何ら問題なく、6割とれば合格と言われていますので、準備期間もさほど必要ありません。
技能試験は筆記試験が合格しないと受けられませんが、筆記試験の合格発表から技能試験までは一か月足らずですので、合格発表を待ってから始めると遅いと思います。というのは、技能試験こそ、典型的な「試験のための試験」であって、正確さと同時に熟練度が必要だからです。
技能試験では下図のような代物を作るのですが、制限時間は40分でかなり忙しいです。回路図にも依りますが、最初は1時間くらいかかりました。ただ、2回目となると、学習効果で30分以内でできるようになります。あとはポカを無くすだけですが、これが曲者で、わかっているつもりが、練習中、何度も同じ間違いをしました。技能試験については、欠陥の有無が判定基準で、欠陥とは何かも公表されています。しかし、独学ですと誰かにチェックしてもらえませんので、それも自分で確認することになり、その点が最後まで不安要素でした。その点は、結果について自信がもてる筆記試験との大きな違いです。
冒頭書いたように、電気工事士の試験についてはネットに情報があふれており、今更書くまでもないのですが、オーディオマニアとして、必須ではないにせよ、保有していると非常に便利なスキルです。この法律は昭和三十五年の制定で、「電気工事の作業に従事する者の資格及び義務を定め、もつて電気工事の欠陥による災害の発生の防止に寄与することを目的とする。」となっています。しかし電気器具が規格化された今日では壁コンセントの交換など、単なる線材の抜き差しであり、規制の範囲を見直すべきです。その意味では車検制度と同じで、安全という名目で、電気工事業者の既得権の保護のために作った法律としか思えません。とはいえ、資格なしで工事をすれば、電気工事士法違反になりますので、文句を言う前に合格しないと話になりません。
さらに腹立たしいのは試験にかかる費用です。受験料と免状の申請で15,000円もかかります。加えて、独学でも資材や工具に、その倍くらいの費用がかかりました。電気工事を生業とする人なら仕方ない出費ですが、自宅の工事だけですと、とてもペイしません。(ちなみに電気工事を営むには電気工事法による登録が必要)
そんな思いを抱きつつもここに記載したのは、何十年ぶりかの試験勉強はそれなりのストレスでしたし、受験の体験を記録しておきたかったというのが本音です。(2021年2月)