普通米と無洗米のLCA比較結果

2001年秋の環境科学会に口頭発表したものを一部修正して公開します。ご意見等ございましたら遠慮なくお願いします。

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1.LCAの用途

 「普通米と無洗米のLCA」は、「環境に関する意識調査の基礎的データ収集」のために実施しました。科学技術振興事業団、戦略的基礎研究推進事業「社会的受容性獲得のための情報伝達技術の開発」(統括:東大生産研、安井教授)における環境調査の中で、「無洗米は普通米よりも環境負荷が小さい」とのLCIデータを示すことに用います。
 もうひとつの用途は、LCA実施に必要な技術・環境確立をの目指すための実績を蓄積することです。LCI、LCIA、不確実性分析は、それぞれ単独の技術として別々に進歩させるのではなく、互いに連携をもたせて技術開発することが必要です。さらに、LCA実施に必要なデータや概念が比較的曖昧であっても「曖昧さをコントロールしつつ実用に耐えうる結果をだすことは現時点で十分可能である」ことを広く社会に浸透させるが重要です。今回のLCAはそれらの観点からの実績蓄積も目的としました。

2.LCAの目的とバウンダリ
 普通米と無洗米のライフサイクルフローを図1、2に示します。両者の差に注目しているため、図1と図2の黄色ハッチング部分のみを考慮してLCAを実施しました。その結果、無洗米が普通米にくらべて環境負荷が小さいことがわかり、これを一般に公開して意見を求めました(暫定結果に対するプレクリティカルレビューの実施)。その結果、無洗米加工機械(ストック)の負荷も考慮すべきとの意見が多数寄せられたため、これを考慮することにしました(無洗米フロー図の緑色ハッチング部分)。ただし、普通米に関するストック(上下水道設備など)は現時点で調査することが難しかったため、無洗米のストックだけを考慮することにし、LCAの目的を若干修正しました。 すなわち、無洗米に不利に仮定を設定しても、「環境負荷は(無洗米<普通米)である」ことを確かめることとしました。

 また、米の研ぎ汁は、一部で家庭内処理(庭にまくなど)されることもあるため、それらも考慮することにしました(普通米フロー図の緑色ハッチング部分)。アンケート調査から、日本国内で発生するとぎ汁の約15%が家庭内処理されると設定しました(調査詳細は別記参照)。

 インベントリ分析は、産業連関方式、積み上げ方式の両方式を相補的に利用しました。LCA計算に必要な、インパクト係数は「時間消費法:TCM」等複数を利用しました(TCMの詳細は別記参照)。その結果を図5に示します。算出方式によらず 「普通米>無洗米」となることがわかりました。図6から、環境負荷は「淡水消費+水質汚濁物質排出」の影響が大きく、また多くのインベントリ項目で 普通米>無洗米であることがわかります。

 図7に14種類のインパクト係数を用いたインパクト結果の影響を示します。インパクト係数が異なると、インパクトの構成要素は大きく異なりますがインパクト統合値が逆転するような違いはないことがわかります。

 環境負荷の内訳を図8、図9に示します。普通米(図8)の環境負荷は、6割以上が研ぎ汁をそのまま河川へ放流することが原因であることがわかります。また普通米のストック部分である上水・下水設備を考慮すれば、上水、下水処理の影響は図8の「上水」「下水処理」環境負荷のそれぞれ数倍程度になると考えられます。無洗米(図9)は、研磨剤や無洗加工機械の影響が比較的大きいことがわかります。(とぎ汁の環境負荷に関する注意事項は別記

 データの曖昧さが結果にあたえる影響を見るために感度分析を実施しました。結果に与える影響が大きな要素は、下水道普及率と研ぎ汁の家庭内処理割合などであることがわかりました。図10下段に、下水処理普及率を仮に100%と設定して再計算した結果を示します。普通米の環境負荷が半減しますが、それでも無洗米より負荷が大きいことがわかります。つまり下水道普及率に関する曖昧さは結果にあまり影響していないと考えられます。

 次に研ぎ汁の家庭内処理割合を仮に100%であったと仮定してみた結果、図11の中段にしめすように、結果が逆転することがわかりました。結果が逆転する家庭内処理の割合を調べたところ(図11の下段)、約92%であることがわかりました。したがって、家庭内処理が15%程度であると仮定すれば結果は逆転しないものと考えられます。

 次に、一つ一つのデータの曖昧さだけではなく、すべてデータの相互作用も考慮するためにモンテカルロ法を試みました。LCAに用いた全てのデータ(124個)を、対数正規分布に沿って倍半分の範囲外になる確率を10%になるように設定した乱数に置き換えた時の結果のばらつきを図12、13に示します。結果は大きい場合で10倍〜1/10になりますが、(普通米)-(無洗米)の結果は、いずれの場合も95%以上の確率で「正」となりました。、データの曖昧さが倍半分程度なら、結果「普通米>無洗米」はほとんど逆転しないことを意味します。

以上をまとめますと、以下のようになります。

以上

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