年金事務所の調査について |
年金事務所の調査に「総合調査」があります。総合調査は健康保険や厚生年金保
険の被保険者や被保険者となるべき方について適正な手続きを行っているか否か
を確認するための調査です。時効の関係から調査は過去2年について行われるも
のが一般的で
@資格取得をするべき方について手続きがされているかどうか
※パートタイマー等の取得手続き漏れなど
A資格取得日や資格喪失日が適正かどうか
※試用期間中の取得手続き漏れなど
B届出られた「標準報酬」に誤りがないか
※現物支給の算入漏れや通勤手当の算入漏れなど
C月額変更届に漏れがないか
D賞与届に漏れがないか
E住所届が適正かどうか
F60歳以上の年金受給者で加入漏れがないか
などが調査されます。
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通常は指定された日に年金事務所で行われます |
年金事務所が行う総合調査は、通常は「社会保険事務の総合調査について」など
事業所宛に調査指定日時や持参資料などが記された案内が送付されます。
年金事務所が行う総合調査は、よく「呼び出し調査」などとく言われますが、通常は
事業所への立入調査ではなく、過去に2年分の社会保険に加入していない方も含
めた全労働者分の労働者名簿や出勤簿、賃金台帳などが提示資料を持参して、
所轄の年金事務所の調査会場で行われます。なお、提示資料は労務関連資料の
みではなく全従業員数が適正かどうかの確認資料として源泉所得税の領収証書な
ども求められます。
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とにかく加入漏れの指摘に注意!! |
今でも「アルバイトやパートは社会保険に入れない」「時給制は正社員じゃないから
社会保険に入れていない」「試用期間中は社会保険に入れない」「パートは皆、年間
103万円以内で働いてもらっているから社会保険に入れないし、旦那の扶養にもな
っている」などの理由で社会保険に入れていない方が散見されます。所得税と健康
保険や厚生年金などの社会保険の適用はまったく異なるのですが、どうも「お金」で
判断となってしまっているケースも見られますし、「本人の希望」「会社の希望」と言っ
た、まるで「任意適用」と考えられているケースも見られます。そのため、一度調査
が来ると、その適用漏れの指摘に驚かれるのでしょう。社会保険の適用は原則とし
て、適用除外者(2ヶ月以内の所定の期間を定めて雇用される者など)を除き、アル
バイトやパートタイマーの方でもすべて@所定労働時間とA所定労働日数で判断さ
れると考えて下さい。アルバイト等の時給制や日給制であっても、その方の年間収入
がいくらであっても、とにかくまずはその方が週何時間(1日何時間)勤務で1ヶ月何
日労働なのか。この2点が重要です。年金事務所の判断基準としては、その適用事
業所で雇用する一般従業員(いわゆる社会保険の適用を受ける正社員の方)と比較し
@1日または1週間の所定労働時間数が3/4以上である場合。
(例えば正社員が1日8時間勤務の場合は1日6時間以上である場合。)
※ただし、日によって所定労働時間数に波がある場合で3/4未満の日もある場合は
1週間で3/4以上である場合。(例えば正社員が週40時間勤務の場合は週30時間
以上である場合)
※この@の基準は平成28年10月1日以降は1週間の所定労働時間数が3/4以上
である場合のみで判断されます。
A1ヶ月の所定労働日数が3/4以上である場合。
の@とAのいずれも該当する場合は社会保険に加入しなければならない方として
取り扱われますので注意されて下さい。(ただし、70歳以上の方は厚生年金保険
に加入できませんし、75歳以上の方は健康保険に加入できません。)
パートタイマーの方など一般の社員より勤務時間等が短い従業員の方を多く雇用し
ている事業所は社会保険の適用漏れには十分な注意が必要です。 |
60歳以上で年金を受けられている高齢者の加入漏れに注意! |
加入漏れの方が60歳上で老齢年金を受けている場合ですと、さらにややこしいこと
があります。それは、厚生年金加入適用者として働いているわけですから、受けて
いる老齢年金は減額調整される場合があるのです。それを満額受けていた場合は、
不正受給になりますので、最大過去2年まで遡り、加入するべき保険料の納付と受
けるべきでない部分(本来調整されるべき部分)の年金額の返還が求められます。 |
賞与支払届も忘れずに!! |
賞与を支給しているのに、単に年金事務所へ届出を忘れてしまったケースもあれば、
(ちなみに賞与支払期を事前に年金事務所へ届出ておくと賞与支払届総括表など
の様式が送付されますので届出忘れの防止ができます。この場合は賞与の支払
いが無くても「総括表」のみの提出が必要です。)「賞与」という名目でなくても、社
会保険上で賞与とみなされる手当が届出ていないケースもあります。例えば年2回
の賞与の他に、決算状況によって「決算手当」が一時金として支給された場合など
です。この場合は当該「決算手当」についても賞与支払届の提出が求められます。
特に介護事業を行っている事業所で処遇改善加算を活用し介護職員に一時金を支
給する場合は社会保険においては「賞与支払届」の対象とされると思われますので、
その支給についても届出漏れが無いように注意が必要でしょう。
なお、社会保険では定時決定の際に前年7月1日〜当年6月30日までの1年間で
4回以上支給されている場合は、その合計額を12ヶ月で割って1ヶ月分の報酬とし
て算入しなければならないなどの取り扱いがありますので、賞与や賞与性のある一
時金について年何回の支給なのかなど十分な注意と確認が必要です。例えば当初
は年3回の賞与として、賞与支払届を提出した場合で決算時も一時金を支給したた
め結果として年4回の賞与となった場合などは賞与支払届と重複して算定基礎届
に算入しないよう、その取り扱いにはあらかじめ年金事務所へ確認されることが必
要でしょう。 |
その他の主な注意点 |
その他の主な注点としては、資格取得時や定時決定の際の算定基礎届に「現物給
付」として算入しなければならない「住居の利益」や「食事の利益」などが漏れていた
り、特に法人役員の方に見られるのですが、複数の法人を経営されそれぞれ役員
報酬を受け取っているなど「2以上事業所から報酬を受けている」場合でも、適用事
業所選択届が出ていないケースなどです。もちろん、他の法人は非常勤役員などの
場合(ただし、非常勤とは形式ではなく実態判断が必要なため年金事務所とも相談
されるべきでしょう。ちなみに代表者は理論上、非常勤扱いは無理があると言えま
すので、特に注意と事前確認等が必要でしょう。)や報酬を受けていない場合などは
必ずしも2以上事業所勤務の選択届等は必要とは限らない事もありますが、複数の
法人の経営をしている場合などは報酬も含め社会保険の適用については十分に
注意されて下さい。同時に2以上の事業所で使用され、それぞれにおいて社会保険
被保険者とならなければならないケースでは、それぞれの事業所で受けた報酬は
合算されて標準報酬は決定され、それぞれ按分されて保険料を納めます。 |
会計検査院の実地検査に基づく年金事務所の調査 |
「会計検査院」という機関を時々テレビや新聞で見たり聞いたりしたことがあると思い
ます。「会計検査院」という機関は、国の収入や支出の決算や政府関係機関、独立
行政法人等の会計が適正なものなのかどうかを検査する憲法上の独立した機関で
す。従って、「社会保険制度」も国の制度であり、その運営機関である「日本年金機
構」の会計が適正かどうかも毎年検査されているのです。さらに、その検査において
「保険料は正しく徴収されているのかどうか」「保険給付は適正に給付されているの
かどうか」も年金事務所が検査対象となっているのです。。
ここまでですと、「会計検査院は年金事務所(日本年金機構)を対象に検査をしてい
るのだから、われわれ適用事業所には関係ない」と思われるかも知れません。とこ
ろがその調査は「総合調査」と同様、対象となった選定事業所(選定基準や選定方
法は公開されていませんが短時間のパートタイマー等を多く雇用している事業所や
年金受給者を雇用している事業所が対象となりやすいかも知れません。)について
「加入漏れ」や「徴収不足」「高齢者の加入漏れによる年金額の返還」をきちんと年金
事務所が調査しているのかどうかを会計検査院が検査をするのです。(もちろん、会
計検査院は年金事務所のみではなく、公共職業安定所や労働基準監督署、税務署
などの多くの政府関係機関等を検査する機関ですから、所得情報や給付情報は個
人単位で把握している機関と言えますので、老齢厚生年金受給額の検査の場合は
具体的な年金受給者の個人名を告げられての調査もあるのです。)
実際に行われた会計検査院による実地検査の内容がHPで公開されています。その
内容を見ますと、非常に多額の徴収不足が指摘され、容赦なく徴収決定措置が執ら
れている状況が報告されています。
〜参照(会計検査院HPより)〜
【平成25年度の会計検査院による検査報告(保険料徴収不足関連の検査) 】
http://report.jbaudit.go.jp/org/h25/2013-h25-0235-0.htm
【平成24年度の会計検査院による検査報告(保険料徴収不足関連の検査) 】
http://report.jbaudit.go.jp/org/h24/2012-h24-0211-0.htm
【平成25年度の会計検査院による検査報告(老齢厚生年金の給付関連検査) 】
http://report.jbaudit.go.jp/org/h25/2013-h25-0252-0.htm
【平成24年度の会計検査院による検査報告(老齢厚生年金の給付関連検査) 】
http://report.jbaudit.go.jp/org/h24/2012-h24-0230-0.htm
【「総合調査」と「会計検査院の実地検査」の違い】
年金事務所からの調査の案内の時点で「総合調査」なのか「会計検査院の実地検
査」なのかのいずれかの把握はできます。後者の場合は「会計検査院の実地検査
に伴う受検について」といった案内がされます。頻度とすれば多くは「総合調査」です
が、毎年、どこかで会計検査院の実地検査は行われています。
調査の内容としては「総合調査」と「会計検査」の違いは差ほどありませんが、「総合
調査」は年金事務所が行政運営の一環としての調査ですから、例えば加入漏れの指
摘事項についても、その状況や直ちに加入手続きを取るなど対策によって遡及手続き
まで求められない場合もあるようです。もちろん、厳格な決定がされても不思議では
ありませんので、決して軽く考えたり、甘く見てはいけません。また、調査記録は年金
事務所に保存され、再調査や次回調査などもあり得るため、しっかりと対応しなけれ
ばならないことは当然の事です。一方、「会計検査院の実地検査」は年金事務所が
検査されている立場でもある以上、指摘事項は法令に従い厳格に処理されます。そ
のため、指摘に対して会計検査院に今後の対策や「今から全員きちんと入れます」
「そんなこと知らなかった」などと言っても会計検査院は社会保険行政を行う機関で
はありませんし、保険料徴収漏れ等を検査している機関ですから、社会保険手続き
そのものの要望等を言っても、残念ながら、いわゆる「お門違い」になってしまい。聞
き入れて貰えません。だからと言って年金事務所に言っても、年金事務所は会計検
査院からの指摘事項に従う他ありません。従って、結局はそう言った指摘が無いよう、
日頃の社会保険の適正手続きに注意してゆくしかないのです。
今後は、公務員共済や私学共済も厚生年金に統合され「被用者年金一元化」がされ
ることが予定されており、(平成27年10月実施)民間企業においても、さらなる厳格
運用、厳格適用が求められることでしょう。現にその一環でしょうか、すでに平成23
年からおおむね4年間で全適用事業所に定時決定時調査を実施するなどが図られ
ていますし、今後に従って総合調査自体も厳しいものとなって行くと考えた方がよい
でしょう。
建設業についても国交省と厚労省が連携し、未手続き事業所の加入促進を進めて
いますし、建設業以外の業種でも年金事務所が常に未手続き事業所へ民間事業者
への委託も活用し加入指導を実施しています。厚生年金や健康保険などの社会保
険に関る加入指導や実地調査等が今後、厳格化してゆく方向にあることは、ほぼ間
違いないと考えられます。
現に平成27年4月以降は厚生労働省が国税庁とも連携し納税情報を共有すること
で未手続き事業所(約80万社)を割り出し本格的な加入実施が行われる方針である
ことは既に打ち出されています。
【遡及手続きを指摘されると非常に「厄介」な処理が...】
例えばパートタイマーの加入漏れが指摘され、時効にかかる2年前まで遡って加入
手続きを取った場合、当然に保険料が発生するのですが、その人数や過去の報酬
額によって、健康保険料と厚生年金保険料を合算し、数千万円を超える額となること
があります。そのような場合は当然ながら一回での納付は困難となりますので、分割
して納めることになるのです。しかし、その場合に発生するのが年14.6%の延滞金
です。従って、未納額が多く納付が遅れれば延滞金だけで数百万円の出費となる場
合も考えられ非常に多額で厳しい出費となってしまいます。加えて厄介なのが社会
保険料は「労使折半負担」というところです。過去2年に遡って数十万円の保険料を
従業員の方に清算してもらうことは非常に困難です。(ましてや退職してしまった方に
つてはほぼ無理なこともあるかも知れません。)また、その方が国民年金や国民健
康保険に自ら負担していた場合は各保険料の還付手続きが必要となり、そこから、
ある程度捻出し清算をお願いすることになるでしょうし、旦那さんの扶養となっていた
場合は「思わぬ大きな出費」となってしまうでしょう。(この場合は、旦那さんは勤
め先の会社へも「健康保険被扶養者(異動)届」等の提出により、奥さんを被扶養者
や国民年金第3号被保険者ではなくす手続きも必要です。)所得税にも影響します
から場合によっては税務上必要な手続きもあるでしょう。
健康保険や厚生年金保険は適用手続きが非常に甘い後手後手の状況である事業
所も度々散見され「調査があって初めて知る」と言った、状況は危険です。当然に私
たちも含め十分な注意喚起が必要な制度だと言えます。
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