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〜中小企業における成果主義について〜
(業務インフォメーション)

処遇方針は労働条件

人材を雇用されている会社にとって、人件費は経営において重要な費用です。
そのうち賃金はこの人件費の基軸となります。当然ですが、会社の処遇方針は
各社各様です。また、その処遇方針は雇用においては「労働条件」です。従って
会社においても人材においても、賃金は両者の絆とも言える重要な労働条件で
すから、会社が決定する「処遇方針」は互いに周知されるものでなければなりま
せん。

人件費の原理

人件費はどこから捻出される費用でしょうか。それは日々の生産活動において
会社(労使)が生み出した付加価値になります。付加価値とは、簡単に言えば、
売上高から外部購入費用(原価など)を差し引いた主に粗利(売上総利益)です。
(製造業の場合は売上高から材料加工費や外注加工費を差し引きます。)
算出は中小企業庁方式などの「控除法」(売上高ー外部購入費用)や財務省や
日銀方式などの「加算法」(経常利益+人件費+金融費用+租税公課+減価償
却費など)があります。この生産された付加価値から店舗や事務所などの賃借
料、減価償却費、人件費、通信費、広告宣伝費などと言った、販売費や一般管
理費に相当する費用を差し引き営業利益が計上されます。従って、人件費は付
加価値から食べられる費用ということになります。(付加価値のうち人件費に当
てられる割合を示したものが「労働分配率」になります。)ですから、総額人件費
が増大する仕組みである処遇方針ならば、付加価値も増大していかなければ、
やがて賃金支払能力の限界を超えますし、付加価値が縮小して行けば、総額人
件費も縮小せざるをえない結果となります。昨今、見直されるつつある賃金改革
はこの原理をしっかりと念頭に置かれることが、前提条件と言えるでしょう。






パイを減らすか人を減らすか
〜年功主義という土俵〜

人件費の原理を念頭に置くと、会社は付加価値を増大させて行くことが、総額
人件費の増大(パイを広げる)につながり、多くの賃金を支払う能力を有するこ
とになります。しかし、理屈はそうなのですが、実際に「付加価値を増大させ続
けること」は容易いことではないでしょう。しかも、賃金の付帯費用ともなる法定
福利費(会社が負担する社会保険料)のうち、厚生年金保険料は平成29年9
月まで負担増は決定していますから、毎年、自動的に定昇をすれば当然、賃
金総額は膨らみ続け、その付帯費用である法定福利費も膨らみ、結果的には
総額人件費は増大し続けることになります。会社(労使)にとって、売上高やそ
れに伴う利益は景気や企業間競争が伴う流動的なものである以上、付加価値
も流動的、すなわち人件費も変動費に近づける方向で検討せざるを得ない面
があります。

賃金原資となる総額人件費が下がれば給与も下がりますが、給与を減らせな
ければ人員を調整するしかありません。これまで、企業は雇用調整と定昇見
送り(場合によっては賃金カットや賃下げなど)等を併用し、社会経済の中で
対応してこられた(対応を続けている)のかも知れません。そうなると社会全体
でも、正規社員の人員採用を抑制することにもなり、結果フリーターなどの非
正規雇用者も増加し、その非正規雇用者も年齢を重ねるにつれ、正規雇用者
という土俵にあがることが現実的には困難となります。それは、例え景気回復
により、採用枠も広がったとしても、その時代の新規学卒予定者や、いわゆる
第二新卒者など若年者であれば良いのですが、例えばこれまで非正規雇用
であったフリーターの30歳代以上の人材などは、景気が回復したからといっ
て、容易く正規社員の土俵に上がれるものでもないと思います。(これらは社
会政策として、重要な対応課題)年功序列の賃金制度はその土俵に乗れた人
材とその土俵に乗れなかった人材の格差を生んだ側面もあるのかもしれませ
ん。2007年から、いわゆる団塊世代(多くの方は年功序列のシステムで活動
された人材)の人材が定年(継続雇用制度はあります。)を迎えますが、経済環
境の面(国際競争の激化、労働力の少子高齢化、社会保障費負担増、中小企
業においては依然として従業員定着率が困難であることや働く側の就労意識
の多様化など)を踏まえると各会社は処遇方針や賃金制度について「どうある
べき」か、検討やメンテナスは、恐らく今後も続いて行くことでしょう。

賃金制度は付加価値生産活動において「どこを見るべきか」によって方向性は
異なるってゆき、それが「企業の個性や体質」となって行きます。

中小企業において成果主義と言うならば
(私が思う成果主義について)
〜成果主義は個人の成果の前に組織の成果を考えるべき〜

「成果主義」と「評価制度」は順序を持って別々に考えるべきだと思います。現に
人事考課などの「評価制度」は別に「成果主義」とは関係なくても以前からあるも
のですし、「年功主義」だって、役職などの昇進昇格や賞与査定などにおいて「評
価」はあるものです。また、「仕事給」として職務給や職能給にも職務分析や人事
考課は採用されてきたものです。ただ、経済成長の鈍化、国際競争、2007年か
ら進む団塊世代の大量定年(継続雇用制度はあります。)、年金受給人口の増
加(年金は現役世代の賃金に直接関係します。会社においても法定福利費に影
響します。)労働力確保の観点や右肩上がりの成長が困難な時代を迎え、賃金
原資と付加価値が連動しにくい(しない)配分方法(主に年功主義)を是正したい
とする狙いが成果主義本来の意向でしょう。「社内で競争させる」「できる者には
沢山給与を払い、できない者は給与を下げる」ことは成果主義云々の話ではな
く、評価制度の話なのです。ザックリと分類すると「年功主義=経営家族主義の
基、従業員定着率を確保する為には合理的な制度(但し、大企業と中小企業で
は福利厚生制度をはじめ、待遇格差はある。)」と言え、「能力主義=人材育成を
有機的に機能させるためにキャリア・パスなどを通じ個別に人事考課などにより
職能給などに反映させる制度。職務評価に基づく職務給とセットされる場合もあ
る」と考えることができます。しかし、年功主義であれ能力主義であれ、総額人件
費は「結果としてこれだけの人件費となりました」として、把握されるところに成果
主義との違いがあるように思います。

それでは「成果主義」とは何でしょうか。誤解や意識の違いをなくすためにコンセ
ンサスを十分に図る必要のある表現だと思います。私は「成果」とは「付加価値」
だと考えます。もちろんだからと言って、これは何も直ちに社員個別に付加価値
を測ることではありません。人事考課をして人材を評価し、「結果として総額人件
費はこうなりました。」では、成果主義の話としては少数精鋭である多くの中小企
業では難しい話だと思います。この考え方を成果主義として導入するのであれ
ば、「1億円プレーヤーはどうすんの?」「一体どこまで頑張ればいくらまで給料
があがるの?」という話になります。会社の賃金支払能力には限界があるのです。
だから「成果に応じた配分」となるはずなのです。組織力が強く個の成果をインセ
ンティブに反映したいとする方針となるのであれば、また違うのかもしれません
が、人員数も少数の多くの中小企業において「成果主義」を考える場合は、「組織
力」としての成果主義と考えた方が現実的だと思います。

そのため、「付加価値(成果)をどうあげて、総額人件費(パイ)を増大させるか」
これが成果主義のスタンスだと思います。第一、組織である会社にとって、付加価
値とは「会社全体の成果」であって「個別の成果」ではないはずです。(もちろん職
務発明など個人が評価されるべきこともありますが、インセンティブとして給与体
系上評価するのではなく「表彰制度」として、報奨金の支給をしたほうが、適してい
ることが多いと思います。)従って、成果主義とは付加価値から「総額人件費」を管
理すること(付加価値は会社組織の成果である。)に意義があると考えます。敢え
て言い換えるのならば「成果主義」と言うよりは「付加価値対応配分主義」とでも
言ったほうが良いのかも知れません。

評価制度などの個別管理は「パイの配分方法」の話であって、成果主義はパイ
(総額人件費)として付加価値に応じて全体管理をする作業(経営手法)だと私は
考えます。もちろん、評価制度は人材マネジメント手法として必要性はあります。
ただ、「賃金配分のため」であれ「昇進昇格のため」であれ、「人材育成のため」で
あれ「何のため」の評価制度であるのかが重要なことなのです。逆に、極端に言え
ば「評価制度を一切、噛ませないで全員一律に賃金総額(総額人件費の基軸)を
均等に人数分割って平等に配分する。」これだって、成果(付加価値)に連動した
総額人件費管理によるものであれば中小企業にとっては組織力で勝負するため
の「成果主義」なのです。

組織力向上の成果主義は、まず総額人件費を把握して、その配分方法として、
初めて次に評価制度を検討するわけであり、その配分方法こそ各社各様の「処
遇方針」なのです。(人件費の原理や会社の現状を十分に説明したうえで、「配
分方法」は社員も含めて検討することを推奨します。)これは付加価値が毎年変
わるのであれば、総額人件費も変わるため、「役員報酬」や「賃金表」なども改定
が必要になることを意味します。即ち、「ベア」「定昇」は前提にならなくなります。
このことは総額人件費を広げるには付加価値を広げること(会社一団で成果をあ
げパイを広げること)が条件となるからです。

ですから、「人材育成の効率化」など別に目的があるのであれば結構かも知れま
せんが、「成果主義」を導入するといって、付加価値率や適正労働分配率、総額
人件費の把握など全体管理をせずに直ちに個人別の評価制度から検討すること
は避けるべきだと私は思います。「成果主義」の主眼は「成果を見る」にあるのが
基本姿勢だと考えれば「個人の成果」よりも「会社組織の成果とは、一体何なの
か」が先にあるはずです。そこが抜けてしまい配分方法だけを見ても「趣旨の見
えないわかりづらい制度(機能させること自体に無理が出かねない制度)」になる
危険性があります。

もし、処遇方針に「成果主義」を念頭に賃金改革をされる場合は、御社にとって「成
果主義」とは何なのか、しっかりとコンセンサス(意の一致)を取って下さい。メリッ
トもあれば必ず、デメリットもあり、効果を期待すれば必ずリスクもあるはずです。
また、削ってはいけない人件費である法定福利費にも十分に留意してください。年
金であれ、雇用保険であれ「従業員が将来退職しても、何らかの給付を受けるた
めの権利とそれを国に任せ、負わせるべき義務」は中小企業だからこそきちんと
残すのです。

人件費の「出どころ」を今一度、確認してみましょう。賃金は、やはり経営の話で
あり、組織であれば人材の集結で付加価値(成果)は生産されるのです。

配分方法(処遇方針)をどうするか

賃金においては「私、頑張りが足りてませんから、こんなに給与はいりません。」と
言って数枚のお札を会社に返す人はまずいないでしょう。むしろ、「毎日、こんなに
仕事してるのにどうすれば給与はあがるんだろう」と誰もが一度、二度は思った(思
っている)ことがあるものなのかも知れません。それでも、「何らかの処遇方針」(例
えば入社間もない試用期間中は基本給も低いからとか)があるから納得できるもの
なのです。(ただ、賃金不払残業などの未払い賃金となれば、方針ではなく法律の
話ですから、もちろん設定には十分注意しなければなりません。)

繰り返しになりますが「処遇方針」は各社各様です。しかし、総額人件費を把握し、
その「配分方法」に「評価制度(人事考課など」を採用するとなると、これまでの評
価制度と一体何が違うのかという話になります。成果主義も、年功主義であっても
能力主義であっても「処遇方針」は賃金分配方法の「基準」となるものです。総額人
件費の管理を念頭に置くと「成果主義」の場合は「額を決定」ではなく、「率を決定」
と言うところに配分の着眼点があるのかも知れません。勤続年数が長い方が月給
額が良いと言うのが、「年功型賃金制度」だとするならば、勤続年数が長い方がパ
イの配分率が良いと言うのが「成果主義における年功型賃金制度」とでも言うべき
でしょうか。同じく、職能資格制度など等級(グレード)が高い方が月給額が良いと
言うのが、言うならば「能力主義賃金制度」だとするならば、職能資格制度など等
級(グレード)が高い方がパイの配分率が良いと言うのが「成果主義能力賃金制
度」とでもなるのでしょうか。

いずれにしても、「成果主義」は「個別成績を設定し、それを成果として測り、社内で
競争意識を高める」と言うのではなく(この大義はむしろ「能力(実力)主義」だと思
います。)「会社の成果を組織で上げる」ということ、 中小企業にとって、「成果主義」
とは「社内競争」よりも「組織力(チームワーク)」が試される取り組みだと私は考え
ます。

会社は付加価値生産の活動をする組織

付加価値とは会社組織の成果

人件費の原資は付加価値
(組織力により付加価値を高めることで人件費原資を増大)

総額人件費をどう配分するべきか
(「額」で判断?「率」で判断?年功?能力評価?)

処遇方針(労働条件となる)


総額人件費は事前(計画)だが、付加価値は事後(結果)
〜賞与原資をどのように機能させるべきか〜

ところで、お気づきかもしれません。総額人件費は適正労働分配率などから予め
把握することで管理可能な部分ですが、付加価値はあくまで決算により結果がわ
かるものですから、正確な数字は「事後結果」となるものです。従って経営計画と
決算による結果で達成されたか否かに分かれることになるでしょう。そのため、総
額人件費である固定費部分に何らかの調整機能を持たせる必要性はあると思わ
れます。そこで月給よりも変動費化しやすい賃金として賞与(役員賞与も)原資を
どのように機能させるべきか調整機能としての役割を持たせるべきと言えるかも
知れません。「成果主義」においては賞与制度は「決算賞与」としての性格が強く
なると思われます。

付加価値対応で総額人件費を管理しても、人材の数と仕事量においいて付加価
値とのバランスが崩れる場合などは、成果主義においても雇用調整は必要にな
ることもあります。付加価値対応により、ある程度のリスクも把握しやすくなる分、
雇用調整を回避するための一定の効果は期待できます。しかし、それでもやはり
完全には万能な制度では無い分、日々の労務管理はこれまでどおり(あるいはこ
れまで以上に)しっかりと行う必要は当然にあります。

賞与の主な配分方式
スキャンロン・プラン
(売上高配分方式)
(純売上高×標準人件費率)−既払い人件費
ラッカー・プラン
(付加価値配分方式)
(付加価値額×適正労働分配率)−既払い人件費
カイザー・プラン
(原価節約分配方式)
最低保障額+(利益×一定率)


話は戻りますが、「処遇方針」は労働条件に直結

経営者が「適正労働分配率」や「付加価値」を知っていても、それらを含め従業
員に「処遇方針」が伝わっていなければ「効果」は難しいと言えます。「労働条
件」は「周知徹底」させているかどうかが最も重要だからです。個別紛争が増加
傾向の現状を踏まえれば尚のこと注意される必要性は高まります。コンセンサ
ス(意見の一致、同意)とコンプライアンス(法令遵守)はセットと言えますから、
「成果主義」を前提とされるのであれば「成果主義」の捉え方がバラバラとならな
いよう十分に説明や検討を重ね、「配分方法」や「賃金の改定」、情報開示につ
いて規程に定め周知徹底させる取り組みも是非、忘れないで下さい。


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