【クリムゾン・タイド】
製作年　１９９５年、米
監督　　トニー・スコット　→　トップ・ガン　デイズ・オブ・サンダー
出演　　デンゼル・ワシントン
　　　　　ジーン・ハックマン　→　カナディアン・エキスプレス　ポセイドン・アドベンチャー
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　フレンチ・コネクション

【あらすじ】
　ロシアで反乱派がクーデターを起こしシベリアの核ミサイル基地を占拠した。それを受け米戦略弾道ミサイル原子力潜水艦（以下ミサイル原潜）アラバマ号に出動命令が下った。艦長のラムジー大佐（ジーン・ハックマン）はベテランで、副長のハンター少佐（デンゼル・ワシントン）は前任者の急病で司令部から推薦されて着任した。出港して２日目、キッチンで火災が発生するが、消火中に艦長は訓練を決行する。火災で死者が出たため訓練は中止されたが、副長は艦長のやり方に抗議した。１２日目、ロシアの反乱派とおもわれる潜水艦が接近してきた。同じ頃、ミサイルの発射指令が入電する。直ちに、発射に向けての準備が進められるが、敵艦が魚雷を発射してきた。デコイ（囮）を使ってかわすが、近くで爆発しアンテナが破損してしまう。そのため、再度入電した電文が途中で切れてしまう。艦長は即時攻撃を主張し、それに対し副長は再確認を求めた。いらだった艦長は副長を解任しようとするが、逆に服務規定違反で解任されてしまう。敵艦が再度攻撃してくるが、反撃したアラバマ号に撃沈される。しかし、アラバマ号も至近弾の衝撃で一部浸水し、通信機が壊れてしまう。
　艦長を慕う士官が監禁されていた艦長を解放すると、副長たちを逆に監禁した。しかし、手はずを整えていたので脱出し、艦長がミサイルを発射するのをギリギリで阻止する。発令所で艦長派と副長派が一触即発のにらみ合いとなるが、復帰した通信機に入電したのは中止の指令だった。艦長は指揮権を副長にゆだねると静かに発令所から退室した。

【解説】
　艦長と副長の対立の図式は、「ケイン号の叛乱」や「戦艦バウンティ」でも見られたが、士官たちが人種や当事者への好悪ではなく、自身の意志と信念で艦長派と副長派に分かれるのはいかにも個人主義が確立しているアメリカらしい設定である。
　監督のトニー・スコットは、「エイリアン」（７９年）や「グラディエーター」（２０００年）のリドリー・スコット監督の実弟だが、映像派の兄とは違い娯楽路線を貫いており、本作品の製作者ドン・シンプソン＆ジェリー・ブラッカイマーと組んだトム・クルーズ主演の「トップガン」が大ヒットして人気監督の仲間入りを果たした。以後も同じ顔ぶれで製作した「デイズ・オブ・サンダー」や、ジーン・ハックマンと再び組んだ「エネミー・オブ・アメリカ」（９８年）などの作品がある。音楽のハンス・ジマーは兄リドリー・スコットの映画もよく手掛けている。
　デンゼル・ワシントンは、「グローリー」（８９年）での北軍に参戦する黒人兵の役で早くもアカデミー助演男優賞を受賞し、以後も正義漢の役どころが多かったが、一転して悪徳警官を演じた「トレーニング・デイ」（２００１年）で、黒人では２人目となるアカデミー主演男優賞に輝いている。
　現在、ミサイル原潜を保有しているのは国連の常任理事国でもある５ヶ国だけだが、弾頭の数ではやはりアメリカとロシアがダントツに多い。本作品に出てくるアラバマ号はオハイオ級と呼ばれるもので、現在１８隻が就役している。射程１２０００㎞の潜水艦発射弾道ミサイル（ＳＬＢＭ）を２４基搭載しており１発に核弾頭が８～１２個入っている。ミサイルには天体による位置確認をおこなう天文航法装置が備わっており、命中精度を向上させる働きがある。いったん出航したら、哨戒任務中は潜航したままで、位置を探知されるため潜水艦側から連絡することはなく、ミサイル発射の指令がきたら、直ちに発射できるように常時警戒態勢がとられている。
　１隻で広島型原爆１万発分の破壊力を持っているため、艦長一人だけの意志ではミサイルの発射はできず、必ず副長の同意が必要であり、暗号のコード表やミサイル発射用トリガーが入った金庫のダイアルは担当士官しか知らない。原子力潜水艦は燃料の補充なしに何年でも行動できるのだが、さすがに乗務する人間はそういうわけには行かない。何年分も食料を持ち込めないというのもあるが、それよりも密閉された空間にずっと押し込められていたら精神面でおかしくなってしまう。特にミサイル原潜は極度の緊張を強いられるため一回の航海は２～３ヶ月程度となっている。
　しかし、乗務員が休んでいるからといってミサイル原潜を休ませるわけにはいかないので、もう１組別の乗務員が乗り込んで出航する。このように、１隻に艦長を含めた２組のクルーが存在するのもミサイル原潜のユニークな特徴で、ソ連（現ロシア）のタイフーン級原潜でも行われていた。また、発射管制に携わる者は、精神鑑定が頻繁におこなわれ少しでも異常を示せば核とは関係のない部署に配置転換される。