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定在波シミュレーション

 ヴァンダースティーンの推奨するスピーカの設置方法のところで追記しましたように、室内音響測定結果にシミュレーションがどこまで近づくかが非常に興味あるテーマとなりました。シミュレーションというのは通常は実測の前におおよその傾向を把握するために行うものですが、今回は実測値というリファレンスがあるわけで、シミュレーションの正確さがすぐ検証できます。ソフトウェアの開発者にとっては厳しい条件ですが、使う者にとっては好都合です。
 下図は現状のセッティングでのシミュレーション結果です。上のグラフが天井高を2.4mとした場合、下のグラフが吹き抜けの部分を考慮して、平均天井高3.0mとした場合です。スピーカの位置は背面から1.2m、左右の壁から0.7mとなっています。このソフトはスピーカ及びリスニングポイントの高さも入力します。左右のスピーカはそれぞれ独立に計算されますが、この場合は左右対象にセッティングし、かつ壁の反射率も同じとしましたので、差は生じません。青のラインは両方の音圧レベルを加算したものです。

(天井高を2.4mとした場合)

(天井高を3.0mとした場合)

 下図は室内音響測定で示したサインスイープのグラフです。これと上の天井高2.4mのグラフと比べると一目瞭然ですが、50Hz付近の凹みや、90Hz付近の盛り上がり、更には200Hz近辺の凹みなど、その忠実な再現は感動的です。上記で天井高3.0mとしてみたのは、吹き抜けの部分の構造が少しは効いているはずという願望を込めたものですが、その試みは見事に否定されました。つまり、石井式リスニングルームで再三指摘されている天井が低いことによる低音域の凹みがここでも立証されたということで、吹き抜け部分はこの問題の解消には全く寄与していないと言うことがわかりました。これは吹き抜けを作るにあたり家族を無理やり説得した者には残酷な結果でした。どうせ変らないのなら、床を張って二階の部屋を広くしたいと言い出しかねません。もっとも天井高を仮に3.0mとしても90Hzの定在波は同様に存在しており、2.4mの時のような極端なレベルの低下はないものの、45Hzと75Hzあたりでレベルの低下が見られます。中途半端な高さでは根本的な解決にはならないということです。
 さらにシミュレーションの結果判明した事実は、90Hz近傍の盛り上がりが、室内音響測定のページで記載した通り、定在波の影響であったということです。この現象はCDの再生においても、FFT結果に顕著に現れています。

 このすばらしいシミュレーション結果から、このシミュレーションソフトは本ページの目的である、スピーカの最適ポイントの割り出しに最も適したツールであることが確認できました。その点でもこのソフトはよくできており、スピーカの位置やリスナーの位置を、部屋の平面図上でマウスを動かすことで指定できます。下図はこのようにして割り出した最適位置で、天井高3.0mの特性には及びませんが、50Hz近傍の凹みを大幅に低減しています。このソフトを使ってみるとすぐわかりますが、定在波はスピーカやリスナーの位置で敏感に変ります。50Hzの凹みを低減する位置は他にも多数存在しますが、現在の位置は聴感でかなり追い込んだポイントであり、なるべく近い位置で探した結果です。この配置は現在のポイントから横方向に7cm、背面に2cmと、ごくわずかな差ですが、50Hzの凹みのみならず、200〜300Hzの凹みも解消されており、大幅な改善が期待できます。ちなみに、最初に引用したヴァンダースティーン氏の推奨する1/5分割時の配置は横壁から0.72m、背面から1.08mで、これと下記シミュレーション結果の最適値と比較すると、横方向の誤差が9cm、縦方向の誤差が10cmとこれもわずかの差で、最適ポイントを簡易に決めるには良い方法であることが裏づけられました。

(シミュレーションによる最適セッティング)


 さて、重いスピーカをシミュレーションの最適ポイントに動かし、スパイクのレベル合わせをした結果は如何に。肝心の低音については、ブルックナーの後期シンフォニーの出だしの低音弦の響きが少し強まったかなという程度で、それほど変りません。むしろ左右のスピーカの間隔が14cm広がったせいか、空間的プレゼンスを高める効果がありました。従来は左右のスピーカの間にステージがあったのが、その周囲にホールの空間が感じられ、本格的に設計されたリスニングルームでよく云われる、音に包まれる感じが少しばかり出てきたような気がします。スピーカの設置については、シミュレーションでは考慮していない重要なパラメータがあります。それはSPの向き(部屋に対する角度)と、リスナーとの関係です。802Dは指向性は良いので、リスナーに対抗するまで振る必要はなく、中抜けとならない程度に内側に振ったくらいが、金管がうるさくなく、(もちろん特定のCDの話です)良い結果が得られます。
 このポイントで再度リスニングポイントにおける伝送特性を測定したのが下記グラフです。50Hz近傍の凹みはシミュレーションほどのドラスティックな差はありませんが、それでも3dB改善されており、これは結構大きな差です。元の位置での測定結果と比べると全体に凸凹は少なくなっていますが、200-300Hz近傍の暴れ方には大きな差は認められません。

下図は、移動前の測定値と、シミュレーションによる最適ポイントである上のグラフを重ねて表示したものです。このグラフからも、赤のライン(最適解)の方が250Hz以下の帯域ではよりフラットになっていることが読み取れ、シミュレーションの正しさを裏付ける結果となりました

 

 シミュレーションの結果得た知識として、伝送特性の測定時は、リスニングポイントの位置を正確に設定する必要があるということです。元のスピーカ配置で測定した時のマイクの位置は、今から思えばあまり正確ではありませんでした。そこで念のため、マイクの位置を最適解のリスニングポジションから前方に10cm動かしてみました。(家具の配置から、後ろにずれる可能性はないので)
 以下のグラフはその結果で、前に出た方が予想通り50Hzの凹みが大きくなりますが、それでも元の位置の特性に比べれば、はるかに改善されています。結論として、シミュレーション上のスピーカの最適位置が、多少リスニングポイントがずれていても良い特性が得られることがわかりました。(2008年2月)