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調音パネルの復活

 オーディオルームのチューニングについては、2014年にANKHを導入して以来、その状態で気になることもなく、手を付けずに9年間過ごしてきました。ANKHの効果は、その設置場所にも依るようですが、拙宅の場合はコーナー・タイプですので、種に中低音域の発散にあり、確かにANKH設置以降は、以前のようにコーナーに低音がたまるような現象は認められません。コーナー以上に音に影響するのはスピーカの背面の壁で、それが石膏ボードとビニールクロスなのは当初から気になっていました。ANKH導入以前に、MCSの調音パネルとガラスウールの吸音パネルを使って、いろいろトライした経緯については、調音パネルのページに記載した通りです。ANKH導入時にはまだ、その調音パネルを1枚だけ残していましたが、結果的にはすべてのパネルを撤去し、ANKHのみとするのが、ANKH本来の能力を発揮させる最も良い方法との結論に至りました。

 その時に使ったのが左のMCSのパネルで、吸音材を詰め込んだModel 2と、反射機能のみ持つModel 3が販売されていましたが、使ったのはModel 3です。MCSのパネルはすでに市場からは消えたようですが、2008年に購入して、2014年までは使っていましたので、6年間使ったことになります。ANKHの導入で不要になったものの、使っている無垢の木材は音響以外の目的でも使えそうで、廃棄するのも忍びなく、3枚とも保管していました。
 それをもう一度使ってみようという気になったきっかけは、2022年にスピーカをアマティ・トラディションに替えたことで、更に響きを良くしたいという思いが強くなったためです。その気持ちを後押ししたのは、たまたま書店で目についた、ステレオの2023年4月号の「実践!ルームチューニング」という記事で、特にどの記事がということではなく、オーディオルーム共通のあり方として、ほとんどの場合、スピーカの背面は木材等の反射性の素材を使っているということでした。とはいえ、Model 3をそのまま持ち込めば、低域が持ちあがったり、位相が不自然になったりする悪影響が出るのは目に見えています。そこで、当時の経験を元に思いついたのは、周囲の枠を取り外して、パネル自体を直接、石膏ボードの壁に固定する方法です。ただ、パネルのみ使うとなると、周囲の枠だけでなく。背面に補強のために接着されている2枚の合板も取り外す必要があり、果たして、きれいに分解できるか、やってみなければ分かりません。

[パネル前面]
フレームの幅は60mmあり、パネルの周囲を囲む。

[パネル背面]
裏面の補強版は二か所あり、接着されている。

 分解の手順ですが、まず全周にはめ込まれている枠を取り外します。その下準備として、下図のように、上下の枠をパネルごとカットし、次に左右の枠を矢印の方向に叩いて、パネルと分離しました。枠はパネルとピンで接続されているものの、接着剤は少ないので、比較的容易に外れました。パネルの加工については、枠付きですと、正確な寸法が出せないので、、左右の枠を外してから、再度必要な長さにカットしています。問題は裏面の補強版で、当然ながら分解することは想定していないので、ほぼ全面が接着剤で固着されており、剥がすのは大変でしたが、パネルの裏面は見えないので、多少の傷は覚悟で、無理やり剥がしています。

 このパネルについては苦い経験がありますが、使い方が難しい理由の一つはパネルが無垢材のため、これに枠が加わると、非常に重いことです。その点、今回はパネルだけですし、それを直接壁に取りつけますので、壁の補強にもなり、以前とは違うという確信はありました。とは思いつつも、この作業はそれなりに大変ですので、まずは1枚半を貼ってみました。1枚ですと、石膏ボード裏の間柱の間隔に足りないため、もう1枚のパネルを縦に切断して接続しています。これで、縦の間柱2本で固定出来ました。

 この状態で、一番気にしていた反射音がきつくなることはなく、鏡面効果でしょうか、音像が奥まり、高域よりも低域の音の動きがより鮮明になりました。この試聴結果は予想以上で、やはりスピーカ背面の壁を補強した効果が出ているようです。定位の良さは、空間的な透明感にも効果的に働くようで、背面に響きの良い材料を使うことのメリットが感じられます。これならばいけると判断し、あと1枚残っていたパネルも分解して、ほぼ左右で均等になるように張り付けました。

 スピーカ背面の壁にパネルを取りつけたことで、壁からスピーカまでの距離がパネルの厚さ(約2cm)分だけ近づいたことも考慮し、より奥行き感を得るべく、SP位置を従来の123cm(K-01XD導入時に変更した位置、当時のSPは802SD)から125cmに変更しました。123cmから125cmへの変更時は1cmづつ測定して、F 特性に影響ないことを確認していますが、最終的にSP台を動かして再度測定した結果、下記の通り、123cm時に比べて、部屋の定在波の影響がわずかに大きくなっています。いずれの測定結果でも共通なのは、恐れていた、パネルによる低域の盛り上がりが認められないことで、この要因は、パネルを直接壁に取りつけたことよりも、ANKHの有無が大きいのではないかと思います。
※パネルによる低域の上昇が認められたのはスピーカが802Dの時ですから、アマティと違い、20Hz以下まで素直に延びていることも、その要因と思われます。アマティは下図の通り20Hzで大きく減衰しますので、ANKHよりも、スピーカの違いが影響している可能性もあります。(後日追記)

壁から125cmでのSP裸特性(左)

壁から125cmでのSP裸特性(右)

移動前(壁から123cm)のSP裸特性(左)

移動前(壁から123cm)のSP裸特性(右)

 今となっては、低域の盛り上がりの原因を追求するのは不可能ですが、ANKH導入後に、SP背面に残していた1枚のパネルも最終的には取り外しているということは、パネルの周囲にはめ込まれた枠が見かけ以上に、位相の乱れに影響していたと考えられます。しかし、今回のようにパネルのみをフラットに並べる使い方では、設置してからすでに2ヶ月以上になりますが、気になるところはありません。パネルを1.5枚張った時感じた、定位の良さ、響きの豊かさ、奥行き感などの効果が、パネルを増設したことにより、更に拡大された印象です。CDはもちろんですが、テレビの音楽番組でさえ、空間的表現がより楽しめるようになったのは予想外でした。このパネルの工事を行ったのは、ちょうど「CD再探訪ー宗教曲」のページに取り掛かっていた時で、大編成の曲を毎日のように聞いていても、うるさいと感じることなく楽しめました。一時は廃棄処分というところから、新たな活用方法を見出したパネルですが、15年経っても劣化することなく再利用できるのは、オーディオ機器との大きな違いです。まさに”物は使い様”ということを実感しています。(2024年1月)