Homeの写真でご覧いただいたように、オーディオを理想的環境で楽しむには、スピーカの周りに何も置かないことです。しかし、これは実は一番難しいことなのです。一般にオーディオ機器はリビングルームに置きますが、そうするとテレビがあり、オーディオ機器も置き場所を確保するのが大変で、どうしてもラックに納めて、左右のスピーカの真ん中におくことになります。この手の配置は一番多いのですが、これでは音像は出せても音場の再生は無理です。我が家もアンプ類はなるべく影響が出ないように低く並べていますが、ここしか置くところがないので仕方ありません。
オーディの世界では音の再生イメージは、音像型と音場型で語られます。音像型とは実際にそこで楽器が存在するかのような再生です。一般にジャズやピアノ、小編成の音楽の再生に向いています。一方の音場型はコンサートホールのイメージです。もともとフルオーケストラを再生するのは無理な話で、せめて雰囲気を再現しましょうということです。バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスが左右に並び、管楽器がその奥にきちんと配置するにはスピーカの周りに障害物があってはだめなのです。スピーカの配置についてはスピーカのセッティングのページを参照していただくとして、ここではオーディオルームについて紹介します。
私の知る限り、オーディオルームに関する最も信頼できる最近の研究成果は石井式リスニングルームです。ちなみに、昔はオーディオルームではなく、リスニングルームと呼ばれていました。おそらくビジュアルオーディオの普及で、オーディオルームに変わってきたものと思います。ここで推奨されている部屋のプロポーションは、部屋の最長辺を「1」としたとき、1.0、0.845、0.725となっています。これは日本の6畳間に比較的近い寸法比ですが、問題は大きくなった場合に、横幅ならびに天井の高さが必要になることです。右図がその寸法比ですが、イメージ的にはキューブに近い部屋となります。
私のオーディオルームは変則12畳(つまり8畳に4畳を継ぎ足した構造)ですが、そうすると、長手方向が5.4mですので、横幅が4.6m、天井高は3.9m必要となります。これは通常の家では実現不可能です。
この寸法比にどれだけ近づけられるかが、部屋の設計ですが、新築ならともかく、改築となると制約が多く、ままなりません。一番ネックとなったのが、耐震強度で、既存の壁はどうしてもとるわけにはいきません。結局、下図のような、8畳+4畳を結合したものとなりました。この4畳の部分は増築ですが、天井をできるだけ高くするため、吹き抜けにしました。オーディオルームの上は子供部屋で、部屋が暗くなったと文句を言われつつも、どうせ居なくなるのだからと押し切りました。計算上の平均天井高は3mで、これでも理想には足りません。一方で、エアーボリュームは2階の窓を開けると実質的に2倍、つまり24畳相当ですので、これで少しは良くなるだろうと信じることにしました。
構造が決まると次は防音ですが、これはコンクリートの壁が理想です。でも我が家は改築ですので、所詮コンクリート壁は無理、となると現実的なところで妥協するしかありません。とは言ってもお隣から苦情が来ない程度の配慮は必要で、目標を35dBとし、この観点から窓は二重にしました。そのうち1枚はスぺーシアという3mmのガラスを二枚合わせ、その間を真空にしたものを使いましたので、実質的には3mm+3mm+5mmの3枚構成になっています。壁は石膏ボードを二重にしました。壁は外壁との間に断熱材が入っているので窓に比べればもともと遮音性が良く、これで十分です。
問題は吸音です。吸音特性を調べるとわかりますが、低音の吸音には30cm程度のロックウールが必要です。ところが、木造の場合、もともと低音の遮音は期待できない、つまりすべて外に漏れてしまいますので、吸音の必要はないわけです。防音を優先してコンクリートのリスニングルームを作ったものの、いわゆる抜けの悪い音になり勝ちなのは、低音の吸音が難しいためです。この問題の解決を提案しているのが先の石井式リスニングルームで、下図のように、反射面の裏も吸音材として、10cm程度の厚さで低音域での吸音を実現しています。
(ステレオサウンドNo.154「石井式リスニングルームのすべて」から引用)
木造の場合、低音の吸音は考えなくても良いと言いましたが、その他の帯域は必要です。高域はあとから吸音材を張れば調整できますが、数百Hz帯の中域の吸音は設計時に考えておかないといけません。壁はすべて石膏ボードの二重張りとなると、吸音構造がとれるのは天井です。中音域の吸音材で昔から良く使われているのが穴あきボードです。この検討には音響技術の「遮音・吸音材料の基礎事項」が役立ちました。穴の大きさを選べば吸音する周波数帯域を設定できますが、ここだけ厳密にやっても意味がないので、ランダムな穴のあいた吉野石膏のボードを使い、その上にロックウールの空気層を設けました。工務店の社長には事務所みたいだと言われましたが、すっきりした感じが気に入っています。ただし、真上を見ると穴からロックウールが見えるのが難点です。
先に引用した石井式リスニングルームの解説によれば、この方式では反射音が空間的、時間的にばらばらで、美しい響きが得にくいとあります。救いは天井のみとすることで、少なくとも空間的にはバランスがとれるのではないかと考えました。
最終調整は測定をしないと決められないのですが、増築部分においたピアノが響きすぎるので、とりあえず吸音材を張って調整しました。聴感だけを頼りにグラスウールの板を6枚張りました。吸音材はオーディオ用と言うだけでべらぼうな値段がついていますが、日東紡のダンボードG7は安価で、効果抜群です。厚さも50mmあるので、中域まで効果があると思われます。ただし表面はガラス繊維で巻いただけなので、見かけはよくありません。家庭用というより、振動試験室など工場の防音用のイメージです。
このパネルはオーディオにも効いているはずですが、リスニングポイントが前にあるせいか、それほど大きな違いはありません。吸音材は使い過ぎると響きを殺してしまい、何とも味気ない音になりますので、このくらいでちょうど良いと思います。ここから先は部屋の残響特性や伝送特性を測定し、最適状態に追い込む作業が残っています。音響測定用のソフトウァアはよく知られた物だけでも3種類あります。いずれもスピーカの測定用に開発された物なので、ルームアコースティックにどこまで使えるか、目下検討中です。
オーディオルームを1階に作るメリットは床を補強し易いことです。このオーディオルームはもともと洋間でしたので、その上に床暖房のパネルと、化粧板を張ることになり、12mmx3層の丈夫な床となりましたが、その分天井が低くなってしまいました。スピーカの部分は地面からコンクリートを立ち上げ、これに根太を直接乗せています。この工法で極めて丈夫な床になりましたが、歩くとコンクリートの上を歩いているようで、感触はあまりよくありません。コンクリート直張りとしたのは入り口から1.4mまでで、居住性優先にしました。後でわかったことですが、全面コンクリート張りにすると、低音が吸収できなくなり、堅い音になるそうです。
これも改築の故ですが、スピーカの間に扉があるため、スピーカケーブルがじゃまになります。工務店と相談し、あらかじめコンクリートの中にパイプを通してもらうことで解決しました。ケーブルが長くなる欠点はありますが、写真のように、床面をはわせるよりきれいに処理できています。(2006年9月)
後日談:オーディオルームが完成したのが2005年の6月ですから、もうすぐ3年になろうとしています。この間オーディオ装置を一新し、オーディオ的な意味でのハイクオリティを保ったまま、如何に心地良い音を出すかに四苦八苦してきました。ようやく一息つける音になった段階で、やはり良い音の決めては部屋であるという極めて当たり前のことを再認識しています。
オーディオルームの音響特性については、室内音響測定のページを参照していただくとして、ここで素人ながら考え、実行してきたことは一応成功したと思います。しかし、石井式との決定的な差は部屋の響きの豊かさで、残響時間のような測定値だけで表すのは難しい、極めて感覚的なものではないでしょうか。石井式リスニングルームなど、本格的に設計・施工されたオーディオルーム*を持つ人たちの一致した意見はリスニングポイントで音に包まれるような感触が得られるということで、これはオーケストラサウンドを楽しむ上では決定的な差です。(*当時はエーアンドエーというデザイン事務所にリンクしていましたが、現在は当該サイトが見当たりません。2021年10月追記)
響きの質感に関しては、先に引用したステレオサウンドの記事によれば、内壁材には厚さ5〜6mmの天然木を使うべきで、響きの質は反射板の素材に依存するそうです。ということは、拙宅の場合、いわばビニールクロスの音を聴いていることになります。言い換えれば、ここに改善の余地があるわけで、まずはスピーカの背面と壁面、つまり部屋のコーナーにしな合板を張って、その違いを確認してみようと考えています。それで効果が認められれば、QRDなどの反射板の導入も考えられますが、一方でリスニング環境としてあまりに物々しくなるのは避けたいものです。(2008年2月)