小渕社会保険労務士事務所 HOME
サイトマップ
小渕社労士事務所へのメール
ご挨拶 業務内容 委託するメリット 相談事例 就業規則とは 労働問題 就業規則不備で 労働判例 法改正情報 あっせんとは コラム リンク
ごあいさつ

業務内容

委託するメリット

相談事例

就業規則とは?

労働問題あれこれ

就業規則不備で?

労働判例あれこれ

法改正情報

あっせんとは

コラム

リンク

 労働基準法は、労働者を保護するために、労働時間の上限や解雇予告など労働条件の一部の最低事項を定めたものですが、その他の労働条件、具体的には労働契約や就業規則の内容(例えば配転出向、休職、解雇事由、退職事由など)は、法律では定められていません。そのため、労働契約や就業規則の内容をめぐって数限りない裁判が行われ、その積み重ねによって、労働判例法理が形成されてきました。
 労働契約や就業規則の内容について定めた法律がない以上(労働契約法は将来その役割を果たすことが期待されているが)、労働契約や就業規則などの職場でのルール作りやその運営、労使紛争の解決基準として労働判例法理を参考にせざるをえません。ここでは、主要な最高裁判所での判例を掲載しますが、参考になればと願うところです。

その1 労働者に周知をしていない就業規則は効力がない。
      (フジ興産事件、最高裁平成15年10月10日判決)
1.事件の概要
 懲戒解雇された労働者Aが、その懲戒解雇の効力を争うとともに、B社代表者など3名に対して違法な懲戒解雇に関与したとして損害賠償の訴えを提起したもの。なお、労働者が勤務していたB社エンジニアリングセンターには、懲戒解雇の根拠となった会社の就業規則は備え付けられていなかった。(周知されていなかった。)第1審ではAの請求を一部認容したが、控訴審は『A社には就業規則が制定されているのであって、Aがエンジニアリングセンター勤務中、それが同場所に備え付けられていなかったとしても、…就業規則がエンジニアリングセンター勤務の従業員に効力を有しないと解することはできない。』としてAの請求を棄却した。そこでAが上告。

2.最高裁判決要旨(破棄差戻し)
 最高裁は、就業規則が、Aが所属していたエンジニアリングセンターの労働者には周知されていなかったと事実認定。周知されていない就業規則には効力がないとし、以下のような判決を下した。

 『使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。そして、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。原審は、B社が、労働者代表の同意を得て就業規則を制定し、これを労働基準監督署に届け出た事実を確定したのみで、その内容をエンジニアリングセンター勤務の労働者に周知させる手続が採られていることを認定しないまま、就業規則に法的規範としての効力を肯定し、本件懲戒解雇が有効であると判断している。原審のこの判断には法令の適用を誤った違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。』

3.判決の意義
 本判決は労働契約法第7条(労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。)の根拠となった重要な判決である。就業規則が、例え労働基準監督署に届け出されていたとしても、その事業場に働く労働者に周知手続(いつでも見れるようにしておけばよい)がとられていなければ、法的規範としての効力がないとし、従来からの最高裁判決の『合理的な内容を定める就業規則は労働者との合意がなくても労働契約の内容となる』との基準とあわせて、就業規則が法的規範としての効力が生ずるためのもう一つの基準を示したものである。
1.事件の概要
 Aは勤務するB銀行を昭和54年5月31日に退職した。B銀行の就業規則には『賞与は決算期ごとの業績により各決算期につき1回支給する』との定めがあり、毎年6月と12月に賞与が支給されてきた。また、B銀行には従来から賞与はその支給日に在籍する者に対してのみ支給するという慣行があったが、労働組合の申し入れを受け、かかる慣行を昭和54年5月1日より就業規則として以下のように明文化し、全従業員に配布し周知徹底を図っていた。『賞与は決算期ごとの業績により、支給日に在籍している者に対し、各決算期につき1回支給する。』これをうけて、昭和54年6月支給分は前年10月1日から翌年3月31日までの査定期間を対象に6月15日に夏季賞与が支給されたが、当日にすでに退職していたAには支給されなかった。
 Aは、これを不服としてB銀行を相手取り、賞与の支払を求めて訴えをおこした。1審、控訴審ともB銀行の就業規則には合理性があるとして、この訴えを斥けた。そこで、Aが上告した。

2.最高裁判決要旨(上告棄却)
 最高裁は、就業規則の賞与の『支給日在籍要件』を合理的なものとし、以下のような判決を下した。

 B銀行においては、本件就業規則の改定前から年2回の決算期の中間時点を支給日と定めて、当該支給日に在籍している者に対してのみ右決算期間を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在してきた。本件就業規則の改定は、B銀行の従業員組合の要請によって右慣行を明文化したにとどまるものであって、その内容においては合理性を有するものである。本件の事実関係のもとにおいては、Aは、B銀行を退職したのちである昭和54年6月15日及び同年12月10日を支給日とする各賞与については受給権を有しないとした原審の判断は、正当として是認することができる。

3.判決の意義
 本判決は直接的には、就業規則上の支給日在籍要件の有効性を認めたものであるが、同時に賞与の法的性格について、通常の賃金との違うことを明確にしたという意味で重要である。
 通常の賃金であれば、支給対象期間に在籍しかつ労務に服していれば、支給日に在籍していなくとも、当然にも請求権は生じる。ところが賞与については、支給対象期間に労務に服しただけでなく、将来の勤務への奨励などもこめられており、また支給日や支給額も就業規則などで確定していないことが多い。
 そこで、支給日に在籍しない者には賞与を支給しないという扱いは、それが契約上の合意など法的に明確な根拠があれば有効であると考えられてきたが、本判決では就業規則に合理的な『支給日在籍要件』が記載されている場合も有効とした。ただ、賞与の支払いを逃れるために、労働者の離職と賞与支給日を操作することもありえるし、また退職日を自ら選択できない定年退職まで支給日在籍要件を機械的に適用することには、疑問視する考え方があるようである。
1.事件の概要
 Y公社に勤務し電話交換業務に従事していたAが頸肩腕症候群と診断され、その後昭和50年9月には業務上災害と認定され、治療を継続した。Y公社は発症後3年後も症状が改善しない労災認定の職員Aに対し、組合と労働協約を締結し、Y公社の経営する病院に入院して頸肩腕症候群の検診を受けるよう2度にわたって業務命令を発した。これに対してAは、Y公社の経営する病院は信頼できないなどしてこれを拒否した。Y公社は、このAの受診命令拒否は就業規則の懲戒事由『上長の命令に服さないとき』に該当するとして戒告処分を下した。Aはこれを不服として、その無効を訴えて裁判をおこした。1審、控訴審ともAの請求を認容し、戒告処分を無効とした。そこで、Y公社が上告した。

2.最高裁判決要旨(原判決破棄)
 最高裁はY公社の業務命令には根拠があるとし、戒告処分を有効なものと認め、以下の判断を示した。

 就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、その就業規則の内容が合理的なものであるかぎりは、当該労働契約の内容をなしているものということができる。…公社就業規則によれば、健康管理上必要な事項に関する健康管理従事者の指示を誠実に遵守義務があるばかりか、要管理者は健康回復に努める義務があり、その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があることとされているのであるが、以上の就業規則の内容は、公社職員が労働契約上その労働力の処分を公社に委ねている趣旨に照らし、合理的なものというべきである。…健康管理従事者の指示の具体的内容については、要管理者の健康の早期回復という目的に照らし合理性、ないし相当性を肯定しうる内容であることには間違いない。…精密検診の内容・方法に合理性ないし相当性が認められる以上、要管理者が本来個人として有している診療を受けることの自由、及び医師選択の自由を侵害することにはならないというべきである。…AにはY公社との間の労働契約上、健康回復に努める義務があるのみならず、右健康回復に関する健康管理従事者の指示に従う義務があり、従って、Y公社がAの治療回復のため、頸肩腕症候群に関する総合精密検査を受けるようにとの指示をした場合、Aとしては、右検診についてAの疾病の治療回復という目的との関係で合理性ないし相当性が肯定し得るかぎり、労働契約上右の指示に従う義務を負っているものというべきである。

3.判決の意義
 この判決は、就業規則の法的位置について、最高裁が明確に『労働契約の内容となる』ことを示した判決であり、秋北バス以降も議論が続いていた就業規則の法的性格や拘束力をめぐる問題に一応の決着をつけたものである。
 さて、業務外の疾病で長期休職し、休職期間満了時期に『軽作業できるくらいの健康状態である。』というような診断書をもってきて復職を請求してきた場合は、どのように対応すべきでしょうか?労働者のかかりつけの医師も労務のプロではなく、患者の疾病を直すことが仕事ですので、患者の仕事の中味をわからずに診断書を書くこともあるでしょうし、また医師と患者という関係から、頼まれたら復職可能と書かざるを得ないこともあります。ですからこの診断書は絶対的なものではなく、あくまでも参考材料と考えるべきでしょう。もし健康状態が不安定な状態で復職を許可した場合、疾病を理由にして欠勤をするなど業務に支障がでたり、なによりも仕事中にその疾病により事故等があった場合は、事業主に安全配慮義務違反の民事責任が問われる危険性があります。
 ですから、この場合に直接本人の健康状態を確認したり、必要なときは例えば会社の業務を熟知している産業医の診断を受けてもらい、その上で復職の可否を決定すべきでしょうが、労働者が『診療を受けることの自由、医師選択の自由』を盾にそれを拒否した場合、どうしましょうか?
 本判決は、就業規則に合理的な内容が記載されている場合は、その検診を命令する業務命令に従う義務があるとしてあります。この検診が治療ではないので『診療を受けることの自由、医師選択の自由』を侵すこともないので、業務の円滑な運営や安全配慮義務の履行のためには、この業務命令権はごく当然のものといえるでしょう。
1.事件の概要
 Aが勤務するB社就業規則には、業務上の都合によりやむを得ない場合にはB社労働組合との時間外労働協定により労働時間を延長することがある旨の定めがあり、またAが所属する工場とB社労働組合との間には『納期に完納しないと重大な支障を起すおそれがある場合…業務の内容によりやむを得ない場合、その他前各号に準ずる理由のある場合は、労働時間を延長することがある』旨の時間外労働協定が締結されていた。
 Aは、上司から製品の良品率が低下した原因の究明と手抜き作業のやり直しを行うため残業するよう命じられたところこれを拒否したため、出勤停止等の処分を4回受けていた。その後も残業命令に従わなかったため、B社はAに悔悟の見込みがないとして、懲戒解雇した。Aは懲戒解雇の無効を主張して訴えを提起し、第1審はAの主張を認容したが控訴審がこれを取り消したため、Aが上告した。

2.最高裁判決要旨(上告棄却)
 最高裁は、就業規則に時間外労働を労働者にさせる旨の記載があり、その内容が合理的であり、労働者の過半数を代表する者と書面による協定(いわゆる36協定)を締結している場合は、時間外労働は労働契約上の義務となるとし、以下の判断を下した。

 労働基準法第32条の労働時間を延長させて労働させることについて、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合と書面による36協定を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、当該事業場に適用される就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、当該就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働する義務を負うものと解するを相当とする。…本件の場合、B社の武蔵工場における時間外労働の具体的事由は36協定に定められており…その事由は、いささか概括的、網羅的であることは否定できないが、企業が需給関係に即応した生産計画を適正かつ円滑に実施する必要性は同法36条の予定するところと解される上…B社武蔵工場の事業の内容、Aら労働者の担当する業務、具体的な作業の手順ないし経過等にかんがみると、上記事由も相当性を欠くものではない。

3.判決の意義
 本判決は直接的には、再三再四時間外労働命令に従わない労働者に対する懲戒解雇の有効性をめぐって争われたものであるが、本質的には時間外労働命令に労働者が従う義務があるのか、あるとすればどのような要件が必要なのかを問うたものといえるでしょう。
 そもそも36協定は、時間外労働をさせても免責(協定がなく労働基準法第32条で定める1日8時間、週40時間を超えて労働させると同法違反)となるだけで、それを根拠としては時間外労働の義務は生じない。
 しかしながら、本判決は、就業規則で労働者に時間外労働を命令する旨、及びそれを行う必要性の具体的事由の記載があり、かつ合理的であるならば、それが労働契約の内容、すなわち時間外労働の義務はあるとした。また、具体的事由が就業規則に記載がなくても、36協定によるとある(委任している)のだから、36協定の中に記載されている事由が合理的であるならば、それが『やや概括的、網羅的』であっても、『労働契約で定める労働時間を超えて労働する義務を負うものと解する』としたのである。
 『やや概括的、網羅的』な内容がはたして合理性があるのかという点などで批判があるようだが、とりあえずは、要件(就業規則に労働者に時間外労働を命令する旨、及びそれを行う具体的事由の記載があり、それが合理的であること、場合によっては具体的事由の記載は36協定に委任するものでよい)に適合すれば、労働者に時間外労働命令に応ずる義務があるということである。ただし、労働者の側にそれに応じられない正当な理由(例えば同居家族の看護等)がある場合は、別であることは確認すべきでありましょう。
1.事件の概要
 Aは昭和45年12月1日、雇用期間を同月20日までと定めてB社柏工場に臨時工として雇用され、同月21日以降は、期間2ヵ月の労働契約を5回にわたって更新された。B社は、昭和46年10月21日以降、不況による業務の縮小を理由として契約更新を拒否するに至った。Aは、AB間の労働契約は期間の定めのないものであるとして、本件更新拒否(雇い止め)は解雇にほかならず、その行使は権利濫用であるとして労働契約上の従業員としての地位の確認を求めて訴えを提起した。第1審はAの主張をおおむね認容したが、控訴審はB社による雇い止めは有効と判断したため、Aより上告。

2.最高裁判決要旨(破棄差戻し)
 B社柏工場の臨時員は、季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されているものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、Bとの間に5回にわたって契約が更新されたものであるから、このような労働者を雇用契約満了によって雇い止めするにあたっては、解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用に該当して解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が契約を更新しなかったとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は、従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係になると解せられる。…しかし、右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである限り、雇い止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工とは合理的な差異があるべきである。…独立採算性がとられているB社の柏工場において、業務上やむを得ない理由により人員削減する必要があり、その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく、臨時員全員の雇い止めが必要と判断される場合には、これに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職募集の方法による人員削減をしなかったとしても、それをもって不当・不合理であるということはできず、臨時員の雇い止めが行われてもやむを得ないというべきである。

3.判決の意義
 期間の定めのある労働契約が反復更新された後に使用者が契約更新を拒否した場合、当該契約が常に終了するわけでないことは、東芝柳町工場最高裁判決(昭和49年7月22日判決)以降定着している。この事件は、正社員とほぼ同様の仕事をし、かつ労働契約更新もほぼ自動的に行われているような場合については、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態であり、その場合の雇い止めは『実質的に解雇にあたり、解雇権濫用の法理を適用する』という限定的な解釈を示したものである。
 ところが、その後は、労働契約の更新も『ほぼ自動的』にではなく、厳密にやられるようになったという事情を反映してか、この『期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態』ということに該当することを理由に雇い止めが無効となった判決はほとんどない。
 これに対して登場したのが、この日立メディコ事件判決で登場した、『雇用契約更新への期待が合理的であるような事情でなされた雇い止めには解雇権濫用法理が類推適用される』という判例法理である。本判決は、期間2ヵ月の労働契約を5回更新しただけでも、業務に臨時性がない場合は、雇用契約更新への期待は法的に保護されるべきものとしたが、この考え方は以降の判例で定着したといっても過言ではない。
 一方で、法的な保護の度合いであるが、本件では『右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである限り、雇い止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工とは合理的な差異があるべきである。』として、正規雇用者のそれに比するならば低いものにしていることは、みておかなければならない。
1.事件の概要
 B会社の従業員であるAは、宿直勤務中、B会社に侵入して商品を盗もうとした同社の元従業員Cに殺害された。Aの両親らDらは、B会社の安全配慮義務違反を理由に、損害賠償の請求をした。1審は、Dらの請求を一部認容した。(Aの過失を3割5分と認定して過失相殺。)控訴審も、Dらの請求を一部認容した。(Aの過失を2割5分と認定して過失相殺。)
 控訴審を不服として、B会社は上告した。

2.最高裁判決要旨(破棄差戻し)
 雇用契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払を基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し、又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解するのが相当である。…これを本件に即してみれば、B会社は、A1人に対し24時間の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋1階商品陳列場と指示したのであるから、宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかもしれない危害を逃れることができるような物的施設を設けるとともに、これが不可能なときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、労働者たるAの生命、身体等に危険を及ぼさないように配慮する義務があったものと解すべきである。
 本件では、Aに対する安全配慮義務の不履行があり、それにより、本件事故が発生したものということができるので、B会社は、この事故によって被害を被った者に対しその損害を賠償すべき義務がある。

3.判決の意義
 本件は、民間の労働者について、使用者の安全配慮義務を認めた最初の最高裁判決である。(公務員については陸上自衛隊八戸車両整備工場事件)その後の判例の積み重ねによって、今日労働契約法第5条『使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。』として法律となった。
 安全配慮義務の内容はケース・バイ・ケースの判断となるが、まずあげられるのは労働者の利用する施設、機械、器具等についての安全を確保することである。場合によっては、適正な人員配置といった人員配置や教育というソフト面での配慮義務が問われることは当然となっている。
 近年では、安全配慮義務の内容に労働者の健康に対する配慮する義務が含まれるようになったので、十分な注意を有することはいうまでもない。ただし、訴訟になった場合、安全配慮義務の特定やその義務の不履行の事実などは、訴えた労働者の側にその立証責任があるとされているのですが、その立証にはたいへんな困難があると思われます。

 

小渕社会保険労務士事務所  特定社会保険労務士 小渕 匡高(こぶちきよたか)
〒207-0017 東京都東大和市向原3-2-21 ハーヴェスト1-301 TEL 042-566-3260 FAX 042-566-3267
Copyright(C) 2010 小渕社会保険労務士事務所. All rights reserved.