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 退職した社員に、残業代が未払いだとして120万円請求され、会社はびっくりしました。この社員は営業員ですが、会社としては営業手当を8万円支払っており、その中に残業手当分を含めてきたつもりだったからです。入社時にそのようなことを口頭で本人に伝えた覚えがありますが、雇用契約書には『営業手当を支給する』、また就業規則には『営業員には業務の内容を鑑みて営業手当を支給する』としか記載されていませんでした。会社としては営業手当のなかに残業手当が含まれているはずだから支払う必要がないという認識だったのですが、さてどうでしょうか?
 このような事態に対する裁判例は数多くあるようですが、『一定の時間外勤務に対する割増賃金に見合う部分を営業手当に含ませる意図を有していたことは、一応推認することができる。しかし、そうであるにしても、時間外労働に対して支払られる額及びこれに対応する時間外労働時間数は明示されておらず、そうである以上、これを時間外割増賃金の一部と扱うことができず、従って営業手当は全額これを基礎賃金とせざるを得ない。』というような考え方が司法では主流となっており、この考え方からすると会社は請求どおりの支払いをせざるを得なくなるということになります。
 また、営業手当の中で残業手当が何時間分入っていると明記されていないとするならば、残業手当の未払いということで労働基準監督署から是正勧告を受けることとなり、それに従わなければ、法違反として是正勧告され、それを無視し続けると、事件として送検される危険があります。
 いい悪いは別にして、人的信頼関係にもとづいて形成されてきた日本型雇用関係が縮小し、契約型雇用社会に移行しつつある現在、『営業手当の中に残業手当を含めているつもりだったし、また社員も了解しているはずだった』という浪花節的な主張は通らなくなっているのです。
 時間外労働手当を、固定的手当として営業手当や管理職手当の中に含めて支払う場合は、就業規則のなかで手当の性格を規定し、雇用契約書、労働条件通知書等で具体的に時間外労働手当が、何時間分の何円含まれているというように明記すべきでしょう。
 いわゆる日本マクドナルド問題や、コナカ問題で『名ばかり管理職問題』が社会の注目をあびることとなりました。労働基準法第41条で定める『管理監督者』を拡大解釈し、長時間労働や残業手当支払の規制からのがれようとしている企業の労務管理の有様に対する、一定の警鐘となったことはまちがいありません。そこで、そもそも労働基準法第41条『管理監督者』とはどういうものか考えてみたいと思います。
 まず労働基準法第41条ではどう定めているのでしょうか?

 第41条
労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の1に該当する労働者については適用しない。
  一 省略
  二
事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者。
  三 省略

 この条文だけでは一体どのような人が『管理監督者』に該当するかわかりません。そこで法解釈をした行政通達や判例が問題となってきます。
 行政通達(昭和63.3.14基発第150号)では『管理も若くは監督の地位にある者』の主要な要件を以下のように定めています。
  1. 部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある。
  2. 労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有する。
  3. 基本給、役付手当、ボーナス等において、その地位にふさわしい待遇がなされていること。
 これをみると、職制機構のなかにある管理職がそのまま『管理も若くは監督の地位にある者』になるのではなく、よく吟味する必要があることがわかります。『管理、若くは監督の地位にある者』とは労働者の労働条件を決定する立場にあるか、経営者の立場から労務管理する権限があり(採用する権限や部下を査定する権限等)、それにふさわしい給与を受けているという人というのですから、それなりの権限をもった管理職だけが『管理若くは監督の地位にある者』であることが理解できると思います。
 一般的には管理職になると労働時間規制の適用外になり、時間外労働手当は支払う必要はないと思われがちですが、日本マクドナルド問題やコナカ問題を教訓とするならば『管理若くは監督の地位にある者』に該当する権限をもったものと、それ以外の管理職を分類し、管理しておくことが必要となっていくのではないでしょうか? とりわけ『管理も若くは監督の地位にある者』に該当しない者には、時間外労働手当の支払が必要となりますので、無用なトラブルをさけるために、例えば管理職手当に、具体的な数字(何時間分)の時間外労働手当が含まれていることを明示し、それを本人と合意しておくべきでしょう。
 『管理若くは監督の地位にある者』の解釈に、行政(厚生労働省)と司法(裁判所)に違いがあるのだろうか?その2では、労働基準法第41条の内容は概略的であるので、通達でその行政解釈がされている(それも抽象的といえば抽象的だが)としましたが、それでは裁判所はどう判断しているのでしょうか?
 まず第一に指摘しておかなければならないのですが、『管理若くは監督の地位にある者』に関する民事裁判には、いまのところ最高裁判所の判例がないということです。従って、各裁判所によって積み上げられた考え方はあるにしても、司法としての考えはいまだ完成されていないとしても過言ではありません。
 それをふまえて、管理監督者に関する象徴的な判例であるマグドナルド事件で、東京地裁が『管理若くは監督の地位にある者』の判断基準をどのように考えているのかを見てみるならば、
  1. 職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業運営に関する重要事項にどのように関与しているか。
  2. その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか。
  3. 給与及び賞与についてふさわしい待遇がされているか。
 これとその2でみた63年通達を比較するならば、東京地裁の判断基準では『企業全体の事業運営に関する重要事項にどのように関与』というふうに、『管理若くは監督の地位にある者』のハードルが高く設定されていることがわかります。ある程度の規模の会社、事業体ならばこの要件(企業全体の事業運営に関与)に該当するのは役員、もしくはそれに近いものだけです。
 しかし法をみてもらえばわかるように管理監督者とは『管理若しくは監督の地位にある者』です。経営者の立場に立って労務管理する地位にある、若しくは労働者の監督(仕事監督)の地位にある人です。このような人がそれなりの処遇を受け、また労働時間の規制を超えて管理若しくは監督者としての仕事をまっとうしなければならないとするならば、まさに『管理若しくは監督の地位にある者』に該当するのではないでしょうか。63年通達にある『その他労務管理について経営者と一体的な立場にある』とはまさにそのような人をさしており、その意味では『企業全体の事業運営に関する重要事項にどのように関与』という要件は、あまりにもその範囲が狭くなり、合理性があるとは思えません。
 当面、『管理若くは監督の地位にある者』を考えるにあたっては、その2で紹介した63年通達の趣旨にそっていけばよいのではないでしょうか。もちろん最高裁としての判断がでれば別ですが。
 使用者、従業員問わず退職届と退職願を混同していることがよくみられます。契約論からすれば退職届とは従業員の側からの労働契約の一方的な意思による解除であり、原則的には2週間後に、月給者の場合は給与計算締切日に、ただしその申入れが給与計算期後半になされたときは翌給与計算締切日に終了することが民法第627条に定められています。従って、一度退職届を出してしまえば撤回できないことになります。
 それに対して退職願は労働契約解除の申し込みであり、使用者の承諾があってはじめて成立します。この使用者とは、会社にあっては代表取締役に限られず、人事管理上一定の権限のある者であるならばそれに該当するとされています。承諾があった場合は、雇用契約解除の合意がなされたということになり、退職の意思表示の撤回はできません。
 この違いはあまり意識されておりませんが、従業員の方から出される『退職届(願)』は退職願として受け止めたほうが無難でしょう。なぜなら『退職届』(従業員の側からの労働契約の一方的な意思による解除)は実質会社に対する喧嘩別れ(離縁状)みたいなものであり、そこまですることはきわめて稀であり、通常は、円満退職をめざして会社の合意を求めているはずだからです。
 従って、例え従業員が退職の際『退職届』と記載されていたものを出してきたとしても、それに対しては合意退職の申し込みと受け止めて、承諾の意思表示を行うべきでしょう。それを怠ってしまうと、万が一退職の意思表示の撤回を申し出てきた場合、それを受け入れざるを得ないという困ったことになるからです。
 見方をかえて使用者の側からすると、労働契約の一方的な意思による解除は解雇であり、従業員に対して合意による退職の申し込みをするのが退職勧奨ということになります。この場合は、強行法規としての労働基準法や労働契約法第16条(解雇権濫用法定法理)、退職勧奨に関する判例法理などによって様々な制約が加えられています。
 例えば6ヶ月の雇用契約を数回更新した労働者を会社の経済的な事情により、契約期間満了時に雇い止め(雇用契約を更新しない)するとします。この場合、雇い止めは解雇なのだから、労働基準法第20条により解雇予告手当の支払いを要求してきたらどうしましょうか? たしかに司法の場では、雇用期間満了を理由に雇い止めした場合、実質的に雇用契約期間に定めがないとされた場合(東芝柳町工場事件、最高裁判決昭和49年)、あるいは雇用の継続にある程度の期待がある場合(日立メディコ事件、最高裁判決昭和61年)は解雇権濫用法理が類推適用されます。その場合、雇い止めの理由が客観的に合理的でなく、社会通念上相当でない場合は無効とされます。
 しかし、これは民法第一条の3『権利の濫用は、これを許さない。』にもとづいての解雇権濫用法理の適用、または類推適用の問題であり、労働基準法第20条の解雇予告、解雇予告手当支払義務まで適用された例はありません。
 従って、司法の場で雇い止めに解雇権濫用法理が適用もしくは類推適用されたとしても、労働基準法第20条の解雇予告、または解雇予告手当の支払義務は適用されません。ただし、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(厚生労働省告示、平成15年)には契約更新を3回以上、または1年を超えて雇用された者を雇止め(あらかじめ契約更新しない旨明示されている者は除く)する場合は、『少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない』と定めてあり、また雇止めされる有期雇用契約社員の事情を鑑みると、法律上の義務はありませんが、可能な限り早く雇止めを通告すべきでしょう。また雇止めをめぐる個別労使紛争になった場合、30日前までに通告しない事実があれば、労使紛争になった場合、使用者に不利になる可能性がありますので注意が必要です。
 現在の不況により、会社の売上げが激減し、すまないと思いつつやむなくあと少しで契約期間が満了する契約社員(1年契約で4年間雇用してきた)の雇い止めすることにしました。しかし考えてみれば、前回契約更新の手続をしていませんでした。この場合どうなるのでしょうか?
 民法629条には『雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら意義を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申し入れをすることができる。』として、雇用契約は同一の条件で継続するとしている。それでは、期間はどうでしょうか? 629条後段の『第627条の規定(雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる)の定めにより解約の申し入れをすることができる。』を根拠に、期間の定めのない契約に転化したという考えかたや判例があり、もしそうなったら厄介です。なぜなら、契約更新をしなかった時期以降はこの契約社員の雇用契約を終了させることは解雇となり、労働基準法の解雇予告もしくは解雇予告手当が必要であるばかりでなく、解雇権濫用法定法理、判例法理を根拠にした個別労使紛争になりかねないのです。
 もう一方で、同じ期間の雇用契約が更新されたにすぎないという考え方や判例もありますが、もしそうだとしても、雇い止めの段階でこれが使用者に不利に扱われる可能性もあります。
 1年先は闇で、何があるのかわかりません。雇用契約の更新手続は、おっくうがらずに、その度にしっかりやることが必要です。
 1年間の雇用契約期間で雇用した社員が、入社後1ヶ月ぐらいはまじめに勤務していたが、それ以降遅刻や欠勤をするようになり、また他の有期契約社員に比べて能力が相当劣る場合に、辞めさせることはできるのでしょうか? 退職勧奨に応じてくれれば簡単ですが、そうならないならばあとは解雇しかありません。が、労働契約法第17条には『使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。』とあります。入社後1ヶ月以降遅刻や欠勤が多く、仕事が他の有期契約社員に比べてできないことが『やむを得ない事由がある場合』に該当するかは疑問です。何故なら労働基準法では8割以上出勤した労働者には、年次有給休暇を与えなければならないと定めているからです。そこには、過去6ヶ月間、もしくは1年間で欠勤が2割以下の者は年次有給休暇(ご褒美)を与えるという法の考え方からすると、欠勤が2割以下の者は不良従業員でないということになり、よほどのことがないと解雇は不可能ということになります。
 しかし、有期契約といっても労働の対価として賃金はしっかりと支払うのであり、遅刻欠勤され、また仕事ができないのであれば、経営者としてはたまったものではありません。
 そのようなリスクを回避するために試用期間を導入する方法があります。判例(三菱樹脂事件、最高裁昭和48年12月12日)からすると、試用期間は『解約権留保付労働契約』とされ『入社後における調査や観察に基づき最終決定を留保する趣旨で設定されたもの』と把握した上で、『このような留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲においてその自由が認められてしかるべき』とされています。もちろんそうはいっても、試用期間終了時に、本採用しないことは解雇であることに違いがないので、『解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される』という縛りはつきますが、通常の解雇よりリスクがずっと少ないと思います。
 しかし、有期労働契約ということから考えれば、あまりにも長く試用期間を設けてしまっては、その試用期間自身の趣旨が疑われる可能性があり、また試用期間の存在により、例えば雇用契約期間が形式的には1年であったとしても、契約更新制度がある場合は、ある程度の長期の雇用契約関係を契約社員に期待させるものとみなされるリスクがあることには注意しなければなりませんが、とりあえず正規従業員に比して短い期間(2ヵ月程度)の試用期間を設けて様子をみてはいかがでしょうか?
 社員が交通事故による重傷で6ヶ月欠勤し、まだ復帰の目処がたたない。交通事故にあわれた社員はお気の毒ですが、会社も苦労します。大きな会社であればまだしも、一人一人が貴重な戦力で人員に余裕がない中小企業ではどうでしょうか?ある程度の期間は待てますが、6ヶ月待ってまだ復帰の目処がたたないのであれば、もうたいへんです。今までは、他の社員に無理してもらってやりくりしてきましたが、やむを得ず新たに人員補充することにしたため、この社員には辞めてもらわざるをえません。
 では、何を根拠にして辞めてもらいましょうか?就業規則を引っ張りだして見てみましたが、休職制度の定めがありません。休職制度とは病気、負傷等により労務不能になった社員に一定の猶予期間(身分保障期間)を与え、その期間終了後も復帰できない場合は自然退職とする制度です。この制度があればよいのですが、ないものは仕方ありません。困り果て『精神又は身体の障害により業務に耐えられないと認められるときは解雇する』という就業規則の規定により解雇することにしました。当然労働基準法により平均賃金30日分の解雇予告手当、または解雇30日分の解雇予告が必要です。解雇予告手当の場合余計な出費を強いられることとなります。解雇予告を選択した場合、その解雇日までに負傷が癒えて復帰の目処がたってしまったらどうしましょうか?いろいろ考えると頭が痛くなります。
 病気や負傷のため働けないとしても、ある程度の期間は休職制度により身分保障がされる休職制度があれば、従業員は安心して働くことができます。また休職期間満了時に復帰できない場合は自然退職とするというきまりを作っておけば、会社も安心して人員の配置ができるのではないでしょうか?
 長い休職期間満了近くになって『現職(休職前に従事していた仕事)に復帰するのは無理だが、他の身体に負担の少ない業務への従事は可能』という診断書を持参し、復帰を求めてきたらどうしましょうか?とりあえずは診断書を作成した医師への確認、それで疑問が生じた場合は、業務に精通した産業医への診断を受けさせるべきでしょうが、その結果も同じだったとしたら。
 通常、就業規則には『休職期間中もしくは休職期間満了時に負傷疾病が治癒した場合(原職に復帰できるくらいの健康状態になった場合)、業務に復帰させる。休職満了時に治癒していないときは退職とする。』という休職規定がありますが、これからすると、この労働者は会社への復帰はできないことになります。何故なら、ここでの治癒とは、休職前(健康状態が良いとき)に行っていた業務を遂行できるくらい状態のことをさしているからです。
 これからすると、この労働者の復帰要求は拒否できると考えがちですが、そう簡単でもありません。職種特定者(業務を特定して労働契約を締結して勤務している)は、契約上職種が特定していますので、その業務を支障なく遂行できなければ休職期間満了時に退職、もしくは解雇するということには合理性がありますが、職種を特定しないで入社した労働者の取り扱いは少々厄介となります。
 というのは最高裁が片山組事件(平成10年4月9日)で以下の判断が下されているからです。
 『職種や業務内容を特定せずに労働契約を結んだ場合は、就業を命ぜられた特定の業務について、労務の提供が
 従来と同様にできないにしても、その能力、経験、地位、企業の規模、業種、またその企業における労働者の配置・異動の実情や難易を考慮して、その労働者が配置される現実的可能性があると認められた他の業務について労務の提供をすることができ、かつその提供を申し出ているならば、債務の本旨に従って履行の提供があると解するのが相当である。』
 この判例によれば、冒頭で記した労働者が職種を特定していない場合、原職に復帰できる健康状態でなくても、その企業で就きえる他の業務があり、かつそれを遂行する能力があるならば、それを受け入れなければならないということなのです。この判例は、職務の種類が多岐にわたっている規模の大きな企業を想定しているのでしょうが、ぎりぎりの人員でやりくりしている今の時代に、また余裕のない中小企業にこのような考えをはたして押しつけられるか疑問です。また、その『就きえる業務』が、本来正社員としてなすべき業務でない(パートタイマー等の補助者がこなしている)ということであれば、それも考えものです。
 『原職ではだめだが他の軽易な職種では復帰できる』といった休職期間満了時での、グレーゾーンともいうべき健康状態での復職要求に対応するためには
  1. 他の職務に従事させる可能性がない場合は、最初から職務を限定した労働契約を結んでおくこと。
  2. 復職の要件として、休職前の業務を遂行できるくらいの健康状態になっていること、または休職前の業務に就きえないとしても他の正社員が行うべき業務を遂行できるくらいの健康状態になっていることを就業規則に明記すること。
  3. 他の職務に復職者を吸収できる余地がない場合、あったとしてもその職務につきえない場合(能力不足などで)は復職を許可しないで、退職もしくは解雇にする旨を就業規則に明記する。
 というような対応が必要でしょう。
 病気、家族の事情、私用、寝坊、二日酔い等理由は様々あるでしょうが、休んでおいて当日もしくは翌日以降に年次有給休暇を請求してくることがあります。たいていの場合、欠勤扱いせず年次有給休暇で処理してしまっているようですが、法律論としてはどうでしょうか?
 年次有給休暇とは一定の要件(初年度入社後勤続6ヶ月間、翌年以降は勤続1年間で出勤率8割以上)を満たすと発生し、その行使にあたって希望する日を指定するだけでよく、事業主の承認は必要ではありません。従って連続してとることも可能です。しかし、これでは理論的には職場の全員が同じ日に年次有給休暇を時期指定(請求)することも可能であり、それでは業務が崩壊します。
 このようなことを防ぐために事業主には時期変更権(請求された時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。)がありますが、当日もしくは翌日以降の請求では、時期が過ぎ去っているので、この時期変更権を行使できません。また、突然なので年次有給休暇取得であいたポジションに代替要員を準備できません。年次有給休暇の時期指定は、事業主の時期変更権の解除が条件となっていますので、この時期変更権を事実上行使できない状態での時期指定は認める必要はないと思います。
 労働基準法第39条には、年次有給休暇の時期指定(請求)期限日は記載されていませんが、事業主の時期変更権を侵害しないという点からは、前日の就労時間の終了時までにすべきというのが、法の趣旨に沿った考え方でしょう。
 就業規則に年次有給休暇の請求は前々日までなされるべきとしていたところ、当日に請求され、この事前請求を定めた規定の有効性が争われたことについての判例があります。
 『(年次有給休暇の請求は前々日までになすべきという規定は)使用者に時季変更権を行使するか否か判断するのに要する時間的余裕を与えると同時に、職員の服務時間割を事前に変更して代替要員を確保するのを容易にすることにより、時季変更権の行使をなるべく不要ならしめようとする配慮に出たものと認められ、年休の時季を指定すべき時期についての制限として合理的なものである。』(電電公社此花電報電話局事件・最高裁判決・昭和57年3月18日)
 従って、当日もしくは休んだした後の年次有給休暇の請求に応ずる法的義務はなく、それを年次有給休暇として認めるかどうかは事業主の任意ということになります。ただしこれも労働条件ということになりますので、恣意的な運用は許されません。例えばやむを得ない事情(本人、同居の家族の病気等)があれば、当日請求は認めるといった基準をつくり、それを就業規則に記載すれば、『当日、翌日以降請求』を防ぎ、また真にやむを得ない事情で請求する従業員は配慮されることとなり、労使トラブルを事前に防ぐこととなるでしょう。
 雇用形態が複雑化、多様化し、またそこに請負や委任、委託等が入ると、どこまでが労働者なのか、自営業者なのかと悩むことが多々あるようです。そこで、あらためて労働法で対象とする労働者とは何かを考えてみることとします。
 労働法といっても様々ありますがそのカテゴリーを主要に3つに分けることができるのではないでしょうか?
  1. 契約関係から分類する民法、及びその特別法としての労働契約法が対象とする労働者。
  2. 雇用契約関係にあたって使用者、被使用者間の力関係の差を背景に、労働条件の最低水準(雇用契約の最低水準)を定めた労働基準法が適用される(保護の対象とする)労働者。
  3. 労働組合法によって団結権、団体交渉権が保証されている労働者。
 まず民法の特別法としての、労働契約法では労働者についてどのように定義しているでしょうか。『この、法律において「労働者」とは、使用者に使用されて賃金を支払われる者をいう。』(労働契約法第2条)
 それでは労働基準法ではどうでしょうか?同法では、『この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。』となっています。
 労働力を提供し、その対価として賃金を得るのが労働者であるということではほぼ一致していますが、労働基準法では『事業に使用される』という要件があります。これはどういうことでしょうか?『事業とは…一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいうのであって…』というのが労働基準法上の事業と解釈となっています。そうすると例えば個人に雇われているホームヘルパーや運転手等は、労働契約法では労働者になりますが、労働基準法では労働者ではないということになり、同法や労災保険の保護は受けられないということになります。
 一方労働組合法では労働者をどう定義づけているのでしょうか?『この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。』(労働組合法第3条)ここには、労働契約法や労働基準法の『使用される』(使用従属関係)という要件がありません。また『これに準ずる収入によって生活する者』というのですから、適用対象はかなり広くなります。現に使用されていない失業者や、委託契約でもある程度の従属性があり、その報酬に賃金との近似性があれば披業務委託者でも労働組合を結成したり加入したりすることができ、かつ業務委託者に団体交渉を要求できるということです。(これを正当な理由なく拒否すれば不当労働行為となる。)例えば、プロ野球選手会が労働組合として認められたことは、労働組合法の労働者の概念がいかに幅広いか物語っています。
 以上3つの法律が労働者をどのように定義づけているかみてきましたが、今後請負や委任、委託等で労働者性をめぐりグレーゾーンが拡大していくと思われますので、注目していきたいものです。
 高年齢者雇用安定法が施行(平成18年4月1日)されてから5年になろうとしています。同法は65歳までの雇用確保のための3つの措置、1.定年制の廃止 2.最低65歳までの定年への引き上げ 3.最低65歳までの継続雇用制度の導入 を義務付けています。大多数の企業、事業所ではの措置を選択していると思われますので(平成20年10月厚生労働省の調査によると定年の廃止、定年の引き上げを選んだのは14.6%にとどまり、85.4%は継続雇用制度を選択している。)ここでは一番多いの措置について、この法律がどう定めているか2回にわたって解説いたします。
 65歳までの継続雇用制度を選択した場合、希望者全員の継続雇用を義務付けているのかといえば、そうではありません。従業員を代表する者との労使協定で、継続雇用の対象とする高年齢者(60歳以上)の基準を定め、その基準により65歳までの継続雇用制度を導入すればよいということです。努力したにもかかわらず、この労使協定を締結できなかった場合は、就業規則でその定めをすればよいのですが、その猶予期間も今年度末(平成23年3月31日)で終了し、以降労使協定がなければ、例え就業規則で再雇用基準を定めたとしても、無効(法違反)となります。
 それでは、そもそも65歳までの継続雇用制度を導入しなかったり、今年度末以降労使協定を締結していなかった場合はどうなるでしょうか? 法違反となりますが、この法には罰則がなく、また企業名公表の制裁規定もなく、行政による指導、助言、勧告が予定されているだけです。
 事業主が継続雇用制度導入を怠っている事業所で、従業員が継続雇用を請求した場合、どうなるでしょうか? 未だ高裁レベルですがNTT西日本事件(大阪高裁平成21年11月27日)では『高年齢者雇用安定法第9条は、私人たる労働者に、事業主に対して公法上の措置義務や行政機関に対する関与を要求する以上に、事業主に対する継続雇用制度の導入請求権ないし継続雇用請求権を付与した規定とまで解することはできない』としています。要は、60歳定年に達した労働者が65歳までの継続雇用を求めても、同法によっては私法上の雇用義務が生じないということです。しかし、同法による65歳までの雇用確保措置をとらない事業所で労働者を60歳定年で退職させた場合、民法709条による不法行為責任に基づく損害賠償を請求されるリスクがあることは肝に銘じておくべきでしょう。なによりも法違反は、従業員との信頼関係をこわしてしまいます。また、雇用保険の離職理由は、解雇等と同じように扱わられ事業主都合(特定受給資格者)となります。
 65歳までの再雇用措置のうち継続雇用制度の導入を選択した場合、希望者全員を対象とするのは法の趣旨から好ましいとされているが、具体性、客観性がある再雇用基準であれば、それによって再雇用する者を選別してもよいとされています。
 この基準に関して厚生労働省は、次の要件を満たすことが必要としています。
  1. 継続雇用に必要な意欲、能力等を出来る限り具体的に測るものであること。(具体性)
  2. 継続雇用後に必要とされる能力等が客観的に示されており、継続雇用該当可能性を予見することが出来るものであること。(客観性)
 これもなかなかわかりにくいですが、例えば『会社が必要とする者』とか『上司が推薦する者』は継続雇用する旨の基準は、主観的、恣意的な判断が入るからだめとされます。が、例えば『協調性がある者』とか『勤務態度が良好な者』は継続雇用する旨の基準は、やや具体性、客観性に欠けるが、労使間で十分な協議をへて定められているものであれば、法違反にならないとされているようです。再雇用基準は、この考え方を参考に、企業の実情にあったものを作成することをお勧めいたします。
 次に継続雇用後の労働条件はどう考えたらよいでしょうか? 継続雇用後の賃金等の労働条件(賃金、労働時間等)については、高年齢者雇用安定法には何等具体的には定めはありません。従って、継続雇用にあたって賃金を引き下げたり、労働時間を短くすることは、契約の自由によることとされ(もちろん就業規則には制約されます)ていますので、最低賃金法などの法律に抵触しない限り、問題はないでしょう。ただし同じ職務でありながら大幅に賃金を減額すると、パート労働法の『賃金の均等待遇』や民法の公序良俗違反となることがあるので、60歳時点の6割程度の賃金確保は、最低ラインとして求められるでしょう。
 退職した元従業員等から、『未払い残業代』請求をされたとき、会社経営者の方は以下のような主張をされることが多いと聞きます。しかし、法的には通らないことがあるので、対策をしっかりすることが肝要です。
【主張1】
入社時に基本給や手当に残業代を含んで払うので、残業代を支払わないと約束してあったはずだ。
 会社経営の立場からすれば生活できるぐらいの賃金総額を払っているからいいのではないかということでしょうが、その言い分はなかなかとおりません。基本給や手当のなかに何時間分、いくらの残業代が含まれている旨を表す労働契約書や給与明細でもあれば別ですが、大方は『残業代が含まれている』旨のことを労働者に伝えている程度です。労働裁判例をみると、基本給や手当のなかに何時間分、いくらの残業代が含まれていることが個別労働契約や賃金明細の中で明確に区分されていない限り、会社経営者の主張は認められていませんので、残業代をすべて支払うことを余儀なくされます。
【主張2】
管理職手当に残業手当が含まれている。
 本コーナーその2、その3で述べているように残業代を支払わなくてよい管理職は経営者と一体的な立場(職務権限、金銭面でその職務にふさわしい処遇がなされている等)ということなので、それに該当する人は管理職のなかでも一部に限られています。ところが、現在ほとんどの会社で課長以上(場合によっては係長クラスでも)は、管理職手当の中に含まれているとして、残業手当を支払っていません。かりに、元管理職の従業員から未払いの残業手当を請求されたとしたら、役職手当が残業手当を計算する上での基準内賃金に含まれるので、大きな額となります。それを防ぐためには、当該管理職に支払う管理職手当のなかに一定の残業手当が含まれている旨の労使間の合意が必要です。
 労働基準法で定める管理監督者に該当しない管理職へ支払う管理職手当のなかに定額の残業手当が含むとするならば、個別の労働契約等で管理職手当の中で何時間分、いくらの残業代が含まれていることを明記すべきでしょう。
【主張3】
残業の指示はしていない、勝手に残業していただけだ。あるいは、勝手に会社に残っていただけだ。
 もし本当に勝手に残業していたとしても、それをやめさせなかったのは経営者に責任があるということになります。暗黙のうちに残業の命令があったとみなされるからです。また会社に勝手に残っていたことが事実だとしても、よほどのことがない限りタイムカードの退社時間まで勤務していたとみなされてしまいます。もし元従業員がタイムカードに記載してある時間の残業手当を請求してきたら、有効な反証ができるでしょうか? 常日頃の労働時間管理が求められます。
  2012年8月10日公布と同時に、即時施行された労働契約法第19条(現18条、2013年4月1日改正法が全て施行されると19条となる)の雇止め法理とはどのようなものでしょう。
 少々長いですが、同条は以下のようになっています。

『有期労働契約であっても、次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合、又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。』

 そして『次の各号のいずれかに該当するもの』として、①有期契約労働者であっても、契約更新が形式的なものであって期間の定めのない契約と同視できるもの ②期間の定めのない契約と同視できるものまでではないが、雇用契約更新への期待を労働者にもたせることに合理的な理由があること、2つをあげています。
 労働契約法第19条は、東芝柳町工場事件、日立メディコ事件という最高裁判例を法律にしたものですが、今後、有期雇用契約に与える影響は大きくなっていくでしょう。今までは判例法理(最高裁判所の判例)によって雇止めの問題が論じられてきました。裁判の話なので一部の専門家以外はそれを知りえなかったわけですが、それが法律として成文化され、『客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない』雇止めは無効になるという根拠が明確となり、社会にアナウンスされることとなったのです。そうです。期間の定めのない労働者(正社員)に適用されてきた解雇権濫用法理(客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない解雇は権利を濫用したものとして無効)が、法律として有期雇用労働者の雇止めにも類推適用(似たようなものとして適用する)されることとなったのです。有期契約労働者にとってみれば、雇止めに対抗する法的根拠ができたことになり、これからは雇止めをめぐる紛争は増大すると考えられます。
 今まで使用者側は、コスト削減、景気調整弁(いつでも切れる者)として、常用的な仕事に有期雇用者を雇用してきたわけですが、この方法について再考しなければならないようです。
 それではもう少しふみこんで同条をみてみましょう。①の自動契約更新型、有期契約であっても実態は無期契約者と異ならないというのは、かつてあったずさんな雇用管理(契約更新の手続をしない、あるいは契約更新手続が形式的、例えば雇用契約書に一斉に労働者の判をおさせるといった)の産物ですが、さすがに現在ほとんどありません。
 問題は②の雇用契約更新期待型です。これはきちんとした雇用管理(契約更新の手続をしっかり行われている)がされていても、その仕事に常用性(臨時的な仕事ではない)がある、契約更新回数が多く1年以上雇用している、実態としてほとんど全員が契約更新されている、仕事をしっかりやっていれば継続して勤められるというような経営者の言動がある場合が、労働者に期待を労働者にもたせることに合理的な理由があることとされます。現在の有期雇用契約では、常用性(臨時的なものではない)、契約更新の回数が多いのが普通なので、それだけでも雇用継続への期待に合理的な理由があると認められる可能性があります。その期待権が認められる場合、正規雇用者に適用されている解雇権濫用法理が類推適用され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないと雇止めは無効とされ、雇用契約は更新されたことにされるのです。それを決定する権限を有しているのは、裁判所でしかありませんが。
 このように今回の法改正により、契約更新への期待権が法的に認められた場合、正社員の解雇に適用されている解雇権濫用法理が、雇止めにも類推適用されることになり、雇止めに規制がかかることになりました。ネット社会にあっては、この法の趣旨は、今後急速に広められ、雇止めをめぐる労使紛争は増大すると考えられています。
 一方、事業主にとって、コスト、景気変動に対して柔軟に対応できる有期雇用のメリットに依存せざるをえない経済状況であることには変わりありません。この相対立する矛盾を乗り切るためには、従来以上の厳密な雇用管理によって雇用継続への期待を打ち消す措置が必要となるでしょう。雇用継続への期待に合理的な理由が認められない雇止めは、雇用契約期間満了による合意退職となるのです。
 その視点は以下のようなことだと思います。
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どのようなときに契約更新するか、どのようなときに雇止めするか、客観的に合理的な基準を作成し、それを適正に運用すること。(基準を超えた契約更新への期待が認められないようにしておく。)
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有期契約労働者を雇用するにあたって、雇用契約期間の上限(年数、契約更新の回数、ただし5年以下)を定める。(例えば、契約更新をすることがあるが全契約期間は3年を上限とする、といった雇用契約を締結する。)
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有期契約労働者を必要とする理由が臨時的、補助的なものであるならば、正規社員の担う業務と区別し、臨時的、補助的業務の必要性が消滅した場合は、雇用を継続しないことを雇用契約時に明確にしておく。
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ある事業の目的完遂のために必要な有期雇用ならばその目的達成時に雇用が終了することを明確にする。

 

小渕社会保険労務士事務所  特定社会保険労務士 小渕 匡高(こぶちきよたか)
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