休職制度とは定年までの長期雇用のなかで生じた事故に対応するものであり、ある程度の期間、従業員としての身分を保証し、その期間内に休職事由が消滅した場合には復帰させるし、復帰が不可能な場合は解雇、または退職とするものです。休職制度そのものは法律で定められたものではなく、日本型長期雇用制度のなかで生み出されてきたものです。従って労働基準法等の強行法規に違反しない限り、どのような制度を作るのかは自由といえるでしょう。
しかし、就業規則の中であいまいな休職規定をつくってしまった結果、生まれた労使トラブルが多々あるようです。
例えば『傷病により欠勤が1ヶ月に達した場合は休職を命ずる。』という規定はよくみかけます。しかし今日多発しているうつ病等の精神疾患の場合は、連続して休むのではなく、週3日出社し2日休むというようなことを繰り返すことがあるとよく聞きます。この場合、この人に休職を命ずることができるでしょうか?本人の合意があれば問題はありませんが、法的には無理です。何故なら『欠勤が1ヶ月に達した場合』とは欠勤が継続して1ヶ月に達したときと解釈され、この場合は継続していないからです。
また復職について以下のような定めもよくみかけます。
『休職の事由が消滅したときは、旧職務に復職させることとする。ただし、やむを得ない事情がある場合には、旧職務と異なる職務に配置することがある。』
傷病で休職している従業員が休職期間満了時にかかりつけの医師の『軽度の作業なら復帰可能』という診断書をもって、復職を要求しきたらどうしましょうか? かかりつけの医師でしたら、本人の意向に沿ったことを書くことはありえます。またそもそも、かかりつけの医師が、従業員がどういう環境でどういう仕事に従事しているのか、知らないことがあるので、この診断書には大いに疑問があるところです。本人と面接した結果、不安に思った使用者が仕事内容を熟知している医師(産業医が多いのでは)の診断を受けさせたいと考えるのは当然のことですが、この就業規則にはそのことについて記載がありません。それで診断を受けさせることができるでしょうか?本人が『医師選択の自由』を盾に受診を拒否し、あくまでも復職を要求してきたらどうしましょうか?
また本人が実際に軽作業での復帰が可能で、かつそれを要求してきた場合はどうでしょうか? 比較的規模が大きい事業所では仕事の種類がたくさんあるので従事させることが可能な場合もあるでしょうが、事業内容や規模によっては無理なこともあります。しかし、就業規則に記載がない場合は、あくまでも『軽作業での復職』を求める本人と紛争になった場合、それを解決する基準がないということになります。
また、復職してからほどなく病気が再発したとき、どうしましょうか?このように、休職にまつわりいろいろなことが起こります。
今の就業規則で大丈夫でしょうか?
『年次有給休暇は、従業員が指定した時期に与える。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、その時季を変更することがある。』
これが一般的な年次有給休暇に関する定めとなっていますが、これだけで大丈夫でしょか?
年次有給休暇は労働基準法で保障された権利であり、業務の正常な運営を妨げない限り、使用者はその指定された時期は変更できません。一般的には、時期指定は事前(有給休暇を取る前日まで)に行わなければならないと考えられており、当日あるいは翌日以降の請求まで認める必要はないと思います。何故なら、突発的な休暇請求は、それだけで業務の正常な運営を妨げる可能性があり、かかる危険を回避する猶予を与えない事後請求まで法の保護を与える必要がないと思うからです。しかし、この考え方が法律として確立されているかといえば、残念ながら否といわざるを得ません。従って就業規則のなかで事後請求の取り扱いを明記しておかなければ、職場の秩序維持、正常な業務の運営を図ろうとする使用者の意思を示すことはできません。権利は当然尊重すべきでありますが、朝思いついて急に遊びに行ったり、二日酔いのような不摂生を理由とした当日、又は事後の『年次有給休暇時季指定』権利の濫用まで認める必要はありません。皆様の事業所では、どうでしょうか?あいまいになっているとするならば、見直すべきでしょう。
『業務の都合により時間外勤務、休日労働時間を命ずる。』
従業員代表と時間外労働、休日労働に関して協定を締結し、労働基準監督署に『時間外労働休日労働に関する協定届』(いわゆる36協定)を所轄労働基準監督署に提出した場合は、法定労働時間外、法定休日外に労働させてもよいということになっています。しかし、ここでの趣旨は、させても法律違反にならない(免責)ということであり、これを根拠に時間外労働、休日労働は従業員の義務とするのは無理があります。従って、いくら忙しくても、労働契約(就業規則)に根拠がなければ、業務命令として時間外労働、休日労働をさせることはできません。その点について最高裁は次のような判決を出しています。
『使用者が当該事業場に適用される就業規則に、当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、…労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める時間を超えて労働する義務を負う。』(平成3・11・28日立製作所事件)
就業規則に記載があれば、時間外労働、休日労働は労働契約上の義務だとしているのです。これを読めばほっとするかもしれませんが、安心するのはまだ早いのです。というのは『就業規則に…一定の業務上の事由』という要件があるからです。冒頭に記載した『業務の都合により』という内容がこの要件をクリアしているかと問われれば、そのような抽象的な内容ではダメだよというのが裁判所の考えのようです。就業規則に、どういう場合に時間外労働、休日労働が必要なのか具体的に記載し、かつその内容が合理的な場合は、時間外労働、休日労働が労働契約上従業員の義務となる、言い換えれば業務命令として時間外労働、休日労働をさせることができるのです。(最高裁は具体的な事由は36協定に委ねてもよいとしています。)ただし、従業員の側に時間外労働、休日労働ができない相当な理由があるにもかかわらず、それをさせようとしたときは権利の濫用となるので、注意が必要です。
『有期契約社員で定められた雇用契約期間が満了した場合は退職とする。』
雇用期間の定めがある契約社員や、パートタイマー社員の退職に関して、これはよくみる文章です。契約更新を1回もしていない場合であれば問題ありません。だが、契約更新を何回もしていればどうでしょうか? 契約期間が満了したからと、どういう場合でも使用者の意思により退職にできると思ったら、それはとんでもない誤解です。実質的に定めのない雇用と同視されるか、あるいはそこまでいかないにしても正規社員と同じような業務に従事している等雇用契約更新を期待させる事情がある場合は、雇止めに『解雇権濫用判例法理』が類推適用され、雇用契約更新拒否(雇止め)に雇用契約期間満了以外の合理的な理由(例えば事業縮小により雇用できなくなった等)がなければ無効ですという裁判事例が多々あるからです。その点を気をつけなければ、雇止めをめぐる労使紛争になった場合に使用者が痛い目にあいます。
厚生労働省は、労働基準法第14条の2に基づいて、雇止めに関する紛争防止のため『有期労働契約の締結、更新および雇止めに関する基準』を平成15年に出しています。その中で、労働者を有期契約で雇用する場合は、契約更新が有るか否かを示さなければならず、契約更新有とした場合はその基準(契約更新をする基準でもしない基準でも、どちらでもよい)を労働者に示さなければならないとしています。そうすると、就業規則で更新をしない基準(例えば正当な理由なく無断欠勤を2回以上した者は契約更新しないというような)を定め、そのとおりに運用していれば、雇止めに客観的に合理的な理由があることになる可能性が大きくなります。
雇止めに解雇権濫用の判例、法定法理が適用され(雇止めが実質解雇と同じであるとされ)ても、就業規則に契約更新をしない基準が明記され、その理由が合理的であれば、それが有効となる可能性が高くなるのです。
繰り返しになりますが、雇用契約更新を何回も繰り返し、仕事内容が臨時的でない場合、その雇用を終了させるためには『雇用契約期間満了』以外の合理的理由が必要とされます。就業規則に、その合理的理由を明記することこそ雇止めをめぐる労使紛争を防止し、かつ有期契約社員やパートタイマー社員に納得して働いてもらう近道ではないでしょうか。
※労働基準法第14条の2
厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係わる通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。
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