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オーディオシステム

 オーディオに興味を持ったのは高校生の頃ですので、かれこれ40年もやっていることになります。最初のシステムはパイオニアの複合型スピーカを 自作の箱に入れたものを、マニアの友人に作ってもらったアンプで鳴らしていました。ちょうど真空管からトランジスタへの切り替え時期で、トランジスタでもまともな 音が出ると話題になった頃です。同時に当時のマニアは自作からシステムコンポーネントの組み合わせに移行した時代です。就職して真っ先に買ったのが三菱のNHK モニタースピーカ2S-305でした。今から思えば、かなり硬い音でしたが、当時にしてはハイエンド製品でした。残念ながら組み合わせるアンプにまで金が回らず、貧弱な音しかでしか鳴らせなかったことに加え、大型で置き場所にも困り、結局手放してしまいました。

 それから苦節?30年、ハイエンドオーディオどころではない生活が続きました。それでも6畳の和室にふさわしいシステムを購入し、それなりに楽しんでおりました。当時のスピーカはこれまたイギリス製で、CELESTIONのUL-6という、小型ですがパッシブラジエータを搭載したバランスの良い音のスピーカでした。今の家に引っ越した のが約20年前、ようやく本格的な音が出せると思いきや、今度はピアノやテレビと同居です。そんな環境でもオーディオはずっと続けてきました。スピーカもUL-6の後は イタリアはチャリオのアカデミー1、その後またイギリス製で、ATCのSCM20slTです。イタリアといえば、最近は Sonus Faberが有名ですが、このチャリオも工芸品のようなエンクロージャで、今でもこれらのスピーカは保有しています。

 いつかは朗々と鳴らせる部屋がほしいと思っていましたが、長年勤めた会社を退職したのを機に、家を改築することにしました。我が家は2世帯住宅で、両親と同居ですが、この際ライフスタイルにあった部屋に改築するで合意しました。どうせ改築するなら長年の夢であったオーディオルームを作ろうと決意し、大がかりな増改築となった次第です。
 そんなわけで、マニアは皆さんそうでしょうが、現在のオーディオシステムは突然できたものではなく、長い変遷を経てできあがったものです。私の場合は、スピーカ;ATC SCM20slT、プリメインアンプ;アキュフェース E-406V、CDプレーヤ;DENON DCD-S1からのアップグレードです。この組み合わせは かなり満足の行く物で、今でもリビングルーム用のセカンドシステムとして使っています。

 さて、ようやくオーディオルームが昨年夏に完成し、まずは上記セットを持ち込んで鳴らしました。以前はボリューム位置で時計の9時くらいでうるさくなりましたが、今度は大丈夫、立体感も出てきました。しかし、音量が大きくなったものの、質は当然のことながら変わりません。ハイエンドオーディオ へのあこがれは強まるものの、家の増改築に金を使い果たし、どうにもなりません。ところが昨年暮れの株価上昇で、この時とばかり、わずかながら保有していた株を手放し、これを資金にすることにしました。

 最初に交換したのがパワーアンプで、STEREO SOUNDで最も評価の高かったアキュフェーズのA-60(現在はA-65にバージョンアップ)に決めました。実は音は 聞いていません。STEREO SOUNDはマニアの間で最も読まれており、かつ信頼されているオーディオ雑誌です。私もかつては高額品、それも輸入品ばかり取り上げ、あまり好感を持っていませんでしたが、評論家の傾向を理解すると、非常に参考になります。音は実際に聴いてみないとわからないのはその通りですが、全く違う環境で、しかもスピーカやCDプレーヤが違う組み合わせでは正確な判断はまず無理です。それより、この評論家はどういう音を評価するかを知ったうえで、製品評を読んで判断する方が失敗しないのです。

 次に手を付けたのがSACDプレーヤーとプリアンプです。アキュフェーズの音はE-406もそうですが、非常にクリアである反面、温度感というか、音楽の躍動感の表現は 苦手と言われてきました。A-60はそこのところが変わったと評価されています。確かに透明かつ繊細でありながら、ダイナミックさも十分兼ね備えた音です。 これに合うプリアンプとなるとC-2800(現在はC-2810にバージョンアップ)ですが、いかにも高価です。今度は慎重に検討しました。選択対象はワンランク下のC-2400(こちらもC-2410にバージョンアップ)ですが、アキュフェーズは自宅試聴サービスを提供しており、C-2400とC-2800を借りて自宅で試聴しました。分解能はほとんど かわらないのですが、音の緻密さや立体感が全く違います。STEREO SOUNDは年末にベストバイを発表しており、そこでの評価はC-2800はリファレンス的だが、 C-2400は普段着的な明るさがあるというもの。私が感じたようなことは一切書いていない。やはり評論家のいうことを鵜呑みにしてはいけないということでしょうか。

 実はサウンドクリエートというオーディオ専門店で同じような体験をしました。802Dの他に候補となったのが、Linn(これもイギリスのメーカ)のARTIKULAT 350です。このスピーカはウーファがアクティブ方式で、加速度計でフィードバックをかけることにより、19Hzまで再生します。音色は802Dより暗いのですが、穏やかなようでいて彫りの深い音は魅力的です。このスピーカを試聴した時、持参したブラームスのピアノが締まりがなく、その点が気になると伝えたところ、ではプリアンプを代えてみましょうということで、上位クラス(型番は良くわかりませんが、価格は2倍と言っていたので、おそらくKLIMAX)に代えました。この時の違いは大きく、ぼけたピアノがまさに凝縮された音に激変、ピアノのイメージがくっきりと浮かびました。パワーアンプとプリアンプの違いを一口で言うと、音の質を決めるのがパワーアンプ、密度もしくは音の形を決めるのがプリアンプではないかと思います。

 CDプレーヤについては、迷いませんでした。それまで使っていたDENON DCD-S1には満足していましたし、その後継機種であるDCD-SA1はオーディオ雑誌でもこの価格帯では一番高い評価を得ていましたので。これはDCD-S1をベースにSACDも再生できるようにしたものですが、使い勝手は従来のトップローディング方式に比べ、断然よくなっています。オーディオに限らず、一般的にシステムを構築すると、システムの品質は一番低いレベルのものに引っ張られてしまいます。価格バランスで言えば、このSACDプレーヤは他の機器の半分以下ですが、決してアンバランスな感じはしません。まあ最高級レベルのものと比べれば当然差はあるでしょうが、アンプやスピーカと 比べればその差は小さいと思います。ただ、作りはいかにも量産品のイメージで、あまり良くありません。


 802Dは決めるまでずい分と迷いました。マランツの試聴室や販売店など、4〜5回は場所を代えて聞いていますが、最後までこれならばと言う、決定的な 音にはめぐり合えないまま決断しました。では何故802Dにしたのかというと、やはり長年クラシック録音のモニター用として使われてきたという実績と、はっとするようなところがない音が実は家に持ち込んだときに一番良いという経験則です。たとえば、それまで使っていたATCは最近SCM100Tslという、いかにも良い音がでそうな仕上げのスピーカを発売しました。昨年の東京インターナショナルオーディオショーで聞いたところ、その音があまりに刺激的で、家庭で聞ける音を出すまでに相当時間がかかりそうな気がしたことに加えて、価格が高いのであきらめました。飼いならす楽しみは大いにありそうなスピーカではあります。

 B&Wの800シリーズのハイエンドとしては3機種あります。801Dは38cmウーファを搭載したもの、800Dは25cmウーファ2発で、我が802Dは20cmウーファ2発です。当然低音の迫力は違います。特に800Dはフラグシップ機で、802Dと形は相似形ですが、再生能力にはかなり差があります。ただし右の写真でわかるように、下の台が大きく、これを部屋に持ち込むと相当な威圧感があります。実は威圧感は大きさだけでなく、音についても同じ心配がありました。いくら低音はこもらないはずでも、低音の風圧は相当なものです。はたしてこれを12畳くらいの部屋に入れて、まともな音が出せるでしょうか。

 そんな迷いの中、同じことを考えている人がいました。ステレオサウンドNo.157に掲載された楢大樹というオーディオ評論家の記事で、802D導入前後のことが書いてあります。ヒアリングの結果、800Dの方が圧倒的に良かったと認めつつも、高性能なマシンが果たして日常生活の中でも最適と言えるだろうか、という疑問を 投げかけています。この点はまったく同感で、むしろ小型でほどほどの性能の方がかえって使いやすく、満足する結果が得られるということは、車の選択にも通じる話です。

 楢氏の802D導入で、もうひとつ興味があるのは慣らし運転の手法です。低音の良く出るオルガンでまるでピアニストがハノンを練習するようなことを やっています。我が家の802Dもこれに習ってオルガンで慣らしこみました。サンサーンスのクリスマスオラトリオという、あまり馴染みのない曲ですが、実にきれいな曲です。サンサーンスはサムソンとデリラなど、うっとりするような曲がいっぱいありますので、当然かもしれません。このSACDは1981年のアナログ録音をデジタル化したものですが、このオルガンの低音は有名なオルガンシンフォニー(3番)の比ではありません。空気の振動が伝わってきます。ただ、ストックホルムのオスカーという教会で録音している ので、残響が長く、オーディオ的にはお勧めできません。というより、普通の装置で聞くと、何が良いのかわからないのではないかと思います。


 B&Wは多くのメジャーレーベルのモニターに使われています。手元にあるCDのパンフレットを見るだけでも、PHILIPS、EMI、DECCA,、Grammophoneなど、メジャーな レーベルのほとんどと言っても良いくらいです。極め付きはSACDのページで紹介しているPENTATONEで、Monitored by B&W nautilus loudspeakersは決まり文句ですが、 さらにMicrophone, interconnected and loudspeaker cables by van den Hul.とあり、ご丁寧にB&Wとvan den Hulのロゴまで印刷してあります。おそらく接続ケーブルのメーカまで記述してあるのはこのレーベルくらいではないでしょうか。Van Den Hulというのはオランダのケーブルメーカですから、宣伝料をもらっているのではないかと勘ぐりたくなります。
 これに誘発されたということではありませんが、システムの最後にケーブルについて触れておきます。現在使っているスピーカケーブルは、スピーカのセッティングに登場したカルダスのエントリークラス(要するに一番安い)Crosslink SP 1Sです。これはカルダス唯一の切り売りケーブルですが、4芯ありますので、これ1本でバイワイア接続ができます。ただし、あまりに細いので、これでまともな低音が出るか不安なので2本づつ束ね、結局2芯と同じ使い方で片側ダブルとしています。Van Den Hulはタンノイに使われているケーブルで、一度使ってみたくて買いに行ったのですが、たまたま居合わせたなじみの店員がいずれ透明感に不満が出る、802Dの透明感を生かすにはカルダスだと言い張ります。それほど言うなら使ってみましょうということで、これになった次第です。エントリークラスではありますが、確かに透明感のある音で、一応満足しています。

 SACDプレーヤとプリアンプ、プリとパワーアンプ間の接続にはアクロリンクの6N-A2400U(XLR)を 使っています。アキュフェーズのアンプには7Nのケーブルが付いてきますが、昔のアキュフェーズを思わせる冷たい感じの音で、それまで使っていたアクロリンクにしました。このケーブルは付属ケーブルに比べるとずっとマイルドな感じですが、それでいてクオリティが劣ることはなく、満足しています。昨今、オーディオ アクセサリーの中でも、ケーブルの記事が多いのですが、レコードプレーヤの時代のカートリッジ交換と同じで、オーディオシステムの中で比較的簡単に音を変えられる手段であることがその理由ではないかと思います。カルダスのSPケーブルはエントリクラスでも特に不満を感じさせませんがもっとハイクラスにすればどう変わるか、興味は尽きません。ケーブルもエージングで本来の音が出るそうですから、まあ当分は浮気せずに鳴らし込むことにします。(2006年9月)