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コンサート

 オーディオのあるべき姿を追求する上で何をリファレンスにするかは千差万別で、それゆえにオーディオの面白さがあるわけですが、私の場合はオーケストラサウンドの再現です。演奏会に通うのも、演奏会そのものを楽しむより、オーディオの音のバランスを確かめるためといってもいいでしょう。そんな思いを抱きつつ、コンサート通いを始めてすでに6年位になります。ここ3年はサントリーホールでの都響でしたが、2008年度は久々にN響のメンバーとなり、4月5日にNHKホールに行ってきました。NHKホールの音響の悪さはすでに定評となっていますが、なんとも硬い響きで、サントリーホールに馴染んだ耳には耐え難いものでした。ピアノもまるで鐘をたたくような音で、およそ潤いのないものです。座席の場所が二階の真ん中やや後方で良くないせいもあるでしょうが、それにしても今までオーディオで再現したいと思っていたコンサートホールのイメージは何だったのだろうかと思わせるものでした。生の音というのはクレッシェンドでも決して刺激的ではなく、体を包まれるような柔らかい響きを感じるのですが、これなら拙宅のオーディオの方がましではないかと本気で思いました。それにしてもこれが我が国を代表するオーケストラのホームグランドとは到底信じがたいものです。
 コロナ社の音響工学口座の「建築音響」には著名ホールの残響特性が載っています。これによるとNHKホールの残響特性はそれほど短いわけではありませんが、注目すべきは3,677名という座席数です。ホールの容積に比べて明らかに収容人員の数が多く、コンサートのためのホールではなく、テレビ番組などの収録を目的にしていることは明らかです。

 そんなホールでもさすがN響と思わせるのはその音色で、さらっとした音の多い日本のオーケストラの中、オーディオ的表現を借りれば、植物油でなく、動物油の音がするオーケストラであることは十分感じられました。これはやはり長年世界的な指揮者の指導によるもので、それもNHKだから資金に物言わせてできたのでしょう。それに加えて、メンバーに女性が少なく、日本の他のオーケストラと比べて圧倒的に男性の割合が多いのも大いに関係があると思われます。今回は春季ですので、6月まであと2回ありますが、土曜日という日程に釣られて決めたものの、次回はサントリーホールに戻ります。それにしても、あのような音でも気にならないのか、あるいはあきらめているのか知りませんが、ほぼ満席でした。

 その後5月、6月と同じ席で聴きましたが、4月は特別だったようで、ピアノもオケもかなり潤いの感じられる音になりました。もちろん乾いた音という印象は変わりませんが、この印象が違ってきた原因は二つあると思われます。一つはホールの音に馴染んできて、ディーテールがわかるようになってきたこと。もう一つは観客が5月、6月と減ってきたことです。おそらく観客数の減少が一番大きな要因と思われますが、特に6月はプロコフィエフのロミオとジュリエットという曲目だったこともあり、かなりオーケストラサウンドを楽しむことができました。(2008年6月)


 2008年の春にサントリーホールに戻ると言いながら、すでに1年半も過ぎてしまいました。こんなに時間がかかった理由ですが、一つは新たに紀尾井シンフォニエッタのメンバーになったこと、もう一つはN響の場合サントリーホールはBプログラムのみで、これは年間会員のチケットしかないためです。N響のシーズン更新時期は毎年9月で、新規募集は7月です。従い、これを逃すと1年間待つことになってしまいます。ということで新規会員募集の日に電話をしたわけですが、これがまたなかなか通じません。改めてN響の人気を認識した次第ですが、発売開始から30分後に電話が通じた時は、すでにS席は売り切れで、A席しか残っていませんでした。こんなに人気が集中するN響で、しかも2階のかなり端の席ですが、サントリーホールで聞いてみたいという思いで、結局申し込んでしまいました。東京には主だった交響楽団だけでも6つくらいありますが、N響だけに人気が集中するのはネームバリューにつられてかと思いつつも、普段CDでしか聞けない豪華な指揮者が並んでいるのはやはり魅力です。

 そんな経緯で2009年度はN響の定期演奏会と、昨年からメンバーになっている紀尾井シンフォニエッタの定期演奏会の掛け持ちとなったこともあり、今回ホームページの再構築にあわせて、新たにこのコンサートのページを設けました。冒頭に書きましたように、どちらかと言うとオーディオのために通い始めたコンサートですが、いずれは海外の演奏会含めて、ここに記載していく予定です。(2009年11月)