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国内オーケストラ2024年度−

2024年5月11日 都響 第998回 定期公演

 都響のダイレクトメールで、5月11日の出演者及び曲目変更というお知らせが公演前日の10日に届きました。ピアノが予定していたマリアム・バタシヴィリが体調不良のため、アンヌ・ケフェレックに変更となり、曲目もバルトークからモーツアルトに変更するという内容です。以前からケフェレックのピアノはCDで親しんでいることもあり、これはチャンスと行ってきました。4月のN響定期公演で、演奏会通いもそろそろ見直す時期と思いつつも、やはり気になる奏者が出演するとなると、躊躇することはありません。
 そのレポートを書くにあたり、ちょうど「国内オーケストラ公演」のページが、コロナ禍の2020年から丸4年経過していたため、2024年度で更新することにしました。当該記事によると、2020年から2021年にかけての公演は不定期かつ、代行運転みたいな感じでしたが、2022年度から予定どおりの開催になったようで、当時の混乱が偲ばれます。そのケフェレックのピアノ、CDで聞き馴染んだ繊細なイメージとは違って力強く、といってもガンガン弾くのではないものの、やや荒っぽいとも受け取れるモーツアルトでした。ただ、アンコールのヘンデルのメヌエットは従来のイメージ通りで、ケフェレックの真骨頂はこれだよな〜と思った次第。

 当夜の指揮は尾高忠明で、曲目は武満徹の≪3つの映画音楽≫より、モーツアルトのピアノ協奏曲 第20番、休憩を挟んで、ウォルトンの交響曲 第1番。都響は2023年7月の公演以来ですが、その時感じたヴァイオリンの高域のきつさは今回は感じられず、弦楽合奏の武満作品は映画音楽らしい、心地良い響きでした。次のモーツアルトは、序奏からしてストレートな感じで、モーツアルトというより、ベートーヴェンのピアノ協奏曲のような雰囲気です。意外なことに、ケフェレックのピアノもそれに応えるかのように力強いタッチで、二短調という、この曲の持つやや暗く、思索的な印象とは異なります。もっとも、この曲については、内田光子がジェフリー・テイトと組んで、1985年に録音したCDを40年近く聞き込んできたことで、この曲に対するイメージが作り上げられてしまったのは確かです。とはいえ、この日の演奏は華やかで、ピアニスティックな曲という感じなのですが、その点ではオーケストラのスタイルとも呼応していて違和感はありません。カデンツァは初めて聞くものでしたが、優しさよりも力強さに力点を於いた演奏に相応しいものでした。ケフェレックは、来日していたところを急遽この公演に駆り出されたため、弾きなれたモーツアルトとはいえ、練習時間がほとんど取れなかったはずで、当夜の演奏スタイルはそのあたりも影響していると思います。意外というか、知らなかったというのが正しいのですが、特に第2楽章で顕著でしたが、装飾音を随所に入れていることで、これは即興的で新鮮な感じがしました。

 ウォルトンの交響曲 第1番はBBCウェールズ交響楽団の音楽監督だった尾高の得意な曲のようで、さすがに統制の取れた、しかも豊かな抑揚のある音楽を聞かせてくれました。その点では初めて聞く曲にもかかわらず、構成が見えるような演奏でしたが、曲自体があまり魅力あるものではなく、大音量で迫る場面はあっても、それが感動には繋がりません。CDで聞いたら、恐らくうるさいだけの音楽という印象を持ちそうで、都響の熱気ある演奏はライブならではと思いつつも、あまり面白さが感じられなかったのは残念です。