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S3プレーヤ試聴

 今年の正月休みにアキュフェーズのDP-750を試聴し、やっぱりエソテリックということでしばらく様子見のつもりでしたが、ステレオサウンドで2019年のグランプリを受賞したソウルノートのS3が気になって、DP-750を返却するついでにテレオンに聞いてみました。しばらくして2月7日には試聴可能との返事があり、お店で聴くものと思いきや、すでに自宅試聴を申し込んだとのこと。そんなわけで、1か月の間に立て続けに2台のSACDプレーヤを試聴することになりました。
 ソウルノートというメーカはほとんど馴染みがなく、このプレーヤも二作目とのことですが、すでにDAコンバータでは定評のあるメーカであり、ステレオサウンドで好評なのも予想はつきます。というのも、SACDプレーヤはメカの開発にこそ時間を要するものの、そのメカさえOEMなどで入手できれば、あとはDAコンバータの技術があれば、比較的短時間に開発できると思われる機器だからです。ステレオサウンドの評論家の意見はほぼ一致して、勢いのある全開の音、エネルギーがある、しっかりした音といった、いわゆる現代風のハイスピードの音という印象。そしてそれだけの音質を持っているにも関わらず、128万円という価格は、プレーヤとしては安くはないものの、エソテリックなどの高級機と比較すれば、比較的買いやすい値段であることも魅力です。
 そのS3、梱包は標準的で、アキュフェーズのような、二人で持ち上げやすく工夫した段ボールの内枠などはなく、布カバーで覆われた本体を、直接段ボールから引っ張り上げることになります。ただ、総重量が27Kg(スペック値)なので、さほど困難ではありません。一番びっくりするのは天板で、重量はありますが、固定されていないので、枠との隙間で少し動くのと、これは試聴機だけなのかもしれませんが、歪んでいてがたつくことです。

 さて、その音ですが、予想通り勢いのある音が飛び出します。エソテリックが音場型とすれば、こちらは音像型。ところが音が前に出てくるものの、奥行きが感じられず、これはクラシックには向かないというのが第一印象でした。どうもステレオサウンドの評価とは違うなと思って、取説を読んだら、CDにはNOSをお勧めすると書いてあります。NOSとはノン・オーバー・サンプリングのことで、要するCDの規格通り、16ビットでサンプリングする方式のこと。では本機が拙宅に届いた状態の設定は何だったかというと、FIRというフィルターが入った、つまりオーバーサンプリンとなっていたようです。さて、NOSにした時の音は、まったく別物です。今度は音場空間が奥にも左右にも広がって、かつ空間を満たす音の密度が極めて高い。こんなに違うものかとあきれるほどでした。

実はエソテリックやアキュフェーズとのとの違いがもう一つあって、バランス接続時のレベルが+6dB固定であること。最初はこれに気づかず、いつもの音量で聞いたらとんでもない音量で、あわててプリの入力レベルを6dB下げました。試聴につかったのは、DP-750の時と同じ、ヘレヴェッヘのバッハのカンタータ集。透明感があり、かつ空間が広い。音楽がホールいっぱいに広がり、実に心地よい響きですが、ティンパニーは締まり、尾を引かないのが良い。合唱や独唱もエソテリックより存在感がます印象です。さらに低音の切れが良くなるのも大きな利点です。

 音楽が生き生きと聞こえるのはDP-750でも感じたことですが、それ以上に音そのものに存在感が感じられると言えます。これもDP-750で使った、プレトニフのベートーベンピアノ協奏曲第1番ですが、オーケストラをバックに、もともと個性的なプレトニフのピアノが、どうだ、これがベートヴェンだ!と言わんばかりに弾いているのが実に面白い。つまり、それだけピアノの音がくっきりと描かれるということでしょう。ちょっと古いというか、やや鮮度の落ちる録音はどうかと、内田光子のモーツアルトのピアノ協奏曲20番も聴いてみました。これも同じで、音質的にも空間的にも音が締まり、その効果として音楽がより鮮明な印象を与えます。ステレオサウンドの記事にある、キレッキレの音というよりも、充実した密度の高い音という表現がふさわしいでしょう。同時にフワァとした立ち上がりも感じさせるので、圧迫感はまったくありません。
 DP-750の時も通常のラックの横に置いて、バランスケーブルを差し替えていましたが、今回はプリのバランス入力の予備を使って、いちいち差し替えなくても済むようにしました。DP-750の試聴の時は現用のエソテリックのプレーヤとあまり大きな差は感じなかったのですが、今回は歴然とした差があり、これなら今のままでも良いか、などと迷わずに済みます。

 試聴はもっぱらCDでしたが、ステレオサウンドの記事でこのS3はSACDの音がびっくりするくら良いと書いてあったのを思い出し、これまた鈴木雅明のカンタータ集を聴いてみました。試聴はカンタータ第82番 "Ich habe genug"のソプラノバージョン。このソプラノはピークでちょっとクリップしたかと思われるくらいきつい音を出す部分がありますが、さすがにその部分は大きく変わらないものの、全体にエソテリックよりも声の伸びがあり、より人の声であるということを感じます。SACDはこれだけですが、SACDから特別な音が聞こえるわけではなく、ごく自然な音という印象はCDと同じです

 ところが、このSACDで大きな欠陥があることがわかりました。それはメカの回転音です。CDの時はほとんど気にならないのですがSACDCは回転数が高いため、かなり振動し、天板がむき出しということと相まって、まるでトランスがうなっているような音が出ます。これはステレオサウンドの記事には書いてないことで、メカにD&M製を採用しているのですが、拙宅のデノンDCD-SA1では恐らくこれより古いメカにもかかわらず、回転音は気になるほどではありません。従い、この差は明らかに穴あき天板により、メカがむき出しとなっているためと思われます。こういったうなり音というのは、一度気になると、音楽に集中できなくなるもので、リスニング位置でも聞こえてくると、さすがに買うことをためらいます。これだけ音の完成度が高いのに残念ですが、一方で開発者は当然気づいているはず。ここはやはり小さなメーカと、メカを自社開発できる大手との差でしょうか。恐らく、回転音を抑えるために天板を塞ぐか、音質を優先して穴あきタイプにするか、葛藤があったものと推察しますが、製品というのは、やはり総合的な視点で判断すべきではないかというのが、使ってみた者の正直な感想です。(2020年2月)