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当初の電源環境

 オーディオルームを作るとき、電源については100Vの専用回路を引くくらいしか考えていませんでした。数年前にオーディオビジュアル専用の部屋を作ったI氏を訪ねた時、結線を代えるだけで簡単だから絶対に200Vにしておくべき、パワー感が違うと助言され、それではと調べてみました。オーディオに限らず、趣味の世界はどこまで徹底するかが楽しみでみあり、悩みでもありますが、電源もその典型で、関連サイトがいっぱいありました。電源の究極は電柱からオーディオ専用線を引くことです。その工事を請け負っている工事会社もあります。専用線を引いた方の記事を読むと良いことばっかり書いてありますが、分電盤などもすべて新規になりますので、初期投資のみならず、基本料金などの維持費も増えます。(オーディオ専用電源工事を行った結果、これは間違いで、契約容量が変わらなければ、維持費も変わりません。2018年7月追記)専用線を引く目的はエアコンなどの家庭内の電気機器のノイズの影響を受けないようにするためです。では電柱から引いたらクリーンかというと、結局それも変電所から送られてくる間にいろんなノイズが乗ってしまいます。であれば、コンセントとオーディオ機器の間にアイソレーショントランスを入れる方が効くはず。という勝手な解釈で、既存の分電盤から専用回路を引くことにしました。

 こだわったのは入力側に一番近いブレーカを使うことと、クライオ処理した配線機材を使ったことです。クライオ処理というのは低温処理のことですが、どれだけ音に影響するかは比較したことがないのでわかりません。ただし使ったのはブレーカと200Vコンセントのみです。クライオ処理の電力ケーブルは当時8sqのもので、なんと10,800円/mもしましたので、あまりにばかばかしく、普通のCV-S(シールド付き)8sqにしました。(この記事を書くために、クライオのHPをみたところ、現在は2.6sqで5,300円/mのものもあります。これでも10mも使うとなると高い)
 これらの要求を電気工事屋さんに伝えましたが、指定機材は買えないのですべて施主支給という条件ならやりましょうとのこと。クライオ製品はオーディオ関係の販売店で扱っていますが、困ったのが線材です。通販の店を探したところ、ようや見つけたのが秋葉原の愛三。ここは切り売りもやってくれ、便利です。まだ10mくらい残っていますので、ほしい方には差し上げます。
 下図の分電盤の左上端のブレーカがオーディオ用です。Fケーブルと比べるとその太さがわかると思います。電気工事屋さんはケーブルが硬くて扱いにくいし、ブレーカはどこからとっても同じなのに、とぼやいていました。


 オーディオルーム内のコンセントはクライオ処理のプレートですが、プラグはごく普通の200V用のものです。プラグもオーディオ用と称して高価なものが多くありますが、200Vから100Vに変圧するためのアイソレーショントランスのプラグがもともと大したものを使っていないこともあり、近所のホームセンターで買ってきたものですませました。変圧トランスはオヤイデが良く知られていますが、どうせならアイソレーショントランスにした方が良いと考え、購入したのが下の写真のCSE TX-2000です。(注、現在はTX-2000XNにアップグレード)CSEも200V用の機器を多数取りそろえていますが、すべてそろえると電源だけでパワーアンプが買える価格になりそうです。

 このアイソレーショントランスは200Vに結線する前に100Vで使ってみたところ、その効果は歴然としていました。とにかく音が澄んで聞こえます。200Vでは他のトランスを持ってこないと比較のしようがないので、わかりませんが、おそらく100Vと同等の差が認められるはずです。問題はトランスがノイズを発生することで、こればっかりはどうしようもありません。ケースの上に乗っているダンベルはケースの振動防止用で、これで結構効きます。
 幸いこの壁の裏側は押し入れなので、将来的にはトランスを部屋の外に出してしまおうと考えています。どなたかノイズの出ないトランスご存じでしたら教えてください。なお、夏場はエアコンを使うので、そちらのノイズに埋もれてしまいますが、冬は床暖房は無音なので、ダンベルに加えて、スチレンボードのカバーを被せています。これで実用上問題のないレベルになります。

 オーディオの楽しさの一つは、この電源のこだわりがどう音に出るかにあります。これは比較しなければ出ない答えです。オーディオマニアの中には始めからこの比較ができるようにいくつも系統を準備している人がいます。アコースティックエンジニアリングという、音響設計・施工会社で紹介しているS氏宅では、専用200V(配線CV8)、専用100V(配線CV8)、汎用100V(Fケーブル)と3系統準備して、聞き比べています。結果は一番期待していた専用200Vが最もさえず、汎用100Vが意外に良いと、がっかりすることが書いてあります。とはいってもやはり、良いと信じていることはすべてやってみるというのが、マニアの道ではないでしょうか。(2006年9月)


 ここで引用しているS氏宅ですが、リンク先がすでに削除されていました。オーディオルームの設計や電源に関する興味深いレポートでしたが、残念です。(2021年10月)


 このホームページを作るにあたり、まず最初に考えたのはどういうテーマでページを分けるかということでした。オーディオを追求する上で基本となること、つまり部屋、機器の配置、電源、そしてシステムと分けてみたものの、はたしてそれぞれで書くことがあるだろうかと、少し不安もありました。しかし、書き始めてみるとそんな心配は無く、むしろ追求すればするほど書くことが増えるということを実感しました。スピーカの配置はその典型で、当初はあまり書くこともなかったのですが、音響測定や定在波シミュレーションなど始めると、どんどん書くことが増えてしまいました。やはりオーディオ雑誌の知識の切り売りではなく、自分で実践することは楽しみであり、説得力があります。
 その意味で、この電源のことはオーディオ雑誌で仕入れた知識を自分の判断で実践してきたという範囲にとどまり、本当に自分の耳で聴いて判断したと言えるのは残念ながらあまりありません。家を改築あるいは新築する時は、事前に確認する時間もなく、聞いて判断するまで工事を止めるわけにも行きませんので、良かれと思うことはあらかじめやっておく必要があります。そんなわけで、今頃になって200V電源は本当に意味があるのかということを確認してみました。その方法ですが、一番簡単なのは壁に設置された通常の100Vコンセントの電源を使った場合と比較することです。こちらのコンセントはFケーブルで接続したもので、しかもコンセントは通常のものです。壁コンセントを比較のためだけに投資するのはもったいないのですが、不公平にならない程度のものは必要だろうということで、松下のホスピタルグレードのコンセントとプラグに交換しました。この製品は今でこそあまり話題になりませんが、電源の重要性が認識され始めたころは信頼性の高さで話題になったものです。壁コンセントからのケーブルタップも重要なコンポーネントですが、ここもオヤイデのボックス(キットのような製品で、配線材も付属)にホスピタルグレードの壁コンセントを二個並べたものを作りました。接続ケーブルも高価な線材は避け、3.5sqのキャプタイヤケーブルを使いました。このタップから各機器までの電源ケーブルは当然ながら、現在使用している電源ケーブルを使っています。

 さて比較の結果ですが、先に引用したS氏宅の感想とほぼ一致しました。まず、200Vについては、CSEのホームページや、オーディオ誌に書かれているような圧倒的な差はありません。やはりトランスの影響が大きいようで、一緒に聴いていたK氏の表現を借りれば、フィルターを通したような音。100Vの方が高域が華やぐ感じで、情報量が多いように感じますが、何度か聞き比べるとトランスを通した音が情報量が少ない訳ではなく、高域が温和しくなるのでそのように感じられるようです。なめらかになるという印象はS氏の感想に近いとは言え、低域のパワー感が劣るということはなく、少し安心しました。とは言うものの、圧倒的な差があるのではという期待が裏切られたのも事実です。ただし、どちらをとるかと言われれば200Vの方で、重心が下がった感じで落ち着いて音楽を楽しめます。S氏のように、8sqの線材を100Vに結線し直すことも選択肢かなと思いつつ、いろんなCDを聴くうちに、差が良く出るCDとあまり差がでないCD(この方が断然多い)があることがわかりました。顕著な例はアーノンクール指揮コンセルトへボーのシューベルトのシンフォニー全集で、これは低音が入っていないのではないかと思えるほど高域ばかり目立つCDで、音量を上げるとちょっと耐え難い音のCDです。1992年の録音なので、そう古い訳ではないのですが、これを100Vで聴くと高域の華やかさばかりが強調されますが、200Vでは高域の柔らかさに加え、低域のパワー感が出てくることに気づきます。結論として、通常レベルの録音であれば、それほど差は出ないということで、トランスの費用やノイズを考えると、100Vでクリーン電源を使う(これも高価ですが)方がよいかもしれません。

 是非トライしてみたいのは屋内配線材の交換で、最近オヤイデから良さそうな線材が商品化されています。トランスとオーディオ機器間の電源ケーブルを交換するだけで、音のスケール感が大きく向上しますので、これはかなり効くと思われます。現在の制御用ケーブルはごつくて固く、改築の際も、既存部分は壁を壊さずにケーブルを通したので、おそらく固定されていないと思われますが、まずは容易に交換可能かどうかの調査から始めるつもりです。(2008年4月)


 さて、久々のオーディオの話題ですが、機器を入れ替えるというのは、経済的理由もさることながら、イコラーザーの調整やケーブル類の変更などを伴うため、そう頻繁にできることではありません。ましてやある程度の高級機となればなお更です。そこで登場するにがアクセサリーで、アクセサリー専門のオーディオ雑誌が存在するのはそういった事情の反映と思われます。
 電源をアクセサリーと呼ぶべきか、やや疑問がありますが、CSEのアイソレーショントランスのうなりが気になっていたところ、オーディオ雑誌で特定の評論家の間で評価の高い中村製作所のトランスがあることを知りました。オーディオ評論というのは参考にはなるものの、特に技術出身の評論家は特性重視の傾向にあり、推奨機器が必ずしも好結果を生まないことはよくあります。一例をあげると、アコースティックリバイブの電源ケーブル、POWER MAXU(現在はV)で、オーディオ評論家の評価は高く、自宅で使っている人も多いとのことで、拙宅のCDプレーヤや、パワーアンプに使ってみました。確かに力感はすばらしく、低音の力強さなどさすがという感じですが、どうも音楽を楽しむという感じにならず、結局CAMEROT TECHNOLOGYのものに落ち着いたということがありました。そうした経験がトラウマとなって、高性能が必ずしも音の良さにつながらないという思いがあり、このトランスNSIT-2000plus MarkUもはたして良くなるか疑問を持っていました。購入を決断したのは、まったくうなりは聴こえないというテレオンの店員の話でした。

 NSIT-2000plus MarkUを購入したのは2010年の5月、それを今頃書くというのは、調音パネルの記載を優先したからですが、この吸音材の工事も実施したのは2009年の秋で、その報告を2010年の8月になってようやく終えたという次第です。サラリーマン生活を再開して、再びオーディオに投資する余裕が生まれたのは嬉しい一方で、仕事柄出張が多いこともあり、このHPを書く時間が無くなったことが原因ですが、ある程度満足の得られる音を手にした今、記録しておきたいという情熱がやや薄れてきたこともあります。

 さて、このトランスですが、まずトランス特有のうなりはまったく聴こえません。この事実だけでオーディオ用トランスとして十分なクオリティを持つものですが、それを実現した技術こそ評価すべき点でしょう。こういう技術の実現は、うなりをゼロにするという目標を持つか否かが大きな分かれ目で、ある程度は仕方ないものと思えば、その時点でもう達成できないという答えが出たも同然でしょう。オーディオでは性能優先が必ずしも良い結果をもたらさない書いたものの、こうい製品に接すると、やはりオーディオは技術が基本と改めて思います。
 CSEを下取りに出したので、NSが届くまでしばらく100Vで聴いていましたが、200V駆動にしたときの差は大きく、ドライブ能力が一段と上がった印象です。CSEとの音質の差はさほど大きなものではなく、CSEの方が大人しく、NSのほうがクリアかつレンジ感(F特というよりS/N感)が広い印象でした。ただし、S/N感はうなりが聴こえないという、心理的影響が大きいと思われます。


 NSIT-2000plus MarkUには独立したトランスを三個増設できます。これは機器の電源変動の影響を受けないので、複数の機器をつなぐには便利な機能です。トランスは後でも追加できますので、1個のみ追加することにして、これからデジタル機器、つまりCDプレーヤ、イコライザー、シグナルジェネレータに給電し、メインの2KWにはプリアンプとパワーアンプをつないでみました。普段はパワーアンプをメインのトランスから、増設トランスはプリアンプのみという贅沢な使い方をしています。これはデジタル機器は別電源系統にした方が良いという通説に従った給電方法です。全ての機器をトランスから給電した時の音ですが、音質の差はほとんど感じません。最近歳のせいか、あるいはシステム性能が向上して差がでにくくなったせいかわかりませんが、一聴して違いがわかるというのは少なくなってきました。しかしいくつかのCDを聴いていくうちに、デジタル機器をトランスから給電した方が、奥行き感というか、空間的広がりは出るものの、音像が奥に移動し、音の密度が薄れることがわかりました。これもいつものことで、一度その違いを認識すると、以降はどのCDでも差がわかるから不思議です。まあそういうことは音に限らず、良くあることですが。音質については、100Vと200Vの実験で感じたことと同じ、つまり100Vの方がやや音が賑やかになる傾向があります。ただし、これは100V駆動の特徴というより、Fケーブルの特徴ではないかと思われます。

 左は最近お気に入りの一枚でガベッタの古典チェロ協奏曲集。どこかで聴いたことのある曲ばかりなのですが、新鮮な曲に聴こえて楽しめます。このチェロの音像が拡大し、スケール感が出るのがトランスで駆動した場合で、100V駆動の方がこじんまりとする一方、チェロの位置が低くなり、オケのまとまりも良くなります。トランスで駆動した方は、一聴よく聞こえますが、あたかも位相が左右で逆になったような感じです。この違いは何によるものか、興味深いところですが、電圧を計ってみると、屋内配線では0V〜100Vとなるのに対し、トランスの場合、±50Vとなりますので、 そのあたりに原因があるのかもしません。ともあれ、デジタル機器はトランスを通さないほうが良いということで、これはオプションのトランスをプリアンプ用に一個しか実装しなかったのは結果的に正解でした。ただ、こうなると、現在の100Vラインを普通のFケーブルから変更してみたくなります。残念ながら改築時はそこまで気がまわらず、Fケーブルのままにしたのが悔やまれます。(2011年2月)