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K-01からK-01XDへ

 DP-750、S-3と続けて最新のCDプレーヤを自宅試聴したものの、9年間使ったK-01に代える決断には至らず、更にラックスD-10X、本命のK-01XDが入荷するのを待つことにしました。発売予定は3月だったものの、新型コロナの影響で部品の入手が困難になったとかで、両機種が揃ったのは5月末日でした。両者の比較では圧倒的にK-01XDが優位で、特に空間的広がりという点で大きな差がありました。ただ、こういう比較試聴というのは、高性能を感じさせるのが常に優位となり、自宅でじっくり味わうと、また違った結果になることもままあります。これがオーディオの難しさでもあるわけですが、ここまで4機種を聞き比べ、現用のK-01を超えるのはやはりK-01XDであるという、宣伝文句みたいな結論になりました。
 K-01XDは駆動メカとDACの両方が更新され、特にDACは従来のICからディスクリートになったという点で、新機種と言ってもよいほどの変更となっています。ただ、驚くべきはその値段で、我が家の車より高価という、CDプレーヤの価格としては破格の存在(もちろん更に高価な機種もありますが、一般の家庭で使うものとして)です。後から考えれば弟分となるK-03XDという選択肢もあったかと思いますが、いくら最新機種とはいえ、K-01のユーザがK-03に換装するというのは、これまた心理的に抵抗があります。ちょうど嘱託の仕事も辞めた時でもあり、その記念にもなるということで、K-01XDの購入を決断しました。ただ、B&W 802SDの修理の出費もあり、スピーカの交換は今後、投資で当てることでもない限り、ほぼ絶望的となったのは少し残念です。
 実はこのK-01XD、自宅に届いたのは6月12日で、すでに2か月以上経過しています。そのレポートを今頃になって書くというのは、それなりの理由があります。まず、第一にその音。第二に一か月もたたないうちにCDが読み込めないというトラブルが発生したことです。まずは音ですが、最初のエソテリックのX-01 D2ほどではないものの、かなり刺激的とも言える音で、特に圧迫感が半端ではありません。実はK-01XDが故障した1週間ほど、またデノンのDCD-SA1を使っていましたが、実に心休まる音で、またしても、これでも十分ではと思ったほどです。K-01の時はもっと馴染みやすかったと思って、当時の導入記を読み返すと、滑らかな音を得るのに数か月要したと書いてありますので、これはエソテリックの機器の特徴なのかもしれません。

 K-01XDはX-01D2とは違い、決して刺激的な音が出るわけではありません。ただ、ダイナミックレンジの幅が大きく、同じCDでも録音時期によって音量の調整をしなければならないこと、そして何よりも空間的広がりが尋常ではなく、音響的にではなく、空間的に音が飽和してしまうことです。一般に音が飽和するというのは音量が大きすぎる時に言いますが、空間的に飽和というのは、二つのスピーカと背面の壁の間で音が回り込んで、反響しているような状態と言えば良いでしょうか。本当はもっと広がりのある音場が得られるはずが、狭い空間の中で行き場がなくなり、無理やり押し込められたような感じです。
 ちょうど、電源工事以降、イコラーザーも更に調整が必要と思いつつ、スピーカの故障で頓挫していたこともあり、まずは先代の802Dから14年間も踏襲してきた、スピーカの配置を見直すことにしました。音場を広げると言っても、左右は部屋の構造上、現在の配置(左右の壁からSPの中心まで63cm)は広げようもなく、可能なのはスピーカの向きを現在のやや内向きから広げることと、前に出して、背面壁との間の空間をとることです。90Kgもあるスピーカを動かすのは簡単ではないのですが、幸い現在使っているスピーカ台は耐震用のもので、スピーカが乗っている上の台のみをかなり大きく動かすことができますので、左右の壁からの距離とリスナーとの対向角度については、このままで最適位置を探ることにしました。一方、背面との距離については移動しながら試すわけにはいきませんので、現在の配置を決めた時の定在波解析ソフトにより、どの程度前に出せばよいか探ることにしました。

 下記は定在波解析ソフトによる、現在のスピーカ位置と、背面から更に5cm前方(リスニングポイントに近づける)に出した場合の比較です。両者を比較するとわかりますように、ほとんど差はないのですが、左右の壁からの距離が離れるほど、特定周波数での引っ込みが少なくなり、その観点で70cm離す(以前より6cm内側に移動する)ことにしました。これは後日のヒアリングで感じたことですが、空間的に飽和したと感じたのは、背面との距離よりも、左右の壁との距離が近すぎて、壁面の反射が影響が大きかったのかもしれません。

【現在のスピーカ位置:背面から118cm、側面から63cm】

【5cm前に出した位置:背面から123cm、側面から70cm】

 リスナーとの対向角度については、以前は1mくらい後ろで、左右のスピーカ軸が交差する程度に振っていました。スピーカ位置が5cm前に、左右の間隔が12cm狭くなった分、広がりを持たすべく、部屋と平行までは行きませんが、かなり外側に振りました。この状態で、空間的には十分とは言えないまでも落ち着いて聞けるようになったのですが、CDによってはやはり中抜けの感じが否めず、試しにリスニングポイントの後ろで聞くと、明らかに自然なステレオイメージの再現となります。結局、内向き角度については、従来から3度程度外向きに振ったのみで、当初の内向き角度は、それなりに詰めた結果だと再認識することになりました。

 スピーカの配置が決まったところで、次はイコラーザーDG-48の最適化です。DG-48の取説には、リスニング位置でフラットにするシンプルヴォイシングに加えて、カスタムヴォイシングが用意されていて、そのなかにスピーカの音色を活かしたヴォイシングの説明があります。もちろんその機能は知っていたものの、まずはヴォイシング機能で聴感上フラットにして、あとはイコライザーで微調整する方法で不満を感じなかったため、あえて使っていませんでした。しかし、改めてWebでイコラーザーの使い方を調べると、スピーカの特性を活かしたヴォイシングの有効性について触れた記事も多く、この機会にトライすることにしました。 下記はその方法によるヴォイシングの結果です

【左側】

【右側】

 リファレンスをフラットにした場合と比較すると、大きくは変わりませんが、2Khzから3Khzあたりに凹みがあり、イコライザーで調整しなくとも、スピーカ自体がそのような特性を持っていることが認められます。低域についても同様で、シンプルヴォイシング時は、強引にブーストしているのに対して、よりゆるやかな立ち上がりになっています。これでも低域はブーストされていますが、中音域以上では、基本的には左右のアンバランスを補正するだけですから、全帯域を通じて、より自然な音と感じられるのは、当然のことかもしれません。
 この特性ではイコラーザーはほとんど要しないのは自明で、下図のように、従来のカーブに比べて、かなりフラットに近いものとなっています。


 スピーカの配置変更という重労働を終えたのが6月末で、さてじっくりと新しいCDプレーヤを楽しもうという矢先に、今度はCDを認識できないという不具合が発生しました。最初は特定のCDだけと思い、SACDも含めて、いろんなCDで試してみても同じで、トレイが勝手にOPENしてしまいます。新製品というのは初期故障がつきもので、これまでは一年ほど待って安定したと思われる頃に購入していましたが、今回は現用CDプレーヤがすでに9年も経過していることもあり、発売直後の購入となってしまい、まさに恐れていたことが的中しました。まあ発売時期には関係なく、たまたま故障品にあたったということかもしれませんが、あまり気持ちの良いものではありません。早速TEAC修理センター(ちなみに修理はエソテリックではなく、TEACの修理センター扱い)に電話し、幸い圏央道の入間インターの近辺でしたので、自分の車で搬入することにしました。故障が発生したのは7月3日頃で、しばらく様子をみていたのですが、症状が常に再現することを確認したうえで、7月9日に持ち込みました。
 翌日、TEACから同様の症状が認められること、また原因調査にしばらく時間を要することと、購入したばかりという事情も考慮し、修理ではなく新品交換にさせていただきたいとのお詫びの電話がありました。代替品の取り寄せと動作確認に時間が必要とのことで、搬入からちょうど一週間後の7月16日に引き取りに行きました。最初に購入したCDのシリアル番号は「15」で、交換品は「11」と、さらに若いシリアル番号の製品になりましたが、その後は安定しています。当然のことながら音の差はまったく感じられません

 そんなわけで、6月12日の搬入依頼、スピーカの位置およびイコラーザーの調整、加えて製品交換という予期せぬアクシデントで、本格的な音出しまで一か月以上かかってしまいましたが、現在はようやく落ち着いてきました。音についてはすでに書いたように、空間的広がりが圧倒的で、どのCDでもこんなに間接音が豊かだったのかと改めて認識した次第で、スピーカ位置の見直しとも相まって、狭いリスニング環境ながら、当初から目標としてきた、コンサートホールで音に包まれる感じがようやく実現しました。

 一方で、K-01 XDの力強い音はややもすれば押しつけがましいと感じられるところもありますが、これは使い込みで解消するような気がします。というのは、猛暑の夏にはおよそふさわしくない音楽ですが、パーボ・ヤルヴィとフランクフルト放送管弦楽団によるドイツレクイエム。再生の難しさもあり、どうもこの曲には馴染めなかったのですが、K-01 XDでは、空間的な見通しのよさに加えて、特に低音域での力強い響きが、団子状になりやすい音の重なりを解きほぐすかのように提示してくれます。もともとライブにしては透明感のある録音なのですが、このような曲での表現力はK-01 XDならではと思います。

 リファレンスにしているオーケストラの演奏会も、新型コロナの影響でままならない状態ですが、オーケストラの音は確かに力強く、これでも生に比べればはるかにおとなしいのかもしれません。ただ、オーディオで生の音が再現できるわけもなく、狭い家庭環境のなかで、生のダイナミックレンジを再現してもうるさいだけです。現時点ではこのままバーンインを続けることで落ち着くように思いますが、ケーブルの吟味なども含め、もう少し寛いで聞ける音に調整するか、今後より多くのCDを聞きながら判断することにします。(2020年8月)


 今年は楽しみにしていた東京・春・音楽祭のワーグナーも新型コロナの影響で公演中止となり、昨年は出張で演奏会もままならない状況でしたので、オーケストラの演奏会は2018年の10月以来、なんと2年間も空いてしまいました。K-01 XDの導入以来、スピーカの配置やイコライザーを調整してきたものの、やはり生の演奏会で確認せねばと思いつつも、楽団と会場が感染防止の諸対策を試み、ようやく公演を開始したのは9月でした。N響も例外ではなく、常任指揮者のパーヴォ・ヤルヴィも来日不可で、国内の指揮者が代役を務め、かつ公演も休憩時間なしで、1時間程度というスタイルです。ともあれ、まずはN響、しかもサントリー・ホールでということで、下野竜也の指揮で、シューマンの4本のホルンのための小協奏曲と交響曲4番を聞いてきました。
 演奏はともかく、音についていえば、生と比較すること自体がナンセンスというのが結論ですが、それではオーディオの存在意味がありません。となれば、いかにして生の雰囲気を出すかということになりますが、まず、X-01 XDが力強いと言っても、オーケストラの音ははるかに力強く、これが正しい再生の方向性であることが確認できたこと。次に金管の出方がまったく違い、ブルックナーならいざ知らず、シューマンのシンフォニーって、こんなに金管が目立つ曲だったかしらという感じでした。飛び出す音が苦手なのは、コーン型の特徴と言われますが、一方で、この部屋で金管を吹いたら騒音でしかないと思いますので、それは致し方ないとして、もうひとつの違いは低音の抜けの良さ。これもオーディオの難しさであることは周知のことですが、X-01 XDで力強い低音が出てきたことで、それが顕著になったように思います。この対策は部屋の隅に低周波の吸音材やレゾネータを設置することですが、それも現実的ではなく、まずはイコラーザーで低域を調整しました。オーディオはともすれば、箱庭的な心地よい音響を求めがちで、生の音は別世界といえども、やはりリファレンスとしての演奏会通いは必須と感じた次第です。
 なお、10月は久々に都響で、梅田俊明の指揮、田部京子のピアノでベートーヴェンのピアノ協奏曲4番を聞いてきました。海外からの来日演奏は当面困難ですが、東京で、こういう上質の演奏が楽しめるのはありがたいことです。梅田はメリハリの利いた演奏で楽しめたのですが、会場が芸術劇場のため、最後のフルオーケストラでのドボルザークは飽和していました。(2020年10月追記)


 ソウルノートS3の試聴で、SACD再生時の回転音が気になり、音は素晴らしいものの、購入の決断には至らなかったことを報告しました。S3の名誉挽回のためにも付け加えておきたいのですが、このK-01 XDもSACDの再生時には回転音が聞こえます。特に回転が止まるときに大きくなるようですが、再生時も音量が小さいときはリスニングポイントでも気になる程度のレベルです。相対的にはS3より目立たないと思いますが、XDも天板が本体から少し浮いているためではないかと推察します。一方で、この構造が抜けの良い音をもたらしていると思われ、その点ではS3と同じコンセプトです。ただ、初代K-01の経験者としては、もう少し抑えてほしいという思いもあります。一方で、SACDも一時のブームは去り、所有するライブラリもほとんどCDですから、あまり気にしなくても良いのかもしれませんが。
 音についても当初の圧迫感はまったく感じられず、空間的にはもとより、あらゆる音域において、のびのびとした実に心地よい音が得られています。バーンインによる効果もあるとは思いますが、それよりも適切な音量調整によるところが大きい(プリのゲインを6dB下げて、より細かな音量調整を可能にした)のではないかと思います。(2020年12月追記)


 NHKのクラシック音楽館のライブラリ用に中古のN100を見つけて、オーディオユニオンに行ったとき、前から気になっていたアマティ・トラディションを聞いたのですが、その時のCDプレーヤがK-01 XDでした。そこでSACD再生時の回転音が気になるという話をしたら、お店ではそのようなことはなく、固有の問題ではないかとのこと。確かにお店のK-01 XDはずっと静かで、また修理に持ち込まないといけないかと思案していました。その前に、SACDはめったに聞かないこともあり、メカの慣らし運転が足りないのではないかと気づき、丸一日リピート再生をしました。その結果、うそのように静かになり、リスニングポイントではほとんど気にならなくなりました。電子部分のバーンインによる変化は良く聞きますが、メカも同様で、それなりの慣らし運転が必要のようです。(2021年6月追記)