本文へスキップ

DG-48

 オーディオシステムのページを記述したのは2006年9月ですから、もう3年近くたったことになります。その間、SACDプレーヤのアップグレードに始まり、それに伴うケーブルの変更、クロックジェネレータの追加、そして弦楽四重奏が思うように鳴らず、その対策として最近行ったスピーカボードの追加によるセッティング改善と、ソースの広がりとともにオーディオシステムも進化してきました。スピーカのセッティングのページに記載しましたが、ボードを追加しても依然としてヴァイオリンのきつさが気になり、あとはモニター的傾向が強いAudioquestのスピーカケーブル(ケーブルのページ参照)の交換しかないかと思案しておりました。
 そんな中で、ステレオサウンドでイコライザーの勧めという記事があり、その昔あったトーンコントロールのような、単に低音域をブーストするのではなく、測定用マイクを使って部屋の定在波を補正するという使い方を知ったわけです。とはいうものの、どうも昔のトーンコントロールのイメージが強く、しかもデジタルで補正するわけですから、たとえばプリアンプとパワーアンプの間に入れると、AD変換とDA変換が二回増えることになり、その影響で定位やクリアネスに影響が出るのではないかと懸念されました。ともかく一度試してみようということで、アキュフェーズのDG-48を借用することにしました。

 上の写真は借りてきたDG-48をラックの一番上に仮設置した時のものです。DG-48の使い勝手のよさは先のステレオサウンドでもレポートされていますが、マイクロフォンの位置をリスニングポイントに設定さえすれば、ほんの数分でできてしまいます。補正前の特性と補正後の特性も表示でき、下記はその結果です。左側が左チャンネルの補正前と補正後、右側が右チャンネルの補正前と補正後です。Myspeakerで測定した時と同様、右側のチャネルの低音域の落ち込みが大きく、これはSPに向かって部屋の右側にある窓による影響ではないかと思われます。左側には本箱がありますが、こちらはむしろ壁の補強になっているものと推察されます。ただし左右の違いよりも、部屋全体での定在波の影響が大きく、この部分についてはDG-48のデフォルト値と思われる最大+12dBでも補正しきれていません。

補正前(左)

補正前(右)

補正後(左)

補正後(右)

 肝心の音ですが、これはもう激変しました。今までケーブルで散々苦労してきたのはなんだったのかと思ってしまいました。オーディオ雑誌などではフラットな音は意外につまらないと言われていますが、フラットに補正しただけで、もう十分と思えるほどのバランスで、低音域の力強さは言うまでもなく、中高域のきつさは完全に払拭されました。DG-48には、測定用マイクと発信音による音場補正(ヴォイシング)をしたうえで、さらに周波数特性を自由に設定できるイコライジング機能が用意されています。DG-48はこのイコライザーカーブの設定も容易で、付属のペンでカーブをなぞることで任意のカーブを設定することができます。スピーカのセッティングのページで中高域がきつい例として取り上げたマリナーのハイドンのシンフォニー48番ですが、さすがにこれはフラットでもまだヴァイオリンが張り出す傾向があり、こういったソースの補正に、このイコライジング機能は大変便利です。DG-48にはイコライジングカーブを20通りまで保存できるので、ソース毎にイコライジングカーブを変えることもできますが、今のところフラットなケースと、1KHz以上の中高域を若干下げたカーブだけで十分対応できています。最適カーブの設定は、いろんなソースを聴きながら試行錯誤をしていくという今後の楽しみでもあり、それについては、いずれまとめる予定です。(2009年4月)


 上記の通り、デジタルイコラーザーDG-48導入時はイコラーザーカーブの設定が主要なテーマと考えていました。しかしその前に、室内音響測定で使った音響測定ソフト、MySpeakerによる測定結果との対比も興味あるところですし、最近になってオーディオルームのレイアウトを変更したので、まずはその結果を記載することにしました。
 まず部屋のレアアウトですが、下図に示しますように、もともと道路側(スピーカに向かって右側)が窓で、左側は壁なので、反射特性などの違いがあります。さらに左側の壁には幅1.8mの本箱があり、奥行き30cmといえども左のスピーカへの影響が懸念されました。聴感上は見た目ほど気にならないのですが、左右の周波数特性の違いは測定結果にも出ていました。

 この本箱の一つを右側のコーナーに移動し、左側のスピーカ周りの空間をあけるとともに、左右の空間が対象になるようにしました。右側の窓については採光の問題もあり、そのままとなっています。それでも左右の音響特性の差は少なくなったのではないかと思われます。なお、音響パネルについても左右非対称になっていますが、左側のパネルを壁に沿って移動しても測定結果にはほとんど影響しないので、本箱のあった位置に移動しています。鏡面効果による拡散を狙った配置ですが、聴感上はやや反射効果が大きくなったかなという程度で、差はあまり感じられません。

 この状態でのMySpeakerの測定結果を下記に示します。比較のために示した以前の特性(2008.6.13測定)は、音響パネルを取り付けた状態、すなわち本箱を移動する前の状態ですが、明らかに改善されています。この部屋の特徴である50Hz〜60Hzの落ち込みが少なく、1kHz近傍の盛り上がりは変わりませんが、その上の周波数での落ち込みが少なくなり、よりフラットになっています。

 これだけ基本特性が変わると、DG-48によるルームアコースティックの補正も当然再度実施すべきで、大いに期待したいところです。ところが、これがまたオーディオの不可思議なところで、確かに左右のバランスは良くなっているのですが、50〜60Hzの落ち込みが返って大きくなってしましました。これにはがっかりするとともに、どう考えても原因が思い当たりません。DG-48の補正リミットは±12dBなのですが、目一杯持ち上げても-6dBで、補正しきれていないのです。
 下図は左スピーカの特性比較で、上段の二つが本箱移動後の特性です。左が補正前で右が補正後です。下段は本箱移動以前の特性で、同様に左が補正前で右が補正後です。補正前同士を比較すると、移動前(下)の方がでこぼこが小さく、50〜60Hzのディップも、MySpeakerの結果と逆で、本箱移動後の方が大きく落ち込んでいます。スピーカの周りの空間を大きくしたほうが悪くなるというのはどうにも理解し難いうえに、DG-48を使っても補正しきれないというのはなんともやり切れません。しかしこれが現実ですから何らかの原因があるはずで、また新たな課題がでてきたと前向きに考えるしかありません

本箱移動後(補正前・左)

本箱移動後(補正前・左)

本箱移動前(補正前・左)

本箱移動前(補正後・左)

    

 一方、右スピーカの特性はどうかというと、右側については何も変わっていないにも関わらず、移動前に比べて改善されています。50〜60Hzの落ち込みが大きいのは左側と同様ですが、落ち込みの周波数帯域幅が狭くなり、特定周波数に顕著に現れています。もう一つの特徴は1KHzあたりのでこぼこが少ないことで、左スピーカに効くと思われたことが、むしろ右スピーカに現れているようです。こちらも気になるのは落ち込み部分の補正ができていないことですが、このあたりはFFT結果を表示する時の周波数帯域幅のとり方による差もあると思われ、ましてや聴感上ではまずわかりません。

 

本箱移動後(補正前・右)

本箱移動後(補正前・右)

本箱移動前(補正前・右)

本箱移動前(補正後・右)

 DG-48とMySpeakerによる測定結果の相違は当然あり得ることで、その解明にはMySpeakerも片チャンネルづつ測定して比較する必要がありますが、ここでの問題は、MySpeakerで良くなったと思われたのが、何故DG-48では悪化したのかです。下図はDG-48で補正した後のMySperkerによる測定結果です。明らかにフラットになっており、測定結果にDG-48との違いはあっても改善傾向は同じです。MySpeakerの測定結果では若干右下がり(ハイ落ち)の傾向が見られますが、これは測定に使っているノートPCのサウンドボードの特性によるものと思われます。

 良かれと思ったことが必ずしも思い通りに改善されないことはオーディオでは良くあることですが、今回ばかりは基本に忠実なことであり、その意味ではいささかショックでした。現時点で考えられるのは、定在波による低音の落ち込みは天井高など、部屋の構造で支配されるもので、本箱が左右対称となったことで、その傾向が顕著になり、左右の特性が揃ったと考えることができます。これは、スピーカの設置で、あえて部屋に平行に置かない方が定在波が分散されて良い結果が得られた、との報告例があることからも、十分考えられる現象です。
 もっとも、測定結果が良いから音も良いと言えないことはオーディオの常識であり、まずはこの状態でしばらく聞き込むことにします。このページではイコラーザーの設定をどうするかがもう一つのテーマですが、その記載は少し後にし、まずは今回の落ち込みの原因と対策を試行錯誤しながら詰めていきたいと思っています。(2009年7月)