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802ダイアモンドへ

 K-01を試聴した同時期にC-3800も試聴して、その魅力にすっかり取りつかれてしまったのですが、一方で、システムの中心的コンポーネントとなると、やはりスピーカが優先という思いもあり、K-01の導入のページの後半は早くも次のスピーカの話になってしまいました。どちらかというと、消去法で選択したB&W 802Dですが、7年間の努力もあり、もうこのままでも良いのではという思いも強くありました。そんな中、候補としてGIYA G3が浮上し、発売開始以来、いろんな場所で聞いてきました。GIYA G3はアルミの振動板で、ともすれば金属の振動板は冷たい感じの音がしますが、これはそういう感じは受けません。同じ金属の振動板で、MAGICOのQシリーズやSシリーズも優れた製品ですが、どうしてもクールな印象は否めず、私のように生の演奏会の雰囲気を重視するユーザにはちょっと違和感があります。
 そんな思いの中、今年は嘱託としての勤務も終了し、いよいよリタイア生活に入ったため、オーディオに投資できる資金も先細りとなることは明白で、今が最後のチャンスと、同じ802でも別物と言われる802ダイアモンド(802SD)と、GIYA G3に絞って比較試聴しました。GIYA G3の特徴は聴感上のS/Nが非常に優れていることで、余計な音がしません。だから人の声が自然で、はっとするくらいリアルな音が出ます。比較試聴に使ったのはバッハ・コレギウム・ジャパンのカンタータ集 Vol/41。あの形状から、いかにも奥に深く広がる音場を想像しますが、意外とこじんまりして、その分、密度が高い印象でした。ただ、これはリスニング環境としては最悪のテレオンの試聴室での印象なので、これをもってスピーカの評価とするのは尚早です。ともあれ、音像が広がり過ぎないのは高性能の証拠ですが、802SDに替えると、急ににぎやかになります。これは歪が多いというよりも解像度が高いということで、同じCDから出てくる情報量がかなり違います。もっと良い環境で比較すると、GIYA G3も聞こえているのでしょうが、あくまで控えめで、802SDはそれを露出する感じです。

 両者の価格差は約100万円。これも大きなファクターで、GIYAを選べば、C-3800はまず無理です。一方、802SDの場合はプリアンプにも資金を回すことが可能で、トータルシステムとしての性能向上も視野に入れて、802SDに換装することに決意しました。スピーカ交換という一大イベント、それも人生最後のスピーカ選択となる可能性を考えると、全く違う系統のスピーカも使ってみたいという気持ちもかなりありました。ただ、802Dを7年間使ってきた経験も大きな要素で、これなら今後数十年、十分満足できるだろうという確信もありました。
 この802シリーズの特徴は、現代の最先端スピーカでありながら音色が暖かいことで、それが演奏会の雰囲気を再現できる大きな要因でしょう。恐らくタンノイもそういう系統でしょうが、そういった音楽ファンに受け入れられる要素と、オーディオマニアも満足させられる基本性能の高さが両立していることが、このスピーカの最大の特徴ではないでしょうか。

 搬入は2013年4月26日。外観はご覧のように802Dとほとんど同じで、見た目の区別はつきません。恐らく言わなければ誰もスピーカを替えたとは気づかないでしょう。搬入からすでに2ヶ月経過していますが、予想通り、802Dとは比較にならないくらい、滑らかな音が出ています。7年間、あれほど悩まされた高域のピーキーな感じは払拭され、802Dは欠陥商品だったのではないかと思わせる程です。ダイアモンドツイータの使い方がこなれてきたとは販売店の評価ですが、まったく新しくなったのはウーファです。すでにこのHPでも書いてきたことですが、低音の出方は実は高音に影響することは良く知られた事実で、まさにそれが802SDに換装する狙いだったわけですが、これは期待通りでした。

 滑らかになった一例は、レヴァイン・ウィーンフィルのモーツアルトの交響曲第25番。神童と言われたモーツアルトですが、この曲の持つドラマチックな主題とその展開を聞くと、これを本当に17歳で書いたのかと思わざるを得ません。このシリーズは以前にも取り上げていますが、これがあのウィーン・フィルかと思うほど、音が硬く、かつ高域が刺激的な録音です。滑らかというより、しなやかになったという表現がよりふさわしいのですが、ヴァイオリンの音がほぐれてきて、個々のヴァイオリンの重なりとして聞こえるようになりました。

 モーツアルトの交響曲は、ジェフリー・テイトとこのレヴァインが好対照ですが、いずれも良く聴きます。ジェフリー・テイトのモーツアルトはテンポがゆったりで、ちょっと古風な感じなのに対し、こちらはテンポも速く、古楽器のように軽快なモーツアルト。もっとも、ウィーン・フィルなので、現代オーケストラらしい豊かな響きをきくことができます。しなやかな音になったという観点では、テイトのモーツアルトの方がより顕著です。この録音はCD6(32番、35番、39番)とCD9(40番、41番)の2枚がデジタル初期の1984年のホール録音で、残りが1985年以降のアビー・ロード・スタジオでの録音ですが、最初に聞いたときは何だか中央に固まった音で、およそセッション録音とは思えない、さえない音でした。それがこの802SDでは全体に非常にクリアになり、かつ音場の広がりも現代の録音と比べて遜色のないレベルで再生できています。こういう変化は、もちろんCDによって差があるものの、全体に共通した特徴です。
 低音については、ウーファの変更で、やわらかく、よく弾むようになりましたが、違いを明確に感じるのは、以前はスピーカの背面で聞くと、低音がもやもやと留まることがありましたが、802SDではこれが完全に消えたことです。リスニングポジションではこの差は直接的には感知できませんが、低域の透明感や、音場の広がりなどに、大きく影響しているものと思われます。

 左は現在のセッティングですが、ボードは耐震性をうたい文句にしているSEISIS のオーディオボードを使っています。一生もののスピーカなので、このくらいの投資はやむを得ないところですが、実はこれは2012年の6月に、802D用に購入したもので、すでに1年も使っています。もちろん耐震性が一番の目的ですが、上下の板が完全に分離されているためでしょうか、低音域が締まるという副次的効果があり、音質の向上という観点においても、交換する価値がありました。
 SEISISの欠点は、下のボードと上のボードの相対位置を固定するものがないことで、中心位置からすぐ動いてしまいます。簡単なもので良いので、手で押したくらいでは動かないストッパーのようなものが欲しいところです。802SDの搬入時も、ボードが動くため、二人かかりでもボードの上に設置するのに一苦労しました。

 802SDへの換装後に交換したのがスパイク受けです。それまではスピーカのセッティングで報告したように、KRIPTONのボードと同時に購入したIS-200というものを使っていました。それで何か不満があるわけではなかったのですが、オーディオラックで有名なアンダンテラルゴのスパイク受けの評価が高いことを知り、802SDへの換装を機会に、一度試してみたいという気持ちが強くなりました。ただ、アクセサリーについては一通りやるべきことはやったという思いと、アクセサリーは音質改善の効果はあるものの、劇的な変化をもたらすものではないという思いもあり、しばらく迷っていました。
 アンダンテラルゴの採用を躊躇したもう一つの理由はその価格で、同社のラックも高価ですが、4個セットで定価が42,000円もします。左右で8万円も投入して、あまり変わらなかったら、いかにも無駄使いです。とはいえ、やはり802SDをより良い条件で使ってみたいという気持ちが勝り、写真のようにスピーカ用のSM-7Aを購入しました。結果的にはこの投資は大成功で、低音の安定と同時に、空間的な広がりが一回りも大きくなり、たかがスパイク受けがこれほどの効果をもたらすとは思いもよりませんでした。アクセサリーといえども、時にはコンポーネントを交換するのに等しいくらいの差がでるということを、改めて認識することになりました。
 802SDは4本足なので、レベル調整が面倒ですが、IS-200の場合、いくら調整してもどこか1か所は食いつきがゆるく、スパイク受けを手で回すと動いていました。このSM-7Aはスパイクの食いつきが良く、4個ともびくとも動きません。このあたりの違いがスピーカを安定させ、振動板の動きが確実に空気の振動に変換されることで、スピーカ本来の性能が発揮できるようになったものと推測されます。


 イコライザーの設定ですが、スピーカ交換といっても同じ802ですし、恐らくほとんど変わらないだろうと、当初は802Dの設定そのままで聞いていました。それで特に気になる部分もなかったのですが、部屋の家具類の変更もあり、一度測定をしてみました。結果は以下の通りで、予想通り802Dと802SDでほとんど差はありません。部屋の定在波の特性に比べれば、どのスピーカも周波数特性はフラットとみなすことができますので、恐らく、他のスピーカでも差は出ないと思われます。

802D 左チャンネル

802D 右チャンネル

802SD 左チャンネル

802SD 右チャンネル

 リスニングポジションの特性に差はないといっても、イコラーザーの最適化は見直すべきですが、そこは同じ802シリーズ、しばらくは802Dの設定のままで聞いておりました。802D時の設定は、低域のブーミーさを避けるため、数百ヘルツの領域を若干下げた、言わゆる二つ山特性に近い補正カーブでした。802SDではその必要がないと思われ、右のようになだらかに下げた特性にしています。まだ全てのCDで確認したわけではないので、今後、微修正の可能性はありますが、ほぼこのままいけると思っています。(2013年7月)


 その後、低域が改善された802SDの場合でも、やはり200Hz辺りの影響があることがわかり、802Dと全く同じイコラーザー特性(左のカーブ)に戻しました。イコライザーの設定については、結局、長年聞き馴染んだバランスが、最も良いと感じるのではないかと思います。(2013年9月)

802Dのイコライザーカーブ
 

802SDで一時的に変更した特性
(200Hz近傍の凹みをなくした)

802SD その後

 オーディオの主役ともいえるスピーカは、B&Wの802Dを始めて導入して7年、2013年に802SDに交換して更に7年(2020年7月で)になろうとしています。つまり14年間も802シリーズを聞いて来たことになります。802SDは2015年には後継機種である802D3が発売され、これはミッドレンジユニットの材料が、従来のケヴラー繊維から、コンティニュアムに変わり、エンクロージャーも含めて一新されたことでオーディオ界では話題になりました。もちろん802SDユーザとしては心穏やかではなかったものの、電源工事なども経て、これでも十分ではないかという思いが強くなっていました。とはいうものの、やはり進化した音を聞きたくて、久々にテレオンを訪れて802D3、それもPreastige Editioinという特別仕上げのものを聞いてきました。結果はここに書くまでもなく、圧倒的な違いに、いずれは交換かと思わずにいられなくなりました。一方でCDプレーヤのページでレポートしたように、802D3は発売からすでに5年、そろそろバージョンアップがあっても良いころで、スピーカはしばらくは様子見とし、まずはCDプレーヤの更新を優先しようと決めた次第です。
 ところが、その後どうもスピーカの左右での音圧がアンバランスになっていることに気づき、いずれ必要と思っていたイコラーザーの再設定をしようと、DG-48の測定機材一式を取り出して測定したところ、あきらかに左右で低音の出方が違います。ネットを外して耳を近づけたところ、右側のウーファが片方鳴っていないことがわかりました。
 Academy-1というイタリア製のスピーカで、片側のツイータが切れたことは経験済みですが、B&Wのような大手、それも802シリーズという高級品でもこのような障害が発生することはまったく想定外の出来事でした。

左側

右側

 上がDG-48による測定結果で、スピーカからの距離は80cmで、左右それぞれのスピーカの中心を向くようにセットしてあります。右側は左に比べて、300Hzから下の音域で約6dBの差があるということは音のレベルが半分ということで、右側のウーファが一個しか鳴っていないということが測定上も現れています。
 さすがにAcademy-1と違って、802SDを自分で修理する気にはならず、さりとて、コロナウィルスが蔓延し、緊急事態宣言が発令された状況下では、メーカに修理を依頼するのも少し待った方が良いし、そもそも修理に対応してもらえるかもわかりません。結局、故障がわかった4月上旬から連休明けまで待つことにしました。(ところが、連休明けも緊急事態宣言は継続され、未だ修理待ちの状態が続いています)
 片側が鳴っていないと気づいたのは、おそらく故障してすぐではなく、しばらくたってからではないかと思います。というのも、片側がウーファ一つとわかって聞いていても、さほど大きな違いは感じません。従って、故障したまま鳴らしても、音楽が楽しめないわけではないのですが、一方で、故障したまま鳴らす続けるのは、問題のないウーファへの負荷など、気になることもあります。そこで再登場したのが、修理したAcademy-1です。修理後の左右差も気になりますし、通常はあり得ないアンプと組み合わせてみるという興味もあり、802SDの前に設置して、802SDの修理ができるまで、しばらく鳴らしてみることにしました。その結果については、Academy-1のページに書く方がより適切なので、そちらを参照ください。
 この続きは、802SDの修理となりますが、今は一日も早いコロナの早期収束を願うばかりです。(2020年5月)


 Academy-1は、修理後しばらくメインのスピーカ代わりとして使っていたものの、結局リビングのAV用として使うことにし、メインは片側のウーファが壊れた802SD戻しました。音楽を聴く分には思ったほどの支障はないものの、そろそろコロナウィルスの感染者が減少に転じた5月20日過ぎに輸入業者であるD&Mのサービスセンターに電話しました。予想に反して、緊急事態宣言下でも修理の受付はやっていたことがわかりました。症状を話すと、ウーファの交換が必要で、費用は18万ほどとのこと。幸い国内にユニットが1個あることがわかり、それを入手次第訪問ということになりました。これはラッキーで、ユニットがなければイギリスからの輸入となりますが、貨物便も減便のなか、いつ到着するかわからない状況でした。

 しばらくして今度は修理を担当する会社(ニューテック)から電話があり、訪問日は6月1日に決まりました。大手の企業にはよくあることですが、修理はD&Mではなく、委託を受けた協力会社が請け負っています。結果的には緊急事態宣言が5/25に解除されて、良いタイミングでしたが、コロナウィルスが消えたわけではなく、換気に気を使って窓を開け話しての修理作業となりました。分解してユニットを調査した結果、振動板が片側に張り付いた状態になっていて、動けない状況でした。ユニット単体では、1KHz程度の周波数の音には反応しますので、振動板の駆動回路には問題なく、低周波に追随した動きができない状態にあることを示してくれました。
 そのような現象が起きるのは、一般的には過入力による場合が多いのですが、一般の家庭ではまずありえず、修理に来られた方も、802シリーズでは初めての経験とのこと。思い当たるのは、DG-48やMySpeakerによるサインウェーブの加振ですが、それは故障した後に調査のために実施したことで、原因にはなりえません。加えて、過負荷であれば、二つあるウーファのうち一つだけというのも納得いかない点です。おそらく壊れた方が、過入力に対する耐久性が弱かったのかと推察しますが、真の原因は不明なれど、ユニットの故障であることは間違いなく、結局ユニットを交換して作業は完了しました。5年間の保証期間が終了してから2年もたっているので、当然保証の対象にはならず、全額負担は痛いところですが、当初の見積もりは2名派遣で18万円のところ、1名のみで済んだということで、修理費は126,500円。うちユニット代は63,000円で、技術料が47,500円(移動も加えるとほぼ丸1日とはいえ、高い人工費)となりました。これでスピーカの交換は遠のき、数年は使わざるを得なくなりました。


 その後の試聴結果ですが、当然のこととは言え、こんなに低音が豊かだったかと、改めて実感させられました。ところが、お気に入りのプレトニフのベートヴェンのピアノ協奏曲では低音がだぶつき気味で、むしろ1個鳴らない状態の方がバランスが良かった印象です。CDによる違いもあるとはいえ、このまま聞き続けるのは堪えがたく、再びスピーカを破損することを心配しつつも、イコラーザーを再調整せざるを得ないと思った次第です。(2020年6月)