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Academy-1

 チャリオというイタリアのスピーカメーカについては、その後あまり耳にすることもなく、市場から消えていましたが、最近、和光テク二カル(株)が輸入販売をしていることがわかりました。オーディオ雑誌ではイタリアといえばもっぱらソナース・ファベールばかりが話題になっているようですが、確かにハイエンドから普及品まで、製品の幅の広さでは圧倒的な差があります。残念ながら我が家のアカデミー1はすでに生産中止で、比較的近い物はConstellation Delphinusという2wayのスピーカですが、宣伝文句にも音質傾向がアカデミー1を彷彿とさせると書いてあります。こちらも無垢材とのことですが、写真で比較する限り、アカデミー1の方が作りが良いように見えます。


 最新の状況をチェックした結果、チャリオの取り扱い業者は、和光テクニカルからタイムロードに代わっていました。下記写真のConstellation Delphinusはまだ販売中で、Constellation MkUシリーズの一つとして、カタログに載っています。(2021年10月)


 さて、そのAcademy-1ですが、キャビネットが天然木の寄せ木つくりで、その効果も大きいのでしょう、つややかで聴き疲れのしない音がします。やや穏やか過ぎるきらいはありますが、日ごろ適度な音量で音楽を楽しむには最適のスピーカでしょう。そんなわけでたまにしか音出しはしませんが、ソニーのこれも古いCDプレーヤとプリメインアンプに接続してあります。ところが久々に電源を入れてチェックしたところ、片チャンネルのツイータが鳴っていません。よくある接触不良の問題と思われ、ユニットを外してみましたが、接続ははんだ付けで、導通もあり、ユニットの故障のようです。ちなみに購入年月は1992年11月ですから、ほぼ19年前。スピーカとしてはまだまだ使える年月です。

 接触不良や断線がないとすれば、ユニット自体の故障で、丸ごと交換するのが最も簡単かつ確実です。ソナース・ファベールと同様、チャリオもユニットは専門メーカから購入し、自社で組み立てる方式ですので、ユニットの製造メーカさえわかれば何とかなりそうです。ツイターのラベルには「SCANSPEAK SPECIAL VERSION FOR CHARIO LOUDSPEAKERS TYPE:CH290」とありました。これでスキャン・スピークのツイターであることはわかりましたが、OEMの特注品です。特注品とはいうものの、オリジナルとさほど違わないだろうと、さらにラベルを剥がしたところ、TYPE:D2905/9000, CODE 4057であることが判明しました。ここまでわかれば、あとはWebで探すのみです。

 SCANSPEAKのサイトはさすがスピーカの専門メーカだけあって、非常に充実しています。過去の製品もアーカイブにデータシートが保存されており、ダウンロードできます。D2905/9000は製造中止ですが、インピーダンスは4Ω、能率は90dBで、周波数特性から2KHzあたりでウーファとクロスしていることが予想できます。現行品で同じタイプのツイターはD2905/930000、950000、970000の3種類あり、いずれも6Ωです。周波数特性とインピーダンス曲線をにらんで、一番近いのは930000でしたので、これを発注しました。価格はWebで一番安かった取扱い店(\24,000/セット)に頼みましたが、納入まで一か月もかかりました。なによりもありがたいのは、端子の位置も含めて、外形寸法がまったく同じであることで、これですと入れ替えは簡単です。

 ということで、上記写真のツイターが届きましたが、梱包は実に簡易かつ十分なもので、何よりも全部段ボールというのが素晴らしい。早速交換となりますが、インピーダンス違うので、レベルが合わないことは十分予想されます。そこでまず壊れていない現行品の特性を測定し、これと比較することにしました。下記がそのサインスイープ結果です。測定ソフトはオーディルームで活用したMySpeakerで、ようやく本来の使い方をしたといったところです。なおスピーカとマイクの距離は約80cmで、ウーファ領域はかなり部屋の影響を受けています。

 早速ツイターを取り換えて測定したのが、下記です。オリジナルが4Ωです(実際はOEM製品なので不明)ので、ツイターのレベルがウーファに対して低いのではないかと予想されましたが、測定結果はまったく逆でした。サインスイープの波形は下記の通り乱れていますが、どうも20dBほど高いようです。同じメーカ、かつ特性が近似したツイターですので、取り換えただけでそのまま使えるのではないかという期待は見事に裏切られました。これでは使えないどころか、1KHz近辺で共振しているようで、ウーファを破壊しかねません。

 

 はてどうしたものかと思案した結果、思い出したのがMySpeakerのサイトにあったネットワーク設計プログラムです。幸い周波数特性はオリジナルと近似していますので、レベルの調整だけで行けそうです。そうなると、固定式アッテネータの算出式で適当な抵抗値を探るだけです。抵抗値の組み合わせはいく通りかありますが、コツは合成インピーダンスがユニットのインピーダンスとできるだけ近くすることです。 

 もっともこれは試行錯誤の結果学んだことで、最初は20dB下げるために直列抵抗のR1を大きくしました。下図は1回目のサインスイープ波形で、本来の特性が得られるようになりましたが、レベル調整をしない場合とは逆に、ツイターのレベルが下がってしまいました。最初ツイターが高いように見えたのは、どうやら正しい測定ができないほどバランスが崩れていたためのようです。ツイターのレベルがまだ10dBほど低いものの、抵抗値の調整で何とかなりそうとの見通しが得られたことは大きな収穫でした。

 この結果で、当初予想した20dBでは大きすぎることがわかりましたので、約半分の減衰量となる、固定アッテネータ算出式の2回目の数値(R1=3.9Ω、R2=3.3Ω)で試してみました。その結果、もうこれでよいかなと思われる特性になりました。しかし、ここまで来ると今度は欲が出て、最後にトライしたのが3回目の組み合わせです。下図はその結果で、ウーファとのつながりもオリジナルと遜色なく、高域はむしろこちらの方がフラットになっています。
 スピーカの設計をしたことがない者でもこれらのツールがあれば、なんとかなるというのは、まさにWeb時代の恩恵です。特にMySpeakerは改めて便利なツールであることを認識するとともに、オーディオを楽しむ上で必須のツールであることを実感しました。もう一つの重要な要因は、秋葉原にまだ電子部品を扱う店があることです。スピーカのネットワークに使う抵抗は耐電力の大きなセメント抵抗を使う必要があり、地方でもネットで入手できますが、通勤の帰りに数個づつ買ってこれるのは、まさに都心に通う者の特典といえるでしょう。上記の固定式アッテネータも3ケースしか書いてありませんが、各ケースともR2は3種類ほど抵抗値を変えて測定しています。計算はあくまで参考であり、最後は調整で決めるのはオーディオの常であり、また楽しみでもあります。

 下の写真はツイター交換前後の比較ですが、外観上はどちらがオリジナルかまったくわかりません。よく見ると、右側はごみが付着していますので白っぽくなっており、それで見分けられます。当初は左右ともに交換するつもりでしたが、ヒアリング上もまったく差を感じなかったので、そのままにしました。メインのスピーカではないので、あまり鳴らす機会がありませんが、こんな経験をすると、今後も大切に使おうという気にさせられます。(2011年9月)

Academy-1 その後

 802SDの故障で、再び登場したのがこのAcademy-1。修理したのが2011年ですから、丸9年間、ほとんど音も出さずにいたことになります。(いつ修理したかなど記録しておかないと忘れますが、その点このようなHPは、いわば日記のようなものですので、非常に便利です)
 これを802SDの前置いて、小型スピーカにとって最も理想的な状態、つまり奥行きを1.5mくらい確保した位置で鳴らすと、もうマジックと言いたくなるくらい、空間的な音の再現ができます。もちろん、解像度だとか、生々しさなど、比べようもないのですが、小型スピーカによる点音源に近い再生は大型スピーカでは得られない楽しみです。ところが、修理した時には感じられなかった、左右の差、つまり修理していない方と修理した方との差が気になり始めました。これも理想的な配置にしたゆえのことと推察しますが、周波数特性の違いが聞き取れ、左の修理していない方が華やかに聞こえます。違いが顕著になったもう一つの要因として、駆動側、つまりCDプレーヤからアンプの違いがあります。802SDに使っていた機器をそのまま接続していますので、通常はあり得ない組み合わせで、恐らくこちらの方が左右の違いが顕著になった大きな要因でしょう。ただし、DG-48はOFF、つまりバイパスしています。Academy-1は周波数特性からもわかるように高域がなだらかで、802SDで調整したイコラーザーですと、かえって逆効果で、つまらない音になってしまうのは何とも面白い現象です。
 ところが、ひとたび違いを感じてしまうと、それが気になるもので、ちょうど連休中で時間があるので、故障していない左側も新しいツィターに交換することにしました。どうせなら、もう少しツィターのレベルを上げたいと思い、R1を3Ωにしようと思うものの、もう一台修理するだけの抵抗がありません。早速秋葉原でというところですが、緊急事態宣言で当時さかんに言われていたのが、コロナウィルス対策として、密を避けるということ。しかも連休中で、秋葉原の部品街も閉まっている可能性があり、かなり割高ではあるものの、今回はネットで購入しました。交換前と後の比較が下記です。測定した時のスピーカとマイクの位置関係が違いますので、ウーファは変えてないのに低域の特性が違っています。

左側(ツィター交換前のオリジナル)

左側(ツイッター交換後)

 結果的には、3.3Ωも3Ωもあまり変わらない特性になりました。このままでも恐らく左右で聴感上の差はないと思いますが、ここまで来たら、やはり一度修理した右側も3Ωにしておこうと思い、交換後に測定したのが下記です。こちらはスピーカとマイクの相対関係は同じ条件ですので、低域もほぼ重なり、左右の特性はほとんど同じなのが分かります。

右側(3.3Ωから3Ωに変更)

 修理後、2週間ほどメインのSPとして楽しんでいましたが、802SDの修理まではこのままでも良いかと思う反面、前から気になっていた10年近く音出しをしていないアンプ(アキュフェーズE-406V)もあり、ダイニングルーム用のサブシステムとして使うことにしました。真ん中にテレビがあり、当然オーディオルームのようなスピーカーの奥に広大なステージが再現することはありませんが、テレビがあることで音楽番組を録画して楽しむという、ピュア・オーディオとはまた違う楽しみ方もでき、これもまたAcademy-1を生かすことになると思っています。
 ところで、このスピーカの測定に使ったMySpeakerですが、当然インスト―ルしたPCはすでに、数年前に購入したPanasonicに代替わりしており、再インストールが必要でした。製作者に連絡して、新しいパスワードを提供いただきました。当初の登録は2007年、その間2回の再インストールに対応いただいています。わずか5,000円の初期投資で、3台のPCの変遷を経て、13年も使えるのはありがたいことです。(2020年5月)