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SV-20 プリアンプ

 35年ぶりに復活したKT-88パワーアンプですが、一つのシステムでパワーアンプを切り替えるというのはだんだん面倒になり、というよりも、あえてA-60と代える必然性もなく、結局作ったものの、あまり火を入れないことになってしまいました。とはいえ、予備のKT-88まで購入したこともあり、これをサブシステムとして使うことを思案しておりました。 サブシステムを組むとなると、やはりこれに見合ったプリアンプが欲しくなります。プリアンプはパワーアンプと比べて信号レベルが低いので、ノイズを拾い易く、またパネル等の見かけの良さなども考慮して、キットから探すことにしました。候補としては、三栄電波のAllargando、サンバレーのSV-20D(現在、キットは販売していないようです)、サン・オーディオのSVC-200、および春日無線のKA-25RKなどです。Phonoイコライザーはいらないので、この中では春日無線のが外観もマニアックなイメージで良さそうでした。
 一方、サブシステムとなると、できるだけコンパクトで、PCも使えるようにしたいところです。昨今のPCオーディオの進化は目覚ましく、一時はUSB入力を備えた完成品も考えていました。しかし、KT-88と組むとなると、やはり真空管方式が望ましく、そうなるとサンバレーのSV-20Dが一番の候補となります。ただ、このUSB入力は仕様が不明で、はたして使い物になるか、不安があります。そこで見つけたのが、無線と実験の2011年8月号に出ていた、USB D/Aコンバータ内臓 真空管式コントロールアンプ。ただし、こちらもUSB DACはほぼ出来合いの基板なので、SV-20Dとあまり変わりません。しかも、フロントパネルに角穴を開けるという作業があり、これもきれいに仕上げるのも大変そうで、結局サンバレーのSV-20Dを作ってみることにしました。

 外観は上の写真のように、コンパクト、かつキット製品ならではの仕上がりの良さがあります。ただ、作ってみてわかったのは、キット製品というのは「作る」というよりも、「作らされている」という印象です。下記の内部写真からわかりますように、ほとんどがプリント板で組んであり、作るといっても基本的にはそれらの基板間の配線だけです。唯一自作らしいのは右側の中央にあるフラットアンプ部分で、ここはアルミの板上にラグ端子を並べ、部品を空間配線するようになっています。せめてあと一か所、電源部を空間配線にすれば、より自作の楽しみが増えるように思います。スペース確保のため、フラットアンプ部は組み立て後、シャーシに立てて実装されます。このあたりは全体をコンパクトにするためですが、フラットアンプ部の真空管6DJ8/6922も横向きの実装となり、組み立て後各部の電圧を測定することはできません。まあ、その必要性はほとんどないと思われますが。

 自作と違い、自由度は少ない一方で、プロの実装設計を知る良い機会であることは間違いなく、たとえばスイッチにより、リレーを駆動したり、ボリュームを基板構成にすることなど、使いやすさを追及した設計は大いに参考になります。ただ、セレクターがPhono/Line、およびUSB/Lineと二つあり、これは良いとしても、そのために各基板からスイッチまで長いシールド線を這わせることになります。とりあえず、配線図通りにはしてありますが、ここはスイッチをバイパスして、固定化してもまったく問題ないでしょう。特に我が家の場合にはPhonoは使わないので尚更です。
 説明書を見た限りではラインアンプに1日、基板間配線に2〜3日と予想しましたが、意外と時間がかかりました。急ぐ必要はなかったので、慎重にはんだ付け部分をルーペで確認しながら進めました。その成果もあり、電源を入れてもまったくトラブルはなく、正常に動作しました。音出しは、万一のことを考えて、B&W 802Dではなく、修理したAcademy-1を使いました。パワーアンプはKT-88で、スピーカに耳を近づけると、わずかにノイズが聞こえます。それも、左右でノイズレベルが違い、ツイターを交換した方がはるかに少なく、やはりもう一方のスピーカも交換すべきであったと思いました。これで安心して、メインのシステムに接続し、パワーアンプはA-60との組み合わせで試してみました。ところが、ノイズがとてつもなく大きくて、とても使えません。これはショックで、やはりプリアンプは容易ではないと、改めて思いました。

 早速、ノイズ原因の調査開始ですが、ノイズの出方がボリュームに依存しません。となるとラインアンプであることは間違いなく、疑わしいのはアースラインです。それと、マニュアルには出力ラインは出力インピーダンスが低いので、実用上シールドの必要はないと書いてありますが、これも疑わしい。もっとも、配線の時に信号ラインとアースラインとのスパイラルが十分でなかったという製作上の疑いもあります。ともあれ、考えられる対策は全部とることにしました。具体的には、ラインアンプを組んでいるアルミ板とシャーシとの導通、および出力ラインのシールド線への交換です。とくに出力ラインは、パワーアンプの入力側はシールド線を使っており、プリアンプ出力に使わないのはいかにもアンバランスです。

 KT-88パワーアンプの時の線材が残っていましたが、残念ながらシールド線は適当なものがなく、オヤイデ電気の1430-SYを購入しました。上の写真の黄色の矢印で示した線が出力線で、この部分を当該シールド線に交換しました。SV-20Dに添付されてくる線材はどう見てもオーディオ用という感じではありませんが、このシールド線は見るからに高性能を感じさせるものです。実はB電圧や、それとペアになるアースラインは、KT-88の時に購入した線材の残りを使っています。できれば信号ラインにも使いたかったのですが、やや硬いのと、線芯が太く、扱いにくいのであきらめました。ラインアンプのアルミ板とシャーシとの導通については、シャーシの表面のアルマイト処置を削り、導通をより確実にました。
 これで再度メインのシステムに接続し、音出しです。CDプレーヤはK-01、パワーアンプはA-60です。まずSV-20DとA-60の組み合わせではほとんどノイズは聞こえません。C-2800と比べても差がありません。ここでイコライザーDG-48をオンすると、さすがにノイズが出て、それも1m位離れても聞こえます。C-2800もDG-48を接続するとノイズが出ますが、ノイズのレベルに加えて質が違い、SV-20Dはうなっている感じです。このあたりはトランスの影響でしょうが、まあこのプリにDG-48を接続するユーザはまずいないでしょう。最後にK-01をオンしたところ、ノイズが盛大に出ました。実はSV-20Dの置き場所がないので、CDプレーヤの上に置いておりました。これがノイズの原因だったわけで、SV-20Dを手で持ち上げると、ノイズが激減します。結局、CDプレーヤがノイズの発生源であったことがわかり、ノイズ対策は必要なかったのですが、CDプレーヤの上に設置した場合でも、対策後は明らかにノイズレベルが低く、外来ノイズに対する影響が少なくなっていることが確認できました。

 試聴には左の写真のように、ありあわせの台を用意しました。これでもRCAケーブルがぎりぎりです。価格バランスは一桁違いますが、さてその音は如何に。
 結論から言えば、十分使えます。音だけの比較でしたら、ほとんど差はありません。あえて言えば低音の制動力が違う程度でしょう。しかし、当然ながらC-2800との差は決定的であることも事実で、SV-20Dはゆとりがなく、ややもすれば緊張感を強いられるのに対して、C-2800は大人の風格。まさに大衆車と高級車の違いです。たとえばピアノで言えば、片や鍵盤をたたいているのに対して、一方は響板が響いていると言えばよいでしょうか。その違いを気にしない、あるいは知らなければ十分満足できますが、一度その差を知ってしまうと、もう元には戻れないというところです。ただ、価格差は10倍以上ですから、その差は当然のことですし、そもそもSV-20Dはこのようなハイエンド機器と組み合わせで使うことを想定していませんから、あまり意味がない比較とも言えます。 念のため、DG-48を入れない状態でも比較してみました。結論は同じですが、音像の大きさがまるで違い、SV-20Dは肥大化し、音も迫力満点です。これはそれだけひずみが多いということですが、思い起こせば、ARTIKULAT 350の試聴時にプリアンプを代えましたが、この時に感じたこととまったく同じです。

 もう一つ、SV-20Dで気をつけるべきことは、リレーがオンしたときのノイズです。これはスピーカにはかなりのショックで、パワーアンプは必ずSV-20Dが立ち上がった後でオンにする必要があります。
 ともあれ、セカンドシステムとしては十分なクオリティであることは間違いなく、いよいよPCオーディオの準備完了です。(2013年4月)