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ついにC-3800

 2013年4月にスピーカを入れ替えた際、Vivid AudioのGIYA G3に惹かれつつも、プリアンプC-3800によるシステム全体としての性能アップも視野に入れて、B&D 802ダイアモンド(802SD)へのアップグレードを決意したことは、802SDのページに記載しました。そのC-3800ですが、GIYA G3と802SDとの差額を当てにしてすぐ購入するつもりが、早くも半年経過してしまいました。その理由は、802SDへのアップグレードで、もうこれで十分ではないかと思えるほどの音が得られ、それも単に音質が良くなったというより、システムとしてバランスがとれた、安心して聞いていられる音になったということにあります。この思いは日がたつほどに強くなり、もうこのままでも良いのではないかと思いつつも、結局10月になって、今を逃すともう二度と買えないのではないかという思いが強まり、ついにC-2800からC-3800へのアップグレードに踏み切りました。

 そのC-3800ですが、10/22に到着し、早速音出ししたところ、どうも冴えません。C-3800の試聴のページで書いた印象とはまるで違います。まず音量がやけに小さいことで、これはすぐに思い当ったのですが、C-2800を下取りに出す手順として、C-3800との差額のみ振り込めば済むように、C-3800の到着を待たずに販売店に送付しました。そのため、二晩ほどプリアンプがなかったので、K-01のアッテネータによって音量調整をしていたことを忘れていました。K-01のアナログ出力を固定にして、この問題は解決です。再度試聴して、確かに音は良く出るようになったものの、試聴時の印象とは大きく異なります。とにかく音が華やかで、前に飛び出し、どうも落ち着きません。あの緻密なC-3800が一体全体、どうしちゃったのかという感じです、ポピュラーな音楽にはこれでも良いのかもしれませんが、試聴時と明らかに違う音色に戸惑うばかりです。
 それで、気づいたのは、試聴時にはC-2800で使っていた電源ケーブルを使ったはずということ、つまり比較試聴が目的ですので、あえてC-3800に付属の電源ケーブルには代えていないはずです。そこで、早速、付属の電源ケーブルから、C-2800で使っていた、CAMEROT TECHNOLOGYのPM-800に交換しました。これでぐっと落ち着いた音になりましたが、どうも不明瞭な印象です。(この時点では電源ケーブルによる違いがあまりに大きいため、極性が違うのではないかと疑いましたが、一致していました。)

 この時に使ったCDはシノーポリ、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団による、ドボルザークのスタバト・マーテル。何せ、ドレスデン国立歌劇場でのライブ録音なので、ホールトーンがたっぷりとしていて明瞭度を欠くのは仕方ないのですが、コーラスを含むオーケストラのダイナミックレンジは大きく、再生の難しいCDであることはわかっていても、決して満足できる音ではありません。C-3800の実力はこんな程度ではないはずと思いつつも、現実に冴えない音なので、どうしようもありません。

 C-2800との明らかな違いは低音の出方で、これは試聴時の印象と一致していますが、とりあえずの処置として、右図のように、イコラーザーの1KHz以下をフラットにした状態に変更しました。数日この状態で聞き続けましたが、やはり視界が開けず、依然として靄がかかったような音です。とてもあのC-3800とは思えず、スピーカのサランネットを外したりしてみましたが、質感は変わりません。

C-2800時のイコライザー特性

C-3800時の仮設定

 ところが、約1週間経過した10/29になって突然目覚めました。エージングの必要性は特にハイエンド・オーディオ機器にはつきものですが、このC-3800はそれが顕著で、決して使いやすい機器ではありません。ただし、1週間といっても、私の場合には毎日せいぜい2時間くらいですから、試聴記によくある、一晩電源を入れっぱなしにしたら、翌朝目覚めたというのに匹敵します。その点では特殊ではなく、いわばこの種の高級機の常識を確認したといえるかもしれません。
 11月に入って音の出方はさらに変わり、当初感じた飛び出す印象は薄れ、逆に奥に引っ込むようになりました。念のため、C-3800付属のケーブルに代えてみましたが、音の出方は変わらず、明らかにケーブルによる違いではありません。ただ、奥に引っ込んだ分、広がりがなくなったのですが、音に落ち着きが出てきて、試聴時のイメージに近づきました。C-2800との比較はすでに試聴のページに記載しましたが、一番の特徴は音が柔らかくなったこと。オーディオで良く言われる、分解能が上がると柔らかくなるというのは事実のようで、802SDのページで取り上げた、ジェームズ・レヴァインのモーツアルトの交響曲第25番で、こんなにしなやかな弦は今まで聞いたことがありません。

 より自然な音になるという点で、誰が聞いてもすぐ違いがわかるのは、バレンボイムがバイロイト祝祭劇場で録音したワーグナーのリングです。これは1991年のバイロイト祝祭劇場でのライブですが、くぐもったオーケストラサウンドに、金属質なやや気に障る歌声で、一時は売却も考えました。そもそも、このバイロイト祝祭劇場というのは、生でもオーケストラの音が良く聞こえず、細部の表情豊かな演奏が無理な会場(許 光俊:音楽の誘惑)だそうですが、そのバイロイトのライブで最も音が良いと言われているのが、このバレンボイムのリングです。そのことだけで、ワーグナーの管弦楽を味わうにはいかにふさわしくない劇場であるかということが良くわかります。


 ついでに再生の難しいCDをもう一つ。ジェイムス・レヴァインによる、ベートーヴェンのミサソレムニスですが、これも再生の困難なCDで、下手な再生装置ですとただうるさいだけで、およそ楽しめません。そういう私も例外ではなく、めったに聞かず、長年CD棚に置いたままでした。そもそも再生以前に、曲そのものを理解するのが難しいのですが、演奏も困難を極めるものだそうで、特にクレドの終わりのフーガのポリフォニーをはっきり耳に入るように演奏するのは至難の業とのこと。(吉田秀和:之を楽しむに如かず)

 これらのオペラや合唱など、再生の難しい曲を改めて聞いてみようという気になったのは、まさにC-3800のおかげですが、802ダイアモンドにアップグレードしたことによる相乗効果も大きいと思います。実は、一週間ほどさえない音に心穏やかでなかった頃は、C-2800の方が全体としてのバランスが良く、はたしてC-3800を入れた意味があるのだろうかと思っていました。C-3800の特徴である、前に飛び出す元気の良い音を生かすには、A-60よりも、アキュフェーズ40周年記念のA-200と組み合わせないと、真価が発揮できないのではないかとも考えました。C-2800との直接比較ができない現在、その問いへの明快な解を得ることはできませんが、少なくとも解像度が上がり、より細やかな音が出るようになったことで、より広範囲のソースへの対応力が向上したことは間違いありません。

 最後にC-3800への変更に伴うイコライザーの調整ですが、DG-48によるリスニングポイントの特性測定ではプリアンプは通りませんので、ボイシング結果はC-3800に代えても変わらないはずです。しかし、実際には多少の違いがでます。これは部屋の家具の配置、リスニングポジションに置くマイクの位置が、わずかに変わるのが原因と思われます。一方、イコライザーはプリアンプの特性がそのまま出ますので、先に記載した通り、低域をフラットにした状態で聞いていました。約2か月経過した現在は、C-2800の時とフラットな状態の中間(下記の右図)で聞いています。これまでに聞いたCDについては、ほぼこれで満足できる状態となっており、これはパワーアンプに対する制動力の違いが、特に低域で出やすい(音の違いがわかりやすい)ためだと思われます。

C-2800時のイコライザー特性

C-3800のイコラーザー特性


 12月になって、音が落ち着いてきたところで、当初のケーブルによる音の違いを再確認すべく、オリジナルケーブルに戻してみました。当初感じた音が飛び出す感じはなく、ほとんど差を感じません。あえて言えば、音像が大きくなり、広がりはでるものの、やや図太く、大味な感じになります。再度、CAMEROTに戻すと、音が緻密で、低音域の音階が聴き取りやすく、かつ空間的分解能が高いと言えます。CDプレーヤ、X-01 D2で使ったORBの電源ケーブルも試してみたいところですが、導入後、2か月経過した現在、CAMEROTでC-3800試聴時に購入を決意した、あの緻密な音が聞こえるようになったため、当面はこの状態でいろんなCDを聴き込んでいくつもりです。(2013年 年末)