本文へスキップ

A-80 パワーアンプ

 A-80については、2023年末に発売されたものの眼中にはなく、CDプレーヤ K-01 XDのクロックを優先するつもりでした。ところが販売店の情報で、アキュフェーズは値引きをしない方針となったものの、2023年内ならば下取り価格アップでその分を相殺します、というセールストークに乗せられて、衝動買いしてしまいました。自宅に届いたのは2023年12月12日。納入からすでに7ヶ月以上経過した2024年8月になって、ようやくレポートを書くという次第です。その理由は、A-60からA-70に換装した時ほど大きな差は感じなかったということです。もちろん、当時のメモを見れば、音像の明確化や、低音域が尾を引かなくなったこと、更に演奏の実在感が増すなどの変化について書いています。ただ、当時はC-3900で顕著だった、高性能化よりも音楽的というか、演奏会の雰囲気がより伝わってくるような違いではなく、従来の高性能化の方向性をより強く感じたことで、期待したものと若干ずれがあったというのが本音です。
 使い始めて半年以上経過して、そろそろ書いておかねばと思うと同時に、CDと並んで、我が家でもう一つのソースとなっている、テレビの音が随分と改善されたという印象が強くなりました。CDと違って、テレビを録画しないと得られないソースであり、ハイレゾがメジャーになりつつある時代に、ローレゾの音源で比較をしても、あまり意味がないかもしれません。一方で、テレビという、必ずしもオーディオ向きではないソースでも、パワーアンプを代えたことで楽しめるようになったということは、A-80の能力の一面を表しているとも言えるのではないでしょうか。

 そのテレビの音の違いに最初に気づいたのは、2023年11月にキリル・ペトレンコ率いるベルリン・フィルのサントリー・ホールでの来日公演です。テレビ放映されたのは2024年1月14日で、曲目はモーツアルトの交響曲第29番、ベルクの管弦楽のための3つの小品、およびブラームスの交響曲第4番。最初のモーツアルトで感じたのは、全ての音が聞こえるような解像度と音の抜けの良さです。ところが、ブラームスの第4番のように、多くの楽器が重なる交響曲では分離が悪く、音像も遠くで演奏しているようなもどかしさがあって期待外れ。やはりぶっつけ本番の録音ゆえのバラツキか、ということで、2024年3月に放映されたファビオ・ルイージ指揮によるN響と、アリス・紗良・オットのピアノによる、リストのピアノ協奏曲 第1番を聞いてみました。先のブラームスとは違い、空間的広がりも十分で、低音の充実感や歯切れの良さがあります。空間に広がるピアノの音も美しく、オーボエやヴァイオリンのソロがピアノと対話する様子など、思わず引き込まれます。録音による違いはあれど、テレビの音がここまで楽しめるようになったのは、A-80による効果と確信した次第です。

 A-80のレポートに、テレビの音の違いを取り上げたのは、オーディオ製品の評価という点では、必ずしも最適とは言えないと思います。一方で、テレビの音でも違いがよく分かるというのは、古い録音でもそれなりに聞かせるという、A-80の特徴を良く現わしているのではないでしょうか。こういった団子状になり易い音源で真価を発揮するというのは、本物の証であり、冒頭述べたC-3900ほどの違いはないにしても、A-80も音楽性重視の方向性も備えている、ということを実証していると思います。

 A-80のレポートをテレビの音だけで済ますのは、オーディオマニアとしてはいかがなものかということで、ジェフェリー・テイト&イギリス室内管弦楽団と内田光子によるモーツアルトのピアノ協奏曲第20番を聞いてみました。もう50年ほど前の録音ですが、テレビの音とは比較にならないほど良いものの、特に低域の解像度が良いとは言えず、これをすっきりと再生するのは難しいCDです。A-80では一聴、弦の分解能が上がっているのが聞き取れ、ピアノの音が空間に対して、くっきりと描かれます。この辺りはC-3900との相乗効果もあるのでしょうが、明らかに向上しています。もやもやとしていたものが、霧が晴れたような音という感じです。音が軽く感じるのは、低音が被っていたからではないかと思われ、低音が尾を引かないのは、制動力が向上しているためでしょう。何よりも音が柔らかいのと静かなのが特徴で、つい音量をあげたくなります。

 A-80を購入したのは2023年の12月ですが、当初はA-70で使っていたPC-Tripple-Cを使った自作の電源ケーブルをそのまま流用していました。しかし弦のCD、たとえばヴィクトリア・ムローヴァのバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ、あるいはアルバン・ベルクのシューベルトでは、ヴァイオリンの音がきつく感じられました。丸9年経過したA-70に対して、A-80はまだこなれていないのは当然で、電源ケーブルをキャメロット・テクノロジーのPM-800(但し電源プラグはオヤイデ製に変更)に戻して、だいぶ滑らかになりました。PC-Tripple-Cは明らかに高性能なのですが、高性能な素材にありがちな鋭さも兼ね備えていて、ある程度バーンインが進んだところで使わないと、その良さが発揮できないようです。

 そのことを確信したのが、PC-Tripple-Cによる電源ケーブルをCDプレーヤに使ってみた場合です。これは先にリンクを張った電源ケーブルのページに書いたことですが、PC-Tripple-Cの電源ケーブルの使い道を探るべく、CDプレーヤに使ってみた結果、クールな音が気になって、結局ORBのBrave Force Core-3に戻しています。この電源ケーブルによる違いを試したのは2021年4月で、K-01 XDを使い始めて9ヶ月目です。CDプレーヤの場合、メカ部分もありますので、エレクトロニクスだけのアンプよりバーンインに時間がかかると思われますが、この時点ではそういう状態でした。
 ところが、最近になって弦楽四重奏曲のCDを良く聴く機会が増えた結果、当初は良い結果が得られなかったPC-Tripple-Cを、再び使うことになりました。そのいきさつについては、このページと同時進行している「CD再探訪ー室内楽曲」のページに書きましたが、アルバン・ベルク四重奏団による、ハイドンの弦楽四重奏作品76のNo.2〜4で、音がきつくなるのは帯域バランスの問題(高域の張り出し)ではなく、音が固く、伸びがないのが原因と気づきました。その対策として、CDプレーヤの電源ケーブルを、よりワイドレンジ感のあるPC-Tripple-Cに代えることで、圧迫感が軽減できることを経験した次第です。結論として、エソテリックのK-01XDは、本来持っているワイドレンジな特性を生かすことにより、音が柔らかくなるということを知ったのですが、K-01 XDも導入後4年経過して、十分こなれてきているのも効いていると思います。
 A-70での経験から、A-80もいずれPC-Tripple-Cの電源ケーブルを使う方が良い結果になるのではないかと思いますが、これについてはA-80のバーンインもさることながら、プリアンプやDG-68との組み合わせもあり、今後タイミングをみて調査の予定です。(2024年8月)