つい数か月前にケーブルでテクノロジーの進化を体験したと書いたばかりですが、それをまたパワーアンプで、より強く実感することになりました。拙宅のオーディオシステムも思い返せば、随分と最新機種への更新を繰り返してきましたが、最後まで残ったのがパワーアンプでした。交換前のA-60は2005年に購入してますから、すでに10年。アキュフェーズの新製品のサイクルはおおよそ4年ですから、すでにA-65へのバージョンアップを経て、二世代後の製品となります。A-65の時はマイナーな変更でしたので様子見でしたが、今回のA-70はアキュフェーズが40周年を記念して開発したA-200の、いわばステレオタイプに相当するもので、ステレオサウンドの評価を読んでもここは交換すべきと思い、今回の購入となったものです。
とはいうものの、年金暮らしの身には大きな出費であることは間違いなく、プリアンプに比べれば差は少ないというテレオンの助言もあり(これはあとで的外れであることがわかりましたが)、まずは試聴してみることにしました。試聴の結果は導入後の感想とダブるので省略しますが、もう一聴で交換を決意するほど、大きな差がありました。
ただ、パワーアンプの自宅試聴というのはやるものではないという教訓にもなりました。というのも、搬入時はテレオンの社員が運んできたのですが、いざ返送という段になって、どこの宅配業者からも断られました。確かに梱包時の重量は54Kgもあり、一人では無理です、車まで一緒に運びますと言っても会社の規定でできませんとのこと。考えてみれば集配はできても積んだ後の載せ替えもあり、作業者の労働環境の観点でも当然のことです。行き詰ってテレオンに相談したところ、たまたまアキュフェーズの人が出張修理ですぐ近くまで来ていることがわかり、結局、アキュフェーズの車で運んでもらいました。おかげで、試聴用のCDまで頂戴しましたが、もうパワーアンプのアップグレードは打ち止めという気になりましたので、結果的には良かったのかもしれません。
その重量物であるA-70、通常はラックの下に置く方が安定して好ましいのですが、上の写真のように、プリアンプを下にし、上段に載せています。この理由は全体の高さが抑えられるためで、当初は重量バランスに加えて、操作性上もプリアンプが上の方が便利で、そのようにしていました。しかし、プリンアンプの操作は電源投入以外はすべてリモコンでできますし、パワーアンプの熱処理上もこの方がベターです。さらに、一段目を隣のラックと同じ高さにできますので、将来、一体型のラックを購入して、よりコンパクトにすることも可能です。
さて、そのA-70ですが、A-60とはもう全然別の製品でした。まず気づくのはスピーカの制動力の違いで、団子状態だった音がほぐれて、楽器の集合として聞こえてきます。これはアキュフェーズの宣伝文句である、ゲイン配置の見直しと、ダンピングファクターの違いによるものなのでしょう。その結果、切れの良い、音階のわかる低音は当然のこととして、空間的な意味での透明感、いわゆるS/Nの良さが飛躍的に向上しています。その違いはリスナーに対する圧迫感の違いとして現れ、同じ音量感を得るのに、A-60の時に比べ、ボリュームを1.5dB〜2dBアップすることになりました。思い起こせば、プリアンプをC-3800に交換した時に、試聴時に印象的だった緻密さがあまり感じられず、いささかあせった記憶がありますが、そのC-3800がA-70によってようやく本領を発揮できたということかもしれません。それは冒頭書いたTripple-Cのケーブルも同じで、その透明感がより発揮できているということでしょう。まさに組み合わせの妙味です。
まずはスピーカに対する駆動力、特に低音の出方の違いですが、このCDはあるオーディオ雑誌に優秀録音として推薦されていたものです。通常、優秀録音ということで購入することはまずないのですが、このCDはカレリア組曲、森の精、そして有名なトゥオネラの白鳥などの管弦楽曲集で、よくある交響曲集におまけで収録されたものとは異なります。しかもシベリウスでは定評のあるヴァンスカ&ラハティ交響楽団ということで購入したものの、2曲目の「森の精」の低音がダブついて、その後お蔵入りになっていたものです。
そのもやもやした低音がA-70を得て、はっきりとグランカッサによるものとわかり、それも他の音をマスクすることなく、聞こえてきます。ということで、パワーアンプによる変わりざまに感動しつつ、改めてこのCDを聞き直したのですが、北欧のオケらしく素朴な味わいと都会的なクールさが印象的です。ただ、派手なところは皆無なだけに、やや暗い印象があるのも事実で、トゥオラネラの白鳥など、ともかく重苦しい音楽。
ともあれ、ここにきて優秀録音として推薦されていた理由が初めて納得できるとともに、低音の再生能力のチェックに最適なCDであると認識した次第です。それにしてもこの違いが大きすぎると思って聞いていたのですが、実はパワーアンプの違い以外に、ANKHの存在がありました。今となってはANKHの有無の違いを検証することはできませんし、その必要性もないのですが、この違い、ANKHの効果が出ていることは間違いありません。そういえば、試聴位置での透明感の差にも貢献しているはずで、冒頭記述したC-3800とTripple-Cケーブルに加えて、このANKHの効果も相当にあるはずです。今さらながら、良い音を得ることは個々の改善作業の積み重ねであるということを再認識することになりました。
このA-70に交換したのは2月の初めですから、すでに3ヶ月。DG-48もヴォイシングと呼ばれる、定在波の影響を補正する作業もやり直し、エージングも十分に進んだ結果、当初より音が軽くなったように感じます。言い換えれば、より透明感が出てきたとも云え、ANKH導入の頃から目指してきた自然な音場形成が、より深く、緻密になったと言えるでしょう。そうなれば音そのものよりも、音楽の方に目が向くのは当然で、オーディオ的な細かいことに気を遣わなくても済むという、最終目的に近づいたとも言えます。
このHPでもよく登場するハイティンク&コンセルトヘボーのベートーヴェン。左のスピーカにまとわりつく現象が気になるという報告をしました。実はこの記事がすぐに思い出せなくて、リンクを張るのに過去のHPを探したのですが、2006年の記事ですから、もう9年も前のことです。SACDもあの頃はさほど出回ってなかったなと思いつつ聞いてみましたが、その気になる現象が解消されるということはありません。ただし、以前ほど気にならなくなったのは確かで、まとわりつくのではなく、スピーカの前に音像ができます。それだけ音離れが良くなっているということですが、このCDの場合、両スピーカの間に音像がフォーカスせず、中抜けとまでは行かずとも、両スピーカに寄っていることは事実です。ただ、改めて聞いてみると、そういう事象よりも、低音の歯切れがよくなったことで、音が弾んで、いきいきした感じがすることに気づきます。一口でいえば、重々しかった演奏が抜けの良い爽やかなものになった印象で、これはこのハイティンクに限らず、他のCDにも共通した変化です。やはりスピーカに対するドライブ力というのは、音楽の再生における大きな要素です。
こうしてあげていくときりがありませんが、最後に、これも過去に記載したCD、ハイドンのネームシンフォニー集について一言。こちらもバランスはすでにイコラーザーで調整済みということもあり、ハイ寄りのバランスはA-70でもあまり変化がありません。ただ、低音楽器群、特に弦楽器が良く弾むようになったので、全体としてのバランスがずっと良くなりました。その結果、ハイティンク同様、スピーカにまとわりつく現象も気にならなくなっています。これも他のCDでも共通の事象ですが、スピーカのドライブ力が増したことで、音が移動しなくなったことも大きな変化で、それも、細部が気にならなくなった要因と思います。オーディオシステムにおいて、全体のバランスが取れているというのは一つの理想形ではありますが、オーディオマニアたるもの、現状で満足ということはなく、いずれはあえてバランスを崩すことによって、更なる改善に目を向けることになる予感がします。(2015年5月連休)