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C-3800試聴

 エソテリックの新型SACDプレーヤ K-01の試聴に続いて、アキュフェーズが創立40周年を記念して発売したプリアンプ、C-3800を聞いてみました。こちらはK-01より少し前の2010年5月発売で、そのためかさほど待つこともなく、自宅に届きました。セッティングして、まず音量調整のためリモコンでボリュームを操作したところ、ガサガサいう音が大きいのにびっくりしました。AAVA (Accuphase Analog Varigain Amplifier)を2回路搭載しているためと思われますが、現用のC-2800に比べて明らかに大きな音です。ボリュームは最初だけで、途中で頻繁に変えるものではないので、これでもよいのかもしれませんが、C-2810でほとんど気にならないレベルになったと聞いているだけに意外でした。おそらく次のC-3810では改善されるのでしょう。

 さて、その音ですが、まず気づくのは背景がとても静かで、音像の存在感が一段と増すことです。ただしK-01のような音楽の表情が変わるような変化、つまり音色の滑らかさとか演奏会場の雰囲気を出すのではなく、音そのものの存在感が増すという印象です。K-01の時と同様、クレーメルとアルゲリッチのベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第7番から聞き始めましたが、C-3800ではヴァイオリンを強く弾いた時の音が和らぐということはありません。ただし、ダイナミックレンジが大きくなっているのはよく感じられ、それもFFではなく、PP側が拡大しているのがわかります。強奏時も空間的広がりが大きく感じられるので、刺激的にはなりません。これはS/Nが大きく改善されたことによるものでしょう。

 二枚目はこれもK-01の時と同様、アーノンクールのハイドン・パリ交響曲集の中の第85番。こちらは一段とスケールが大きくなり、いかにも高性能という音ですが、チャンバー・オーケストラがフルオーケストラになったかのような印象もあります。そして音色の多彩さ。これはもともとこのCDの特徴なのですが、K-01のように楽しく聞かせる方向ではなく、より音の精度が高く、正確かつ緻密な音というのがこのプリアンプの性格をよく表した表現ではないかと思います。そういう意味では、もともとアキュフェーズが持っていた特質を、その延長上でさらに高めた音といえるでしょう。これは想像ですが、C-2800に戻したら、すごくルーズな音に感じるのではないかと思います。
 K-01との共通点はいろんな楽器の音色がよく聞き取れることで、特に管楽器が浮き立ってきます。このC-3800をK-01と組み合わせたらいったいどんな音になるのか、良いところが相乗効果になるのか、はたまた良さをぐっと締めてしまうのか、興味がつきないところです。それにしても、弦の滑らかさは特筆もので、聞けば聞くほど、音の密度の高さが際立ってきます。
 続いて、ハイドンの第48番ですが、全体的な印象はあまり変わらないものの、はやり弦の音がきめが細かくなっているのがわかります。高域の切れ込みの鋭さはX-01 D2の特徴ですが、C-3800はそれを和らげることはなく、ソースの特徴をありのまま示すようです。ただし、音圧が上がっても鋭くはならないのはさすがです。

 最後は声楽で、これもK-01の時はさほど変化がないと思われた、ナタリー・ドーセのバッハ・アリア集。これは透明度が増して、クールになる予感がしましたが、予想に反して声の柔らかさというか、人肌の暖かさを感じさせる方向になりました。当初感じた厳格な音という印象は変わりませんが、決してモニター調になることはなく、肌触りの良さや優しさも感じられる音です。通電することによる温度変化の影響もあるかもしれませんが、聞きこむにつれて、抑揚感や音楽の表情がよく出るように感じられました。
 とはいうものの、全体的な印象はやはりアキュフェーズらしい、明快で緻密な音という、今まで方向性を変えるものではありません。しかしこの音を聞いてしまうと、ちょっとC-2800には戻れない感じで、自分自身の目指している音がどういうものかを改めて知る機会になったのと、オーディオというのは、機器の進歩においても、まさに際限のない世界であることを実感した次第です。


 最後に、C-2800に戻したときの感想ですが、すごく緩い音に感じるのではないかと予想していましたが、一番差を感じたのは低音の締りでした。低音の締りのなさのせいか、ゆったりした音で、これがアキュフェーズかと思うような音です。低音の締りがないのはDG-48のためと思っていましたが、実はプリアンプに原因があったということで、まるでパワーアンプのようにスピーカの制動力にまで影響するとは、思いもよりませんでした。価格も従来のプリアンプからとび抜けていますが、音もそれに見合ったもの、いやそれ以上で、仮に価格は2倍の250万円といわれても納得できるだけの差があります。(2011年4月)