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オーディオ専用電源工事

 「当初の電源環境」のページで記載した通り、改築時に家庭用のブレーカからオーディオ用に専用線を引く工事は行ったものの、肝心のデジタル機器は家庭用配線を使っていましたので、オーディオ用の電源を完全に独立させることは、いずれやってみたいと思っていました。オーディオ雑誌の記事などによれば、効果は間違いなくあると思うものの、専用の配電盤を準備するだけで30万円もかかり、実行に移すのはずいぶんと時間がたってからとなりました。
 そもそも、このHPの改定そのものが、2017年6月の新国立劇場のジークフリート以来、丸1年ぶりという情けない状態で、電源工事のことはもとより、オーディオや音楽会とも縁の遠い状態でした。その要因は、昨年はやたらと出張の多い年で、延べ3か月くらいは自宅にいなかったので、演奏会のチケットも買えなかったという環境だったことにあります。今年になって、ようやく普段の生活に戻ったものの、いまだに演奏会には行けず、と言うよりも1年もブランクがあったことで、すっかり億劫になってしまいました。同じことがこのHPの改定についても言え、電源工事からすでに2か月以上たった今頃になって、ようやくその顛末を書こうとしている次第です。

 さて、その電源工事ですが、工事先はここしか考えられないという出水電器。実は昨年、島元さんに電話して、下見に来られたのですが、その後連絡なく、こちらも不在が多かったこもあり、今年になって再度連絡して見積もりを依頼し、1年越しで工事にこぎついたという次第です。電源工事については、見積もり段階からいくつか疑問がありました。下見の時から、オーディオ専用分電盤は、オーディオルームの反対側の押し入れに設置することにしましたが、そうなると、メーターから最短距離で、分電盤まで配線した方がロスが少なくて良いという方針でした。その点は同意なのですが、アンペアブレーカが既存分電盤の中にあり、そこを経由しないといけないのではないかというのが、最初の疑問です。これは、最近のメーターは契約アンペアの設定もできることを知り、メータの直後で分岐できることに納得しました。ただ、メーターから新規分電盤への最短での配線は実際には困難であることがわかり、外部からアクセスがし易い、パイプダクトを通して、屋内に取り込むことになりました。それを示したのが、下記配線系統図です。

 したがって、結果的には既存のブレーカと同じ場所を経由して、オーディオ用の分電盤まで配線することになりました。この工事は大変で、何しろ太くて重いケーブルですから、内側から引っ張る人と、外側から押しこむ人と、2人がかりで声を合わせてやらないと動きません。さらに大変だったのは天井裏から新規分電盤までの引きこみ。石膏ボードの中を通らせるのが望ましいのですが、固定用の枠があって通らず、それらを避ける形で、天井裏から一旦押し入れの中を通し、押し入れの途中から石膏ボードの中に入れ込むことになりました。本来は石膏ボードを張る前でないとできない工事ですが、幸い押し入れの中なので、太いケーブルがあってもあまり気にならず、ここに分電盤を設置したのは正解でした。実は押し入れにオーディオ用の分電盤を置くことにしたのは、メーター二次側の配線の都合ではなく、コンセントとの距離を極力短くしたかったためです。というのも、オーディオ用屋内配線材はメータ単価で1万円近いものとなり、この距離が長いとべらぼうな費用がかかるためです。分電盤との距離が近いといっても、ケーブルも太くて固いので扱いにくく、加えてコンセントが8個もあるため、配回しのための余裕も必要で、結局は合計7mくらい要しました。
 出水電器さんは後からの工事に慣れていますので、何とかやってくれますが、それしか方法がないとしても事前に説明がほしいところです。もちろん要所要所では確認を求められますが、押し入れ内の配線など、仕方ないとわかっていても、むき出しのケーブルは何とかならなかったのだろうかという気になったのも事実。もっとも、島元さんもケーブルがむき出しなのは気になったらしく、後日、下の写真のようなケーブルカバーを付けてくれたので、押し入れの中とはいえ、だいぶすっきりはしました。

 下の写真はメータの二次側幹線をオーディオ用と生活用に分けるための接続ボックスです。既存の分電盤にあったアンペアブレーカは取り外し、一次的にこのボックス内に移動しました。その理由は、このブレーカは電力会社のもので、電気工事屋が勝手に外すわけにいかないためです。取り外すにあたって島元さんから言われたのは、電力会社はこのアンペアブレーカの代わりに直結のボックスを持って来るから、それを使わずに、ケーブル同士を直結してもらうということ。つまり少しでも音質の劣化を招くようなものは排除すべきということです。電力会社が1週間後に来たので、それを伝えたところ、直結配線は電気工事屋でないとできないという返事。そんなことなら最初からやっておいた方がはるかに効率的と思いましたが、そこは工事屋さんも東電の了解なしにはできないということのようです。幸い島元さんもケーブルカバーの取り付けに来ないといけないと思っていたところで、後日 ケーブル同士を直結してもらい、取り外したアンペアブレーカは電力会社に引き取ってもらいました。結局、この作業に一か月くらいかかってしまいました。

 時間を要したもう一つの要因は、例の電力販売の自由化で、契約先を東京電力から東京ガスに切り替えたことです。東京電力との間に東京ガスが入るので、ますます話が通じにくくなり、こんなことなら、電気工事後に切り替えればよかったと思いました。
 ボックス内の配線は写真ではわかりにくいのですが、メータから来る右側のケーブルと二次側間には先に記載したアンペアブレーカが入っていたので、その間を短いケーブルで直結してあります。ブレーカがなければこの部分の圧着端子も一か所で済むところですが、後工事となったがゆえに仕方ないところです。その後オーディオ用と生活用のケーブルに分岐されますが、ボックスから下に行っている黒いのがオーディオ用、生活用のケーブルは、右側面から出て上部に行っている白く塗装された、もともとあったケーブルです。

 アースについては、10オーム以下が望ましいということでしたが、1.5mのアース棒を10本打ち込んだ時点で16オーム。この測定は立ち会ってほしいとのことで、メータで確認しました。この際20本にした方が良いかとも思いましたが、当日は生憎10本しか持ち合わせていないとのことで、そのままとしました。下はアースラインの引き込みで、これも押し入れが外壁に面しているという利点を生かして、言わなければほとんどわからず、また室内の配線も見えません。

 以前、改築した時もそうでしたが、電源工事の難点は比較ができないこと。アースもその例で、10オームと16オームの差を聞いてから決めるわけにいきません。従って、良いと思われることを全部やるしかなく、どうしても高価になりがちです。たまたま当日はアース棒の持ち合わせが10本しかなく、そのままとなりました。おそらく聴感上の差はほとんどないとは思いますが、アースに関しては後で追加することもできます。高価といえば、分電盤からコンセントまでの配線も同様で、近いがゆえにアコリバの屋内配線材EE/F2.6 Tripleを使いましたが、これも比較試聴ができるわけもなく、距離が近いから逆に普通の屋内配線材でも良いのかもしれません。電源工事でこだわったのは専用の分電盤とコンセント間の配線材くらいですが、結果的に高級パワーアンプが買えるくらいの費用になってしまいました。


 そんな事情で、まずはアンペアブレーカが入った状態で聞き始めたのですが、一聴して透明感が増し、低音がすっきりして音階がわかるようになったのがわかりました。まさに理論通りの変化で、電源ノイズが減ったことで、出てくる音のS/Nが良くなる、つまり透明度が増したという次第です。この違いはすべてのCDに共通ですが、一番わかりやすいのがグールドのモーツアルトピアノソナタ全集です。実はこのSACD、いずれこのHPで記載するつもりが、そのままになっていたという、いわくつきの代物です。

つまり、以前聞いた時ほど面白いと思わなくなったということなのですが、その理由の一つが、SACDということで期待していた音が、なんだかガサガサと騒がしく、通常のレベルでは聞くに耐えない音だったからです。それが電源工事後はなんともすっきりした、まとわりついていた夾雑物が取り払われたような音に変わりました。それで、ようやくレポートが書けるかというと、これまた今年に夏の暑さは尋常ではなく、とてもじっくりと音楽を楽しめるような状態ではありません。とはいっても、これだけの変化を知ると、暑さにめげず、いろいろ聞いてみようと思うのも当然です。

 電源工事については、もう一つ残っていた工事があります。それは電柱からの引き込み線の張替です。この工事も東電に委託しないとできない工事ですが、申請は島元さんがやってくれました。ところが、これまた東京ガス経由ということで、張り替え工事ができたのは、電源工事が終わってから2か月たった7月。これで、ようやくすべての工事が終わったのですが、段階的に聞いていたとは言え、音の変化はそれぞれ聞き分けられるということはなく、むしろ時間の経過とともに大きく変わってきました。もちろん最初の透明感や低音域の明瞭さは続いていますが、それよりも今度は音が前に飛び出し、言い換えれば音離れがよくなり、それと比例して音響空間が広大になりました。この変化こそ、電源工事のだいご味と思いますが、振り返ってみれば、オーディオルームの響きを音に包まれるような感じを目指して、音響パネルなどもいろいろトライしてきましたが、音場の拡大に電源工事が一番効いたというのは、なんとも皮肉な結末でした。もちろん、コーナーに置いたANKHとの相乗効果もあるのは間違いないでしょうが、オーディオ雑誌を通じて、電源の重要性は聞いていても、こればかりは実際にやってみないとわかりません。

 これもすでにこのHPに登場したCDですが、クリスマス・カンタータ110番 「私たちの口が笑いで」。冒頭はよく知られた管弦楽組曲 第4番ですが、まずティンパニーの音がキレがよくなりました。そして、音場の広さ。合唱など、両スピーカの間のやや奥に定位し、かつ間接音が両スピーカの幅いっぱいに広がります。奥行きも以前より深くなっているのかもしれませんが、音離れが良くなったため、スピーカ前面への広がりの方ををより感じます。
 その点に関してはこのCDに限らず、低域に重心があるゲバントハウス管弦楽団のCDでも顕著な変化が見られます。以前はややもすれば重苦しい、ドロドロした低域がすっきりとして、オーケストラのバランスが良くなり、あたかも全体が見通せるような軽快な響きになりました。実は試聴の過程で、低域がクリアになったので、イコライザーの調整もやらねばと思っていたのですが、現在のバランスですと、それも不要ではないかと思い始めています。


 すべての機器のアースが取れることになったので、グラウンド・ループになるのではないかと気にしつつも、全機器の電源のグランドを接続することにしました。その過程で困ったのは、機器とコンセントの距離が近づいたことで、2mもある電源ケーブルの処置です。今はラックの下にとぐろを巻いていますが、いずれコンセントを分解してみて、ネジ止めならばケーブルを短く切り詰めることをやってみようと思っています。

[追伸] この2年以上後になって、ようやく電源ケーブルを短くする作業を実施しました。メーカ製のケーブルを加工するのはいささかためらいもありましたが、結果的には電源プラグとIECコネクタも最新のものに交換することになりました。その経緯は電源ケーブル改修にまとめましたので、参照ください。(2021年3月)


 それはさておき、CDプレーヤに付属のエソテリックの電源ケーブルにはアース端子がありません。つまり、3PのIECコネクタのグランドは浮いていることになります。島元さんはメーカに確かめたそうですが、やはりグランドは浮いているとのこと。そうなると、アース接続の有無はあまり意味がないのですが、ケーブル自体の違いもあるので、これまで使ってきたCDプレーヤ付属の電源ケーブル、アキュフェーズのA-70付属の電源ケーブル、そして比較試聴の結果、お蔵入りとなったORBの電源ケーブルを比較してみました。まず、K-01とA-70の付属ケーブルですが、確かにエソテリックの方が解像度が高いのですが、高域を強める傾向にあります。とはいえ、アキュフェーズもハーモニーという点では遜色なく、滑らかな感触が得られます。そこで、かつては甘いと思われたORBですが、この3本のなかではあきらかに抜きんでていて、立体感がとても良くでます。
 電源工事によりケーブルの評価にも違いがでるというのは興味深いところですが、このケーブルにすると、装置全体のクオリティがあがったように聞こえるというのは以前にはなかったことで、電源工事のおかげで、本来の性能が発揮されるようになったということでしょう。これでORBの良さを再認識し、短いケーブルでないと処置が困難という問題もあって、最新のBrave Force Core-3を購入してしまいましたが、明らかに装置全体のクオリティがアップしました。(2018年8月)