本文へスキップ

電源ケーブル改修

 エソテリックのK-01XDを使い始めてすでに8か月近くなりました。SACDの回転音が依然として気になるのと、リモコンの効きが少し悪いことを除けば、当初の圧迫感は完全に払しょくされ、実にスムースで心地よい音が出ています。特徴的なのは、過去に思うように鳴らなかったCD、例えばカラヤンの一連のグラモフォン録音が気にならなくなったことです。たとえば、リヒャルト・シュトラウスのメタモルフォーゼン、あるいは新ウィーン学派のCD(当初の発売時は3枚組のレコードでしたが、CDはその一部のみ収録した再発売盤)など、ドンシャリ傾向で平面的と思われた音が、弦の重なりを感じさせる分厚い響きとして聞こえてきます。特にメタモルフォーゼンは弦楽合奏曲ということもあり、以前は次の「死と浄化」で管楽器が入ってくると、何かホットした感じがしたものです。

 もう一つ演奏会でいつも感じるのは、生の音は非常に乾いた音ということ。秋から冬という季節の影響もあるのでしょうが、拙宅のオーディオは生に比べて、しっとりした感じの音が出ます。これまではそういった違いに気づかなかったのですが、恐らく楽団やホールの違いということではなく、拙宅のオーディオがそのようにチューニングされてきたということではないかと思います。実はこれらの変化には、CDプレーヤともう一つ要因があります、それはパワーアンプに使っている電源ケーブルです。
 電源工事をして、コンセントをラックの裏側に並べたため、オーディオ機器とコンセントの距離が数十センチとなりました。従い、ケーブル処理に余裕を持たせても、電源ケーブルは1mもあれば十分です。パワーアンプとプリアンプにはキャメロット・テクノロジーのPM-800を使っていますが、長さ2mと1.5mのもので、いずれもラックの下にとぐろを巻いていました。電源ケーブルは長さは音質に関係しないと言われていますが、ループ状では電磁波の影響もあると思われ、まずは2mの方を半分にカットすることにしました。

 このPM-800は両端にフルテックのFI-25(キャメロットのシールをはがすと、その下に型番が見えます)を使っていますが、PM-1000のようなチューニング機能はなく、単にケーブルとコンセントをつないだだけのものです。従い、メーカの製品とはいえ、ケーブルを短くしても影響はないはずです。まず2mの方を短くしたのですが、カットする前にプラグのキャップを取ると、心線が山盛り状態になっているのが見えました。つまり、心線がプラグにほとんど食い込まない状態で、これでちゃんと接続されていたのだろうかと心配になりました。ただ、ケーブルをカットして、その後自分でやってみてわかったのですが、意外に電源プラグとの接続が難しく、手間取りました。ケーブルの接続はねじ止めなのですが、均等に締まるようにするには、ビスの両側に心線を分ける必要があり、しかもそれを3本同時に固定するのは至難の業です。


 FI-25はまだフルテックのカタログにありますが、透明なケースで、キャメロットに使われているのは形は同じですが、透明ではなく黒色です。いずれも樹脂製ですが、OEMということで、カタログ品とは仕様が異なるのかもしれません

 分解してもう一つわかったのは、FI-25のケーブルクランプがプラスチック製で、実に頼りないものだということ。下の写真はFI-25で、上側は厚みのあるクランプですが、下側のクランプは厚さ1mm程度のコの字型のもので、果たしてこれで太いケーブルを固定できるのだろうかというくらい薄く、しかもちょっとした不注意で割れてしまいました。ケーブルといえども、メーカの製品に手を加えるのは躊躇していましたが、むしろ自分でやった方が確実に接続できるのではないかと思われ、結局、1.5mの方も短くしました。

 しばらくは割れたケーブルクランプをそのまま使っていましたが、(ケーブルの固定は可能)電源プラグとIECコネクターは進化しており、数年ぶりに購入した「ケーブル大全」でフルテックのNCF素材(ナノ・クリスタル・フォーミュラ)が注目されているのを知り、そのNCFを使った電源プラグ(FI-48M NCF)とIECコネクター(FI-48 NCF)いずれもロジウムメッキのものを購入し、これと取り換えました。FI-48は、手に持った感触から違い、ずっしりと重く、クランプもステンレス製で、値段も高価ですが、この違いが音に出なかったら何かが間違っていると確信できるような作りです。下の写真がFI-48で、ケーブルクランプが4個見えますが、実際には内側の樹脂製の2個(一組)は使いません。右側はケーブルとの接続部で、構造はFI-25と同じです。

 FI-48に交換したのはケーブルクランプが壊れた方のみですが、比較ができるのでかえって好都合です。実は交換してすぐ比較したのですが、確かに空間的広がりや音の伸びで差を感じるものの、FI-25でも遜色なく、プリアンプにはPM-800オリジナル、パワーアンプにFI-48 NFCに取り換えたものでしばらく聴いてみることにしました。下の写真はこの2種のケーブルで、上側がFI-48に交換したもの、下側はFI-25です。

 それから約2か月、いろんなCDを聞くうちに、前述したような音の変化が明確に聞き取れ、電源ケーブルの違いを確信したという次第です。基本的な変化は冒頭で書いたカラヤンのグラモフォン録音と同じ傾向ですが、あのコンセルトヘボーでの録音とは信じがたいアーノンクールのシューベルトの交響曲全集(カラヤンの右側のCD)から、柔らかい響きが聴かれるようになりました。加えて、顕著な違いを出したのは声楽やピアノで、オッターの声がこんなに柔らかく優しく聞こえることはなかったし、ピアノも透明感が増して、響きの良い空間の中で演奏しているのが良くわかります。
 こうなると、ケーブルの違いを検証しないと気が済まず、プリアンプに使っていたオリジナルのPM-800(ケーブル長を1mにしたもの)を外し、アキュフェーズのオリジナルケーブルにしました。そのうえで、パワーアンプの電源ケーブルをFI-48に変更したものとオリジナルを差し替えて比較試聴しました。
 比較試聴したCDは以下の通りで、いつも使っているものですが、共通して言えるのは、音場空間がグッと広がること。内田光子のモーツアルトはピアノの音が済んで聞こえ、レヴァインのモーツアルトは音の分離が良くなり、各楽器の存在が際立ってきます。FI-48ではスピーカからの音離れが良くなるようで、それが空間的広がりを感じさせる要因ではないかと思います。もう一つの特徴が音自体の”滑らかさ”で、これが生と比べて拙宅のオーディオは湿っぽいと感じる原因ではないかと推察します。

 今回の改修費用は電源プラグとIECコネクターで3万円程度ですから、これだけの差が出ればその価値は十分あると思います。となると、残ったオリジナルのPM-800もFI-48に代えたくなりますが、どうせ自作するなら、ケーブルも最新のもの(例えばPC Tripple Cなどの新素材)を使い、PM-800は比較のために残す手もあります。最近は電源ケーブルもメーカ製はチューニングしたものが多くなり、20万円もするケーブルが高い評価を得ています。興味がある一方で、今回の経験から言えるのは、PM-800のオリジナルでも十分満足できる音ですし、その違いはよく聞き比べないとわからない程度です。最高級と言われる電源ケーブルではもっと大きな差があるのかもしれませんが、そこまで投資する必要はないのではないかという気がします。

 最後に触れておきたいのが、オッターのバッハ。オッターといえば知的な歌唱で知られたベテランで、これまで声そのものをチャーミングに感じることはなかったのですが、FI-48では実に柔らかく、かつ澄んだ声が聴けます。このCDはカンタータや受難曲のアリアを集めたもので、高揚感、切なさ、あるいは切々とした訴えなど、実に多彩。これだけで音楽の持つあらゆる可能性を示唆するような曲集です。特にBWV 35「霊と心は驚き惑う」は個人的に思い入れのある曲ですが、残念ながらこのCDには1曲目のシンフォニアしか入っていません。第2曲のアリアを聴きたかったと思う一方、バックのコンチェルト・コペンハーゲンがこれまた生き生きした演奏で、アリア集にもかかわらず、管弦楽のみのシンフォニアを入れたのは納得です。以前、仕事で赤道直下の孤島に滞在した時、テレビもネットもない貧相なホテルで、i-Phoneに録音したこのBWV 35を、寝る前にまるで精神安定剤のように聴いていたのを思い出します。(2021年3月)

PC-Tripple-C

 前回のレポートで書いたようにFI-48の効果が予想以上のため、破損していない方のコネクタも交換することにしました。しかし、どうせなら電源ケーブルも最新のものを試してみたくなり、PM-800はそのままとし、PC-Tripple-C(システムケーブルのページに記載した連続結晶高純度無酸素銅)と、追加のFI-48を購入して新規の電源ケーブルを作ることにしました。電源工事でコンセントとオーディオ機器との距離が短くなったので、電源ケーブルの長さは1mもあれば十分なので、経済的にも有利です。このPC-Tripple-CはPCOCC(単結晶状高純度無酸素銅)が生産中止になって、その代わりということで新規に開発されたケーブルですが、それについてはシステムケーブルに記載していますので、参照ください。
 そのPC-Tripple-Cですが、購入したのはクリプトンのPC-HR1500M-Tripple-Cで、1m単位の切り売りケーブルです。直径は14mm弱で、さほど固くなくて扱いやすいのですが、外皮を覆っているネットがほどけ易く、要注意です。最初はこのネットを先にカットしてからテーピングしたのですが、そうすると先端がほどけてしまい、きれいに仕上がりません。先に被覆をはがす長さ(3cm程度)でテーピングして、それからネットをカットするのがコツです。

 この新規ケーブルができたところで、それまでパワーアンプに使っていたPM-800(コネクタはFI-48に交換)と差し替えて試聴しました。比較のため、プリアンプの電源ケーブルはオリジナルのキャメロンPM-800(1mにカット)のままです。コネクタのみを交換した時と違い、今回は一聴してその違いがわかりました。まず、音自体が非常にクリアで、透明感あふれた感じになります。クリアというと、音が薄いと受け取られるかもしれませんが、そのようなことはなく、全帯域で引き締まった、緻密な音が聞かれ、特に低音域での締まり方が顕著です。その違いはまさにシステムケーブルをアコースティックリバイブのXLR-1.0tripleC-FMに代えた時と同じ感触で、その時にも感じた、クリアでありながら鋭くはならないというのが、今回も当てはまります。考えてみれば、キャメロンのPM-800はもう15年くらい前の製品ですので、最新の電源ケーブルと比較すれば差がでるのが当然と思います。

これはオールド・ファンには懐かしいCDですが、コルボのモーツアルトレクイエム。まさに古き良き時代という感じで、こんなにのんびりした演奏だったんだと改めて思った次第。1975年のアナログ録音で、確かに鮮度は落ちますが、その演奏同様、寛いで聴ける良さがあります。今月レクイエムの演奏会に行って、このCDを思い出して聴いてみたのですが、以前に比べて空間的プレゼンスが増し、各パートの動きが聞き取れるようになっているように思います。(ケーブルを戻しての比較はしてません)
 これだけ顕著な差がでると、コネクタをFI-48に交換済みの方も、PC-Tripple-Cに代えたくなり(ケーブルとコネクタはねじ止めなので分解も容易)、結局、電源ケーブルはPC-Tripple-C+FI-48の新規ケーブル:2本と、オリジナルのPM-800:1本の、計3本となりました。追加で制作したPC-Tripple-Cですが、最初にプリアンプに使ったところ、確かに透明度はアップして、ティンパニーは締まりがよくなるものの、期待したほどではありません。パワーアンプの時と同様、緻密で低音域の解像度は上がっているのですが、クリアーさが増す分、線が細くなる印象もあります。パワーアンプでの変化が大きく、その延長を期待していましたが、PM-800とどちらが良いか、そう単純ではなさそうです。

 そこで、プリアンプの電源ケーブルは元のPM-800に戻し、PC-Tripple-Cを、音の入口であるCDプレーヤに使ってみました。上の写真はその時のものです。確かに見通しの良い、澄んだ音がするものの、いささかクールさが勝るようです。オーディオとしては明らかに高性能なのでしょうが、802SDがモニター的に聞こえます。
 CDプレーヤの電源ケーブルはORBのBrave Force Core-3を使っていますが、こちらに戻すと、解像度は落ちるものの音に暖かみがあり、安心して聴いていられる良さがあります。電源ケーブルに限らず、高性能の機器が必ずしも心地よい音につながらないのは何度も経験済みですが、今回も同じことと言い切るのは時期尚早かもしれません。ケーブルもバーンインの効果があるでしょうし、FI-48に代えた時も違いが判別できるまで2か月くらい要していますので(リスナーの感度が鈍くなっているのも一因)、当面はCDプレーヤで鳴らし込んでみることにします。(2021年4月)