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DG-68

 アキュフェーズのデジタルイコライザーDG-48を導入したのは2009年でした。その後はこのHPでも再三登場し、拙宅のオーディオシステムに於けるコントロールセンターのような役割を果たしてきました。そのDG-48も購入からすでに12年も経過し、DG-58を経て現在はDG-68にバージョンアップされています。そろそろ替え時と思いつつも脇役ですので、あまり気にすることもなく過ごしてきました。それが急にDG-68に換装するきっかけとなったのは、以前から聴きたいと思っていたソナス・ファベールのアマティ・トラディションの試聴でした。たまたまオーディオユニオンのサイトで昨年発売されたオリンピカ・ノヴァXとアマティ・トラディションが同時に聴けるということを見つけ、早速試聴を申し込みました。
 両者の比較はこのページのテーマではないのですが、ついでに触れておくと、オリンピカは実に延び延びとした屈託のない音で、広がりも十分。くつろいで聴くにはぴったりのスピーカです。しかし、アマティ・トラディションに切り替えると、はるかに緻密で締まった音が聞こえ、ステレオサウンドの評の通り、オーディオファンも満足できる高性能な音を備え、なおかつ音楽を聴くのにふさわしい親しみやすさがあります。これなら音楽を楽しみつつ、オーディオの楽しみも味わえるわけで、これに比べると、B&Wの802SDはよりモニター的な位置づけというのが良くわかります。

オリンピカ・ノヴァX

アマティ・トラディション

 オリンピカ・ノヴァXはあえて802SDから代えるには及ばない思いましたが、アマティ・トラディションなら最後のスピーカ選択にふさわしいと思いつつも、802D3の後継機種が来年発表になるというアナウンスも気になり、もう少し待とうかと思案していました。そんななかで、DG-68の話が出て、DG-48との音質差は非常に大きく、スピーカの交換よりも、DG-68への換装を優先した方が良いのではないかというアドバイスがあり、まさに気になっていたところで、衝動買いとなってしまったという次第です。
 そのDG-68ですが、基本的な機能はDG-48と同じですが、GUIがかなり進化しています。進化というより、ホームボタンの追加に見られるように、スマホなどのイメージに近くなっています。ただ、メモリーの呼び出しの後、元の画面に戻るには、以前のようなEXITボタンではなく、ホームボタンを押して、再度、画面を選択する必要があるところなど、すべての操作をホームボタンに集約するコンセプトは理解できるものの、EXITボタンの方が、一度のクリックで直前の画面に戻れて便利でした。

 もう一つの特徴は、梱包箱に別添されている「お客様へのお願い」と題された封書で、これには「スムーズ・ヴォイシング」設定のお勧めが書いてあります。アキュフェーズはDG-48の頃から、スピーカや部屋の特性を生かしたヴォイシングという手法を勧めていて、DG-48でもその有効性を確認していました。今回、わざわざそのような書面を追加したのは、まだ目標カーブをフラットにするヴォイシングをするユーザが多いのか、あるいはスピーカを破損するような事故があったのか、そのあたりの真意はわかりません。DG-68ではその「スムーズ・ヴォイシング」がメニューにあり、ボタン一つでできるようになっています。下記はその結果です。なお、これもDG-68で追加された機能ですが、画面のコピーをUSBに保存することができ、スマホで画面の写真をとるよりきれいですし、何よりもカメラと画面が平行になるのを気にしなくて良いのは楽です。

 上の画面のイコライザー・カーブはDG-48の時のものです。設定パラメータもDG-58以降はUSBメモリに保存して引き継ぐことができますが、DG-48ではUSBのポートがないため、DG-48の画面を写真で撮っておき、それを見ながら、DG-68で再設定しています。この状態での音出しでまず気づいたのは、すっきりと見通しが良くなり、反応がとても早くなったこと。オーディオ用語で良く言われる、ハイスピードの音を実感しました。恐らくADCやDACのレスポンスが良くなっているのではないでしょうか。いつも試聴に使う、内田光子のモーツアルトのピアノ協奏曲 第20番では、これほどピアノとオケが分離して聞こえることはなかったし、コンサートホールでの、グランドピアノらしい音が聞こえてきます。ピントが合った音でありながら、しなやかで、音楽が実に生き生きと鳴ります。もう一つ例を挙げれば、同じ内田光子とクルト・ザンデルベルク/バイエルン放送交響楽団によるベートヴェンのピアノ協奏曲第5番。あまり良い録音ではないのですが、クリアで力強くなり、これならベルリン・フィルとの新録音を買うには及ばないと思いました。一年前のK-01 XD導入時も、スピーカの配置を変えたりしていますが、今回のDG-68では音楽の印象が変わってしまうという、より大きな変化を実感しました。

 DELAのミュージック・ライブラリ N100のレポートに書きましたが、このDG-68はN100と同日に到着したため、一か月ほどはN100のライブラリー作りに手間取り、最初に設定したスムーズ・ボイシングのまま使っていました。ただ、イコラーザについては、DG-48の時にあった、100〜200Hzでの凹みはフラットにしました。DG-48の時は低域のブーミーさを感じることがあり、その調整として入れたものですが、DG-68ではトランジェント特性が良くなったせいでしょうか、低音域での歯切れがよくなったので、ここはフラットにしました。それが下の状態です。N100のレポートで書いた、テレビの音がDG-68を通すことで悪化したという現象はこの時のもので、これだけ高域を下げると、もともと解像度の劣るテレビの音がより冴えない音になるというわけです。

 N100が一段落したところで、あらためてDG-68に注目して聞いたところ、どうもDG-48の時のバランスとは少し違うように感じられ、また特定のCDで高域がきつく感じられることもあります。そこで、まずはDG-68にプログラムされたスムース・ボイシングと、DG-48の時に設定していたマニュアルでのボイシングとの差がどの程度あるのか、試してみました。下図がその結果で、上段がスムーズ・ボイシングで、下段がマニュアル・ボイシングで、左右はそれぞれ、左チャンネル、右チャンネルです。これらは驚くほど似ており、さすがアキュフェーズが推奨するだけのことはあると実感しました。ただ、良く見るとマニュアル(下段)の方が、100Hz以下のレベルが、よりブーストされており、また2〜3KHzあたりの落ち込みがわずかに大きくなっています。この違いは、スムース・ボイシングで感じた高域のきつさにも関係していると思われます。

スムース・ボイシング(左)

スムース・ボイシング(右)

マニュアル・ボイシング(左)

マニュアル・ボイシング(右)

 念のため、DG-48のカスタム・ボイシング(DG-48ではカスタムと呼んでいました)の結果とも比べてみました。DG-48の時の目標カーブは残っていないため、DG-68の測定結果から新たな目標カーブを作っていますが、ボイシング結果は見事に一致しています。マニュアル・ボイシング時の目標カーブは、スムース・ボイシングと違い、自分で設定しますので、低域をできるだけフラットにしたいという意図が反映されています。DG-48から換装する時は、当然ながら比較に必要なパラメータを保存しておく必要がありますが、このHPへの記載のために、過去の経緯も含めてすべて記録済みでしたので、大いに役立ちました。DG-48は10年以上も馴染んでいますので、その設定をベースにするのが、確実かつ早い方法です。

 とはいうものの、すでにイコライザー・カーブを変更したように、DG-48とDG-68の特性の違いもあり、DG-48とまったく同じにしても、それが最適とは限りません。その点はボイシングについても同様で、DG-48と同じマニュアル・ボイシングにすると、最近発売されたブロムシュテット/ゲバントハウス管弦楽団のブラームスでは、低音が過多となってしまいます。低音が豊かなのは、ゲバントハウス管弦楽団の特徴のようで、このCDはペンタトーンですが、QUERSTANDから出ている5枚組のシリーズ物も同様の傾向があります。低音が過多と感じる時のスペクトル特性を見ると、50Hzあたりがピークで、ここまで低い周波数に分布している例は珍しいのではないでしょうか。

 一方、テレビの音声については、これまで聞いた限りではマニュアル・ボイシングの方が好ましいようです。できればCDとテレビでDG-68の設定を変えるのは避けたいのですが、それぞれの最適化を追求すれば、やむをえないかと思います。DG-48も、K-01 XD導入時にマニュアル・ボイシングを採用して、始めてその真価を発揮したように、DG-68も、CD/TVの両ソースに対する最適化には、まだしばらく時間を要しそうです。(2021年7月)