AudioRock:不定期ダイアリー

2013年9月12日(木)映画「風立ちぬ」観てきた

プロフェッショナル仕事の流儀「宮崎駿特集」が思いのほか良かった。宮崎駿の人間くささだけに焦点をあてていたら、DVD購入で済ませていたかもしれない。スタジオ内試写での宮崎駿が「自分の作品で初めて泣いた」というだけでなく、宮崎駿のアニメーション制作に対する姿勢と問題意識と最後の映画作品だというのが劇場に足を運ぶきっかけになったのだと思う。

映画「風立ちぬ」のサウンドトラックは、洋楽ロックの合間に聴いていた。スタジオジブリ製作の長編アニメ映画での宮崎&久石コンビは今作をもって最後になってしまった。映画監督と作曲家というコンビを最初に意識させたのが宮崎駿と久石譲だった。「ナウシカ」「ラピュタ」「トトロ」と続けば、コンビ以外のなにものでもない。

劇場に足を運ぶ以前に音楽を聴いて思うのは、同スタジオ作品の「魔女の宅急便」や「ハウルの動く城」に似た雰囲気を持っているということ。作曲が同一人物なのだから似た雰囲気なのは当たり前のように感じるかもしれないが、「ナウシカ」「ラピュタ」「トトロ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「崖の上のポニョ」は久石譲の作曲だが雰囲気のことなる音楽作品に仕上がっていると思う。

「紅の豚」の音楽が思い出せないが、Wikipediaによれば「第一次世界大戦後でこの物語は世界恐慌によって国民生活は破綻寸前の荒廃と混沌の時代が舞台となっている」とのこと。「風立ちぬ」との音楽的つながりがあってもよさそうなものだが、残念ながら宮崎駿長編アニメ映画の中で「紅の豚」サウンドトラックだけは所有していないので確認が出来ない。

映画というか映像をみて感じたのは、空に覆い被さる黒い煙と火の粉がいくつも重なり合うさまは「ナウシカ」での怒りに満ちた王蟲の大群、燃え盛る町並みは火の七日間。倉庫に眠る墜落した戦闘機は、「ラピュタ」に出てくる、起動する前の残骸と思われていた飛行兵(ロボット兵)を彷彿とさせる。そして、飛行機が群れをなして飛ぶさまは「紅の豚」のワンシーン。

主人公の堀越二郎役に庵野秀明はどうなのだろうか、という思いはあった。「宮崎駿特集」でのアフレコシーンで「何を考えているのか分からない感じが良い」と言っていたのが心に引っかかったのだが、全くあり得ないキャスティングかというとそうでもなくて、聞くに堪えないといった印象にならずに済んで良かった。主人公とヒロインの脇を固める声優陣(テレビでも名前を拝見する有名な俳優)は違和感なくて良いキャスティングだったのではないか。

終わり方についての意見はそれぞれあるにせよ、こういう終わり方もあるよなという範疇に収まっていると思う。宮崎駿も「戦闘機を作る物語ではない」といっているし、ラブストーリーなのだから72才の若々しい感性の結果として観たらいい。場面によっては「うるうる」来そうになったし、ゾゾゾゾゾっていう感じで「鳥肌」が立つところもあった。主人公とヒロインの二人のシーンでは「グッ」とくる場面も良かった。なによりも、エンドロールでながれる荒井由実の「ひこうき雲」の印象が観る前と後で変わることに驚いた。

いつ終わるのだろうと思わずにはいられない映画をみることもあるけれど、宮崎駿監督作・長編アニメーション映画の最後としては、良い作品だったと思えて良かった。※「たばこ」のシーンが確かに多いのだけれど、それをみて吸ってみたいとは思わなかったし、作品の時代背景を無視して「たばこ」だけを語ると「はだしのゲン」と同じような議論になってしまうのではないかと思った。

ちなみに「宮崎駿特集」の中で発する本人の言葉で「ファンタジーなんか作ってる場合じゃない」っていうのが問題意識を強く感じられて良かった。だからこそ「宮崎駿」なんだと思った。